第13話 Departure Time

カチャ...カチャ...カチャ...


とてとてとてとて...


歩幅の違う足音...


今歩いているのは森の中、街を出ればモンスターのいる危険区域だ


しかし、この辺りに居るのはスライムくらい。強くてゴブリン。なんてことはない


普通なら、強くなりたいならレベルの高いところ、それこそ前に行った氷山あたりに行くべきだと思うかもしれないが


今回は旅に出るにあたって、戻る時にしかワープは使わないということにした


旅というのは、無駄に見える寄り道から何かを得たりすることもある。俺の親父もそんなことを言っていたことがあったっけか


焦っていると身近なものに気づけない。ケインの追放で学んだことでもある


と、まあ悠長に歩いているわけだ


のんびりしていると、ふとこう思う


「にしても、魔王軍ってのは本当にいるのか?全然見たことないぞ」


のんびりしているのは緊迫感が無いからだ


勇者になってから、いや、生まれてこの方魔王軍を一度も見たことがない


魔王討伐が最終目標というのは分かっているが、あまり実感が湧かないというか


向こうから攻めてこないなら別にこのままでもいいんじゃないか?なんて思っている


勿論、使命を全うしなくてはならないのは分かっているのだが、いかんせん方法も分からない


役員を任されるも、仕事内容が漠然としていて、肩書きだけの存在になる。そんな感じだ


「お兄ちゃん〜そんなことも知らないの〜?」


なっ?


「私も知らないけど...」


ルシアが言う


「同意見だ」


スレイも続けて言う。もしかすると一般人には常識な何かがあるのか...?


生まれつき勇者として扱われていたから、もしかすると...


情報統制?


いやいや、少なくとも一般人に聞けば分かるようなことを規制する必要はない


深いことを考える前に、とりあえず聞いてみる


「じゃあ、お前は知ってるのかよ」


「お兄ちゃん...戦いで疲れてるのは分かるけど...お前って言うのやめてよ...」


「じゃあなんで言えば良い」


「いつも通り、ヴェルでいいよ」


ヴェル...そういえば名前を聞いてなかった


「可愛い名前だね」


ルシアが言った。多分、自分なりに近づこうとはしているのだろう。ヴェルが勝手に遠ざかってしまうだけで...


「お兄ちゃん...口調も変わったよね...」


口調どころか見た目も完全に不一致だろ!


お兄ちゃんが実在する人物なのかが怪しくなってきた...


というか、また無視されているルシアが不憫だ...


「なら、どんな喋り方が良い」


よほど変じゃなければ合わせてやらんでもない


「「ヴェル、今日も鍛錬だ!一緒に山を走ろう!」みたいな」


うわ〜


...


「ヴェ...ヴェヴェヴェ...ヴェルルルル...」


「えー、もしかして言えなくなっちゃった?無理しなくてもいいけど...」


ヴェルに気を遣わせてしまった...


「じゃ...じゃあお兄ちゃんの思うままの喋り方でいいよ、よくよく考えたらお兄ちゃんの喋り方が変わるのもおかしい話じゃないよね!思春期だもんね!」


思春期は...とっくの昔に終わってると思うが


「あぁ、そうなんだ、思春期なんだよリーダーは。妹を意識し始め...」


ガツンッ!


スレイの悪ノリがひどくなってきている


「そ...それよりリーダー...話が逸れに逸れまくってるぞ。魔王軍の話じゃなかったのか」


おっといけない、完全に忘れていた


「じゃあガk」


ペシンッッ!!


ルシアに引っ叩かれた


「じゃあ...お嬢様はご存じで?」


「なんでそんなに他人行儀なの...?」


ルシアの静かな...八つ当たりにも似た怒りを感じた


「普通にヴェルって呼べばいいじゃないの」


ルシアが俺にだけ聞こえるように言った


「なんか性に合わねえんだよ。特にコイツの実兄の喋り方がムカつく、一緒にされたくない」


朝は普通にヴェルなりのお兄ちゃんをやっていたんだが、急に抵抗が出てきた...


特にあの二人のせいだ


いけない、また話が逸れる


「じゃあ、なんで魔王は町に来ないか!」


すると突然、ヴェルが語り始めた


「魔王は町を植民地にしているからです!」


町を植民地に?全くそうは見えないが


というか、こんな小さいのに植民地なんて言葉を知っているのか...とんだオマセさんだな


見た感じ...9才くらいだろうか?


もしかしたら人間じゃなくてエルフなのかもしれない...こう見えて3000歳とか...


耳を見る


が、どう見ても人間のもの。普通だ


「よく知ってるな。学校で習ったのかな?」


スレイが俺の言葉を代弁してくれた


「ううん、学校には行ってないんだー。そのかわり、お家でたくさん本読んでる」


なるほど、好奇心旺盛が故に自分で学ぶ力を持っているのか...いいことだ


妙に饒舌なのも、本好きだからなのかもしれない


「話を戻すね!あ、植民地の説明はいる?」


「いらん」


「一応言っておくと、お肉とか野菜を沢山作って沢山魔王軍にあげてるの!」


魔王軍のために農業や牧畜をやってるってことか?町で細々とやっているのはよく見るが、化け物の軍団に送るとなれば、フィードロットとかプランテーションくらいの規模が必要なもんじゃないのか?


もしかして、魔王軍は少食?


「えとね...つまり、そういうことです!魔王は私たちを金蔓だと思っているから、あえて放っておいてるんです!」


「へー」


普通にタメになった...いや待て、害がないなら別に放っておいてもいいんじゃないか?


モンスター狩で生計を立てている人もいる。モンスターは魔王が解き放ってるって話だし、困る人が出てくるんじゃないか?


「じゃあ魔王は俺たちにとって無害なんだろ?じゃあ別に倒す必要無くないか?」


「いや...それがそうとも言えないんです...」


んー?


「それこそ、魔王が私たちを見逃すようになったのは220年前くらいで、それまでは魔王軍と一般市民はバチバチだったのです...」


そうなのか...


俺は歴史に弱いからあまり詳しく知らないが...


この大陸は俺たちの町の他に、5つ町がある


で、大陸の外は勿論海だ。だが、海の外については詳しく知らない。なんでこの大陸を脱出しないのだろうかとは思っていたが、魔王の侵略が無い今、この島は安住の地になっているのかもしれない...知らんけど...


で、220年前のバチバチだって言ってたタイミングで、なぜこの大陸の人たちは逃げなかったのだろうか


「220年前に冷戦状況になった魔王軍と私たち。対戦状況だった150年間...魔王軍は極悪非道の限りを尽くしていました」


単純計算で370年前か...魔王軍は一体どこから湧いて出たんだよ


「魔王軍は私たちが大陸から出れないよう、今でも結界を張っています。それに、いつまた暴れ出すか分かりません...」


あ!大陸の謎解決した!


「あの...」


ルシアがまたもや耳打ちをする


「この子...話し始めると脱線するタイプじゃ...」


「逆に俺たちは知らなすぎだったんだ、しっかりと聞いておけ」


.........


......


...


「というわけで、チューゼルの戦いが終わった翌年の魔王降臨歴130年、我らが英雄、テザフュスは新兵器を開発!自らその兵器を使って、なんと!グルイルフを殲滅!絶滅させたのです!」


...


...


「あ!そうそう!絶滅っていうのは魔王の作ったその種族を根絶やしにしたってことでね!魔王は魔物を作れるけど、その始祖を複製する形で増やしてるの!だから、強ーいオリジナルの種族と、コピーの種族を全て倒すことによってようやく絶滅ってことになるんだよ!」


...


...


...


モンスター出てこねぇかな...


話が長い...


かれこれ4時間ほど話しているのでは無いだろうか


本の虫ってのはこういうヤツのことを言うんだな...


にしても、大分歩いたな、そろそろスケルトンの1体2体出てきてもいいくらいの場所だと思うんだが...


基本的に、大まかに分けたエリアによって、それぞれのモンスターの傾向がある。


スケルトンが出てくる辺りから一般人には厳しくなってくる頃合いだ


...


「で、その兵器の名前!気になるでしょ!?チベルエラグラドンって言うの!カッコいいでしょ!?!?」


ガサゴソ...


おっ!草むらから物音!ようやく来たか!


グルルルルルルララララララ


なんか変な鳴き声だ、それに、初めて見るモンスター...


オオカミに似ている


まっ、これくらいなら...な


「よし、俺一人で行くぜ」


「油断しないようにな、リーダー」


「...えっ!敵!?」


「お兄ちゃんの戦ーい!みーせーてー!」


ルシアはしっかりヴェルの話を聞いていたようだ


「よっしゃ来い!」


俺は自分の武器...グレイソードを抜いた


「俺の剣のサビとなれ...!」


「お兄ちゃん、なんかカッコつけてない?」


「シーッ!お兄ちゃんは思春期で、そういうお年頃なんだよー、戦いになるといつもあんな感じでね...」


聞こえてるぞスレイっ!


今は敵に集中だ、俺は剣を振り下ろした


が...


シュッ!


え?


剣はモンスターではなく、地面に当たった


グルルルララララ...


コイツっ...疾いッ!

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