第3話 「不調」 Be Free 〜second avant〜


「さて、一気に飛んだんだ、油断するな」


 30階からは主に骸骨系統の魔物が現れる。

 階層ごとに出てくる魔物が変わるのはどういった仕組みなんだろうか。まあ、そんな事はどうでもいい。


「ゴブリンスケルトンか、ここは俺に任せろ」


「攻撃補助魔法!」


「防御力も上げろ、階層を飛ばすのは初めてだ、後のことも考えて、念のためにな」


 にしても、何故あの魔法陣が出現したのだろうか。なにかしらの要因で自然発生したりするものなのか?

 少なくとも長い勇者生活ではたったの一度も見たことがない。

 ケインを追放したことと、何かが重なる。


「うん!」


「おりゃぁぁ!!」


 流石のパワーだ、スレイはパワーに重きを置いた鍛え方をしている。

 オールマイティの俺と補助に重きを置くルシアの三人でパーティーを回してきた。

 とまあ、ケインのお荷物加減を振り返ったところで、スレイの一振りの轟音がダンジョンに響いた。


「よくやった、コレで一掃しただろう」


ケタ・・・・・・ケタケタケタケタ!


「なっ、なにっ!?」


 お、おかしい! あの渾身の攻撃なら40階層までのモンスターは一撃で倒せるはずだ!


「ルシア! 魔法かけ忘れたか!?」


「いや! ちゃんとやってるよ! それよりもっ!」


「なんだ!」


「同時に防御魔法が使えない!」


「なに!?」


 どういうことだ? 慣らさずに来たから思う存分に動けていないのか?


「こちらも、いつもほどの力が出ていない」


「慣らしが無かったからだ! 動いていれば徐々に慣れる!」


「「了解!」」


 ここは、俺の出る幕じゃない。それより不調な二人をなんとかする方が先だ。

 俺は二人の動きをよく見ていた、ルシアの顔が少し厳しそうだ。

 スレイの動きはそれほど悪くなっていないが、それよりもダメージが全く通っていないように見える方が気になる。


「ほら! ポーションだ、魔力が足りてねぇんじゃねえのか!」


「助かる!」


 だが、相変わらずだ、いつも通りの強さじゃない。

 ポーションの力が効いたのか、持ち直した俺たちは、なんとか魔物のやつらを倒した。


「なんでこんなところで苦戦したんだ?」


「すまない、全く分からない、強いて言えばいつもの力が出ないってだけだ」


 だけ、と言うにはかなり怪しい状況だ。


「まあいい、死ぬほどじゃねぇんだ。とりあえず、次からは俺も戦うぞ」


 全く、頼りない仲間だよ・・・・・・。ケインを追放したことがそんなにショックだったか?

 パーティーの膿を取り除くいい機会だったんだ。逆にここでやらなきゃ、これから大変になるだけだ。


「お願い・・・・・・」


 窮鼠猫を噛むって言葉がある。この不調を無視すれば何処かで痛い目に遭うかもしれない。まあ、全くの杞憂のはずだが・・・・・・。

 俺が先頭になって進む、後ろをついてくる二人は少し俯いている。


「お前ら用心しろよ、調子が悪いんじゃあ浅い所で妙に深手を負うかもしれねぇ」


「やっぱり、私たちの調子が悪いのって、ケイ・・・・・・」


 スレイがルシアを見て顔を横に振る、悪い空気をこれ以上出さないようにと考えているのだろうか。


「そんなわけ、ないだろ」


 その時、俺たち以外の足音。


「ほら来るぞ! 戦闘体制!」


 二人は早速武器を手にする。

 現れたのはスカルヘッド、ルシアは何も言わず、素早く補助魔法を俺たちにかけた。

 その時、何かの違和感を感じた。


「ルシア! 手を抜きすぎだ! 不調なりに気張れ!」


 待てよ、まさか・・・・・・。


「そんなこと、分かってる! コレで全力だよ!」


 おい、おいおい・・・・・・。


「嘘、だろ・・・・・・? これで、全力だと?」


 スレイのヤツ、感性が鈍ってやがる、こんな補助でまともに30階層以降に降りれるかよ・・・・・・。

 いや・・・・・・。補助以前に、俺たちの力そのものもいつもより足りていない。

 いつもなら戦い始めると感じる、あの血の巡る感覚がない。


「俺から行く!」


 スレイが走り出した。不調なりに、気合を入れようとしているのが分かる。

 だが、何が起こっているか分からない今・・・・・・。


「待て!」


「おりゃぁあ!!」


 スレイが斧を振りかざす。

 だが。その結果は見えていた。


「ダメだ、全く効かない!」


 クソッ、やっぱりダメか!


「俺も行く!」


 やはり、体の動きがイマイチだ、浅い層の時よりも力を込めているはずなのに・・・・・・。


「たあぁっ!」


 スカルヘッドに直撃、いつもなら綺麗な断面を見せるその骨には俺の剣が刺さったままだった。


「ちくしょぉ! なんで斬れねぇんだ!」


 スカルヘッドはわずかに動いている。魔物は倒せば消えるが、まだ倒しきれていないようだ。

 抜けない・・・・・・。その間に他の魔物が続々とやってくる。


「抜けろよ! 抜けろって!」


 いや、違う。抜こうとするからダメなんだ!

 俺は剣をそのまま地面に叩きつける。剣の先端についていた障害は粒子となって消えた。

 はぁ・・・・・・。焦らせやがって。


「スレイは何やってるんだ、こっちを手伝え!」


「リーダー、かなり、マズいぞ・・・・・・」


「あ?」


 いつのまにか、俺たちは大量の魔物に囲まれていた・・・・・・。

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