最強勇者、追放しました  

北根英二

第1話 「召天」 Angel Bless


「クソっ! クソっ! ──なんで、こんな低難易度ダンジョンなんかで・・・・・・!」


 なんでかって? そんなの分かりきってるさ。

 だが、そんなの認めてたまるか・・・・・・。


「ダンジョン脱出の魔法がもうすぐ使えなくなるよ! ここは一旦引こう!!」


「ふざけんなよ! いつも80階層まで楽勝だっただろ! それがなんで、たった32階ごときでピンチになるんだよ!」


 俺は気づかないふりをする。現実を認めるよりもバカになる方が自分を保っていられる気がしたから。

 だが、残念ながらその仮面は既に剥がれかけている。


「どうする、流石にここは退散した方がいい」


 俺の目の前には骸骨将軍、周りにはスケルトン。


 まだまだ低階層の弱い奴らだ、なのに、俺たちの攻撃に切れ味は無く、いつもの手応えは全く無かった。

 脱出魔法にかかる時間は・・・・・・。

 ここは32階、魔法の準備にかかる時間は深くなればなるほど長くなる。それに俺たちは今、かなりの手負いの状態、一体どれだけかかるか。


 くっ・・・・・・!


「ルシア・・・・・・! ダンジョンから脱出する! 俺たちが気を引いてるうちに準備しろ!」


「出来る限り早く準備するから! なんとか持ち堪えて!」


「もうちょっと早めに言って欲しかった所だが、リーダーの言うことだ、仕方ない」


「無駄口叩くな! 俺は頭をやる! お前はその鈍器を振り回して雑魚を一掃しろ!」


「了解、リーダー」


 骸骨将軍の使う技はスケルトンの召喚が一番厄介だ、無尽蔵に呼び出してくる。今の状況だと、耐久戦に持ち込まれれば終わりだ。

 "アイツ"がいた時はレベル上げの良いカモでしか無かったハズなのに、こんなに厄介だったとはな。


「スレイ!」


「言われなくても分かってる」


 スレイは自慢の得物、ベイルアックスを振り回してスケルトンを退けた。


「流石5年来の仲間なだけあるな!」


「手応えがイマイチだ! 急げ!」


 スケルトンは少し道を開けただけだった。倒したとは到底言えない。


「あと・・・・・・少しッ!」


 この間にも、ヤツはスケルトンを召喚し続けている。

 俺はスケルトンの間をすり抜け、ようやくヤツが射程圏内に入った。


「喰らえ!ジェネラルスラッシュッッ!!」


カ・・・・・・ガガギグァァ!!!


 ようやく倒した・・・・・・。だが、今ので気力が尽きた、もう立っていられない。

 足に力が入らなくなったその時に、俺は腹を斬られるような感覚を覚えた。

 本丸のみを目指してここに来た俺の周りには、当然倒していない残りのスケルトンがいる。

 俺は倒れた。それでもヤツらの攻撃は止まらない。


「もう準備は出来た!! 早くこっちに!!」


「ダメだ、リーダーがスケルトンの群れに囲まれてる! 間に合うか分からない!」


 俺は動けねぇ。

 俺は何度も剣で斬りつけられる。


「ぐぁ・・・・・・ああぁぁ!!」


 言葉にならない、魔物との区別もつかないうめき声しか出なかった。

 腕を動かそうとしたが、動かない。

 というか、俺の体に付いていない。


「やめろっ! うぉぉぉ!!」


 スレイが必死にこちらに来てくれている。だが、間に合わないだろう。既に……俺はズタズタに引き裂かれていた。

 死ぬ間際のそんな時に、急に走馬灯のようなものが頭をよぎった。


 死んでも終わりじゃない・・・・・・。

 この世界には一度死んだ人間が生き返り、凄まじい能力を手にすることがある、と言う話だ。

 魔族や獣人、あらゆる部族に劣る人間の唯一持つ能力らしいが、それはコインの表を100回連続で出すような確率らしい。

 巷では単なるお伽噺に過ぎない言い伝え・・・・・・。


「「そんなことがあれば、良いのにな」」


 もう喋ることも出来ない俺の最後の意識。


 俺の思考は、そこで途絶えた。

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