第2話

 あの日……運命の審判の日とも言えばよいか……


 ゲームの世界に1500万人の人々が閉じ込められて、ゲーム内では、はや2年の歳月が過ぎた。


 閉じ込められた人達は受け入れがたい現実を受け入れ、今もこの世界で囚われ続けている。


 そんな世界で、囚われた人達は今どうしているのか…


 それはこれから起こる場面で分かる事だろう。


 ―――


 ここは181界の森が生い茂るフィールドエリア。


 ○○界とはこのゲームのエリアの名称で、全1000界あるといわれており、閉じ込められた人達は1000界に到達したらゲームの世界から解放される。しかしゲーム内で死んでしまうと、それは本当の死を意味する。


 この世界では1界1界がバカ広いオープンワールド形式のフィールドで、そこにいるボスを見つけて倒すことで上の界へと行ける。上の界とは言っても断層や階層みたいなものではなく、単純に別フィールドへと移れるだけなのだが。


 そんな広いフィールドで、森が生い茂っている181界では今4人……いや3人の若者が界のボスに挑んでいた。


「ちっ!やっぱこの大木がボスだったか!」

「散開して叩くぞ!隙を見つけ次第攻撃スキルを打ち込め!リキャストタイムに注意しろ!ライトが来るまで絶対耐えるんだ!」

「了解です!私がヘイトを稼ぎます!フィーバータイム発動!」バッ!


 3人の男女が無数の根を操る大木のモンスターに戦いを挑んでいた。


 一人は剣と盾を装備した闘技場の戦士を思わせる見た目の男性で、もう一人は短剣を片手に持ち、ポーチ等の軽装備でボスに特攻をしかけるいかにも冒険家みたいな身なりの男性、そしてもう一人は神官みたいな正装のいかにも回復魔法を振り撒くような見た目をした女性である。


 その3人の内の女性神官が手を上に翳すと、頭上に半透明のミラボールの幻影が現れて、昼下がりの森を場違いもいいところだと言わんばかりに七色に照らす。


 すると大木の根が一斉に女性神官を狙い、その隙に戦士と短剣使いが大木に攻撃を仕掛ける。


 2人は何度も何度も大木本体に攻撃を仕掛け、ある程度攻撃をしたあたりで、戦士の見た目をした男性が仲間2人に声を掛ける。


「SGが溜まった!いつでも打てる!マーチ!SG強化魔法の準備を!一虎お前はどうだ?」


「くそ!通常攻撃が!くっ!攻撃スキルも出す暇がねぇ!とっ!?ちくしょう!ゲージ溜めらんねぇよ!?どうやって溜めたん清太!?」


 一虎と呼ばれる短剣使いは、いつの間にか大木の攻撃を短剣で防ぐのに手一杯で攻撃どころではなくなっていた。


「ヘイトを稼ぐスキル使ってるのになんで一虎君に攻撃が?まさか!?一虎君あの指輪外してないの!?」


「指輪ぁ!?これのせいかよ!ちくしょう!」


 そう言うと、一虎と言われる青年は地面に向かって紫色の小さな輝きを放つ指輪を地面に叩きつける。


 すると指輪は光の礫を弾いて消える。


 アイテムや装備等はどんな状況でも捨てる事が出来る。光の礫はその時に見られる現象である。


 ちなみにこの指輪、【遊び人の指輪】と言う名前の装飾装備で、効果は『全てのパラメーターの数値を+3にするが敵に狙われやすくなる』というもの。


 この世界では頭、両手、両足、上半身、下半身に各々装備ができて、そこに武器や盾を持つことが出来るが、更に別枠で装飾装備と言われるものがあり、それは身体中の装備とは別に最大1つまで付けられる仕様がある。


 装飾装備の用途は様々だが、今現在話にある【遊び人の指輪】については、全てのパラメーター+3になったところでステータスに大きな違いは生まれないし、狙われやすくなるデメリット効果も使いようによっては便利だが、それは魔法やスキルで代用でき、かつ数少ない装飾装備枠を一つ埋めてしまうので、死と隣り合わせのこの世界では、この【遊び人の指輪】早い話が


 完全にゴミである。


 なら何故一虎は装備しているのかと言われると、紫色の光が格好いいからという頭空っぽな考えだけで特に意味はない。


 ボス退治や界攻略を行うなら、まず装備しようなんて考えは起きない。


 それを装備している一虎は、やはりどこか抜けているのだろう。


 そんな一虎は大木の根が引くと同時に大木との距離を取る。


「だからやっぱし181界を1パーティだけじゃ無理だって言ったんだ!最低でも1チームが良いって言ったんだ!なんで募集募ったのに誰も来ないんだよ!」


「タイミングが悪かったんだよ!嘆くな!というかお前は無理だなんて言ってなかったろ!『早く解放される為に俺達だけでも行こうぜ!それにライトもいるし(笑)』って言ってたの覚えてるからな!」


「一虎はそういう人間ですから……はぁ。ほんとバカですよね………あーあ、一虎見てると洋梨が食べたくなってきました」ジトッ…


 2人は一虎に冷たい目線を向けて罵詈雑言を浴びせる。


 ちなみに洋梨は、能無しと掛けている。


「マーチちゃんまでひでぇ!?なんで俺ばっか責められてんの!?皆賛成派だったじゃん!?それにライトがどっか行ったのがそもそも間違いだろ!あいつ何してんの!?ライトおおおお!」


 3人が言い合ってると、女性神官改めマーチが発動していたヘイトの魔法スキルが効力を消失し、大木は更に攻撃のバリエーションを増やして3人に攻撃を仕掛けてくる。


「しまった!?重ね掛けフィーバータイ―――」


 シュンシュンシュッ!!


「がっ!?」「ぐっ!?」「っ!?」


 油断したマーチが再びヘイト魔法を使おうとすると、それを防ぐかのように、バチーンっと3人の身体に大木が振り回している根が当たる。


「い、痛い……冗談抜きの痛さ……」


 マーチはお腹を抑えて蹲り、他の2人も攻撃が当たった足と手の箇所を抑えて地面に転がる。


「これが女性の方からの攻撃なら最高のご褒美なのに……くそ!!」


 そう言うと清太は地面を心底悔しそうに殴りつける。余裕そうである。


「……っつ…言ってる場合か!お前ほんと……はやくHP回復しねぇと……あ、あれ?身体が動かないぞ!?」


 よく見ると3人の身体には薄く電気が走っており、それは状態異常の【麻痺】状態に陥っている事を意味していた。


【麻痺】は10~30秒の間身体が痺れて動けなくなり、その間スキルも魔法もアイテムも使えないというソロプレイヤーには致命的レベルの厄介なものだが、仲間がいれば麻痺治しのアイテムで普通に治してもらえるのでパーティに関してはそこまで驚異になりえないのだが……


 パーティー全員が麻痺になってしまったとなれば話は別だ。


 誰も何も出来ない。


「麻痺だ……オワタ………………お父さんお母さん……私このゲームやれて……しあわ……超後悔してます……返して……私の人生返してえ!!」


「「えぇ……」」


 マーチは早々に諦めモードに入り、横たわった状態で涙を流しながら最悪な捨て台詞を吐く。


 その言葉に清太と一虎はドン引きの目を向ける。


 とはいえ、そうこうしてる内にも大木は根を這わせながら麻痺して横たわっている三人に近づいてくる。


 清太の額から汗がジワリと流れ出る。


 まずいまずいまずい!3人同時に麻痺するなんて!麻痺中はアイテムの使用に制限が掛かるから麻痺直しのアイテムが使えない!しかもHPが一番低いマーチは諦めモード!知らぬ間にHPレッドゲージの一虎はパニック状態!俺もすぐには動けないのに敵に一番近い!八つ裂きにされる!どうすれば!?


 清太は打開策を考えるがすぐには思い付かず万事休す。


 ズシンズシンと死の音が近付いてくる。




「……最後の言葉が恨み辛みで良いのかいマーチ?」




 その言葉が聞こえたと同時に3人は目を見開き、その声のする方向に辛うじて動かせた首を向ける。


 そこには黒髪で、左手に銀色の剣を右手には金色の剣を持っている青年が立っていた。


「お、おっせいわ!バカ野郎おおお……助かったああ……ライトおお……」

「いやほんと。おかげでマーチの最悪な本音聞いちゃったよ」

「…………」


 清太以外が涙を流してその青年を見ていた。

 そして3人共さっきまでの絶望的な顔から心底安堵した顔になり身体を楽にする。


 彼なら後は全て任せられるだろうといった具合に。


「悪い悪い。数日間現れないボスを出現させる方法が、もしかしたらあの4本あった木だと思って切り倒してたんだよ。現れてるという事は俺の予想は当たりだったようだね……3人の無念……今俺が晴らす!!」


「「「いや死んでねぇよ!!?」」」


 3人がツッコミしたのを皮切りに、ライトは「ははは」と3人にニッコリ笑い掛けて大木に走り出す。


「特異スキル…【・・・】【・・・】」


 ライトがそう呟くとライトの身体が光に包まれ、そのライトの背中から光の手が現れ、両手に加えて光の手に剣が更に2本追加される。


 合計4本の剣を持ちライトと呼ばれる青年は大木に向かって走っていった。

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