第43話 神器と異能 Second Square

「キミは良いものをお持ちで!」


「そっちこそ! 厄介な能力だ!」


再び攻撃が来た!


岩が浮かび上がった後、何かに引っ張られるように、凄い勢いでこちらに飛んできている。


だが、この程度の攻撃ならなんてことはない。


引き抜いた……。いや、自ら目標に向かって飛び出した太刀が、岩を素早く切り刻む。


「切り刻んだ!? でも、残念ながらそれは悪手ってやつだよ!」


なるほど、細かくなった岩が、そのままこちらに向かってきている。


「俺の能力は重力を操るんだ! 細かく砕いたところでさらに鋭くなるだけだ!」


「なるほど、なら避けてしまえば良いわけかな」


僕は太刀を握りしめ、高く舞い上がる。


「なら、重力の向きを変えるだけだ!」


今度は上に向かって岩の破片が飛んでくる。


「いくら逃げても構わないけど、どこに行っても当たるぞ!」


なるほど、どうしようか。


さっきから相手の動きを見る感じ、一つの対象、一つの方向にしか重力を与えることが出来ないとみた。


なら、本体の方は無力だよな。


太刀に掴まりながら、クエアの後ろに周り込む。


「なっ! 危ねっ!」


走ったところで、攻撃から逃げ切れる訳がないと判断したんだろう。


自分に重力をかけて、素早く、遠くに逃げた。


すると、さっきの岩は本来の重力に従って地面にボトボトと落ちていった。


やはり、扱える対象は一つしかないようだ。


続いて、地面に降りてすぐに、太刀をクエアに向かって飛ばす。


対象に対して真っ直ぐと飛んでいく。


「そんなの当たんないって!」


地面が隆起し、刀はそれに刺さってしまった。


すぐに刀を抜き、今度は周り込むようにして隆起した地面を避け、刀を飛ばす。


しかし、気づいたときにはクエアは空にいた。


「イマイチ決め手に欠けるよな……。ならば!」


すぐに地面に降りたクエア。すぐさま刀を向ける。


しかし、次の瞬間、浮いていた太刀が地面に叩きつけられた。


「太刀さえ封じてしまえば、お互い能力無しの実力勝負だ!」


「なるほどね、でも、それはどうかな?」


向こうから走ってきて、飛び蹴りを僕に一発。でも、これぐらいならなんてことない。腕で防ぎながら跳ね返す。


さっきの戦いからは想像もつかないが、唐突の肉弾戦が繰り広げられている。


今度はこっちから。間髪いれずにパンチを一発、勿論防がれるだろうから、すぐに拳を戻し、素早くもう一発。


これが上手く入った。みぞおちに入った拳を、さらに強くグリグリと捻りこむ。


「ガハッ……」


しかし、当然反撃される。あっけなく顔にパンチを喰らい、口の中が切れた。


だが、気を抜かず離さない。次は足を上げ、膝を曲げた後、素早く伸ばし、渾身の蹴りで体の芯を揺らす。


続いて右、左、右、左と、連発パンチ。


しかし、防がれてしまう。でも、確実にダメージは与えている。拳は止めずに、何度も、何度も殴る、そして、蹴る。


「ここだッ!」


しまった! 腕を掴まれてしまった。


身体を引き寄せられ、弧を描くように僕の体が一回転した。その先には地面が待っていた。


頭から落ちた。急いで態勢を整える、が、頭から熱いものが滴り落ちる。


その後、急に体が重くなった。


体の怪我とか、体調とかの比喩ではなく、実際に少しずつ地面にめり込んでいく。


倒れて、仰向けになってしまう。


「ここまで弱ってれば、あの刀も飛ばせないだろ! これで勝利だ!」


なるほど、重力が体にかかっているのか。刀をもう操れなくなるように一気に畳み掛けたらしい。


しかし、残念ながら、お相手は大きな勘違いをしているようだ。僕の力が刀によるものだけだって。


内臓が潰れそうだ。いや、潰れる。その寸前だ。だから出来る限りありったけの力を込める。


「修繕!」


叫び、体に力を込めた途端にボロボロになっていた体が全快する。


そして、急いで刀をクエアに向かって飛ばす。こちらが回復したことには気づいていないようだ。何かを叫んだというようにしか思わなかったのだろう。


「潰れろぉぉ!!!」


体が潰れそうになっているのには変わらない。速く……もっと速くいけ!


「うおぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!」


「潰れろぉぉぉぉぉ!!!」


グサっ……。


ポタポタ……。


「な……」


体が一気に楽になった。なんとか間に合ったらしい。


ドボッ!


うぐっ……!


思いっきり吐血した、そして、急に平衡感覚が失われる。


もう体を治すだけの力は残っていない、もうここまでだ。


そして、クエアの方を見ると、刀がグッサリと刺さっている。急所は外れているようで、死には至らないだろう。


残念なのか、ひと安心なのか……。


人を殺さずに済んだという気持ちと、殺すことが出来なかったという気持ちで葛藤が生じる。


「こ……ここは引き分けだ。また今度戦おう」


「くっ……。魔王直属の四人衆の一人をここまで追い詰めるとは、それも、勇者じゃないやつに……」


「正直、この刀の力のおかげだ、危うく僕は殺されていたよ」


体を直すスキルのことは言わない。再度戦う相手なら、手の内は明かさないほうがいいからね。


「とりあえず、今日はここまでだ。お互いにトドメを刺す気力も残っていないようだからな……。来てくれ、リーディン……」


リーディン?


すると一瞬、クエアの隣に頑強な男が見えたような気がした。そして、二人とも消えた。


恐らく……。他の魔王直属部隊だろう。なら、四人のうち、二人は重力操作、瞬間移動という認識で良さそうだ。


これだけでも、今回の戦いは大きな収穫があった。


まさか、旅の途中でこんな強敵に出会うことになるとは……。


息を整え、刀を手元に戻す。


刀は力を失い、錆びつく。すぐに岩のようになってしまった。


「はぁ……。もう今日は戦えないかぁ」


この刀との出会いはいつだったか……。


さて、そんなことはいいから、野宿の準備だな。


今日は川に行こう。そして、体を清めてから、冷やした野菜やらでゆっくり体を癒そう。


手のひらを見てみる。


血まみれだ。


こんな姿、ヴェルに見せたらなんて言うだろうか……。


『え〜? お兄ちゃん鼻血出たのぉ〜? なんか変なコト考えてたんでしょ〜』


いや、ヴェルはこんなこと言わないな。


『どうしたの!? 大丈夫!? 死なないで! お兄ちゃん!!』


これでもない。


『そんなにちがダラダラで……。どこでどんなころびかたしたらそうなるの? でもまかせてよ! ごほんでよんだんだ! すぐになおるくすりがあるんだよ!』


これかな。まあ、そんなことはいいや。いや、良くない? いや、いいか。


くだらないことを考えているうちは痛みが和らぐ。やっぱり、ヴェルは僕の心の支えになっているんだろうな。


早く会いたいなぁ。でもダメだ、僕には大きな使命がある。そのためにも、もっと強くならなくちゃいけないんだ。


そう、これも、世界の為に……。いや。


もっと大切な、家族のために。

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