ニートの僕が異世界で職探しをする!
相生 碧
現実とはこれ如何に
地平線、と呼べるものがない。
違和感の正体はこの大地には海がないから。
この世界の大地は、地上よりも遥か上に作られた空に浮かぶ浮島、らしい。
遠くまで広がる青い空と、不思議に満ちた力と
母なる海を知らない人々。
それが、僕が迷いこんだ世界。
………
………………。
上を仰げば、鳥が飛んでいる。
キーワウワウ、キーワウワウとおおよそ聞いた事のない鳴き声が響いている。
黒い羽に嘴…で思い付くのはカラスだ。まあでも、別の種類なんだろうなあ、とじっと見る。
それから僕は、傍らで飛んでいる白い竜に何となく聞いてみる事にした。
「なあ、あれって何ていう鳥?」
「ジャングルに住んでる魔物だのう、名前は知らぬよ」
白い竜は、胡乱げな視線を空を飛ぶ鳥へ向けると、興味が無さそうに返してきた。
やっぱり、カラスじゃないのか。元の世界の生き物に似てたから、僕が勝手にワクワクしてしまっていた。
「これ、チアキ。手が止まってるぞ」
慌てて手元に目線を戻す。薬草摘みをしていた事を思い出した僕は、ごめん、今やるってと言ってから、手元の薬草を手にした。
まったく、とため息を吐き出した白鱗のドラゴンは、アズーロ。口調から分かる通り、堅ぶつで長い年月を生きているそうだ。
バスケットボールサイズの姿で、僕の回りをくるくると飛んでいるが、実際はとても大きな姿をしている。
今日は一人と一匹で、居候先の少女ハルの仕事に必要な物を採取をしに、町の外にある近隣の草原へと訪れていた。
ここら一帯は、辺り一面に草木が繁っており、薬草や花が多く群生している場所である。
様々な人々が、よく薬草を採取をしに来るメジャーな場所だった。
チアキは、かご編みバスケットの中にあるメモを見ながら、一つ一つ確かめながら摘んでいく。
ふと、見慣れない花を見つけてアズーロを呼ぶ。
「おお、キレイな花が咲いてるよアズーロ!」
「キレイだが、それは毒があるぞ」
「毒?!」
「根っこの球根が食用の生薬にそっくりでな、食べると中毒を起こす」
成る程、食べなければ大丈夫なやつか。
野生の植物も、危険な毒を持っているものが沢山ある。気をつけないとうっかり食べてしまいそうだ。
向こうの世界だって危険な植物はあったけど、それが身近になると途端に実感するものだ。
アズーロは、先程の毒のある花とよく似た物を指指すと、しれっと告げた。
「こっちは食用だ」
「アズーロわかるの?」
「匂いがちと違うのだ」
気になって、すんすんと両方匂いを嗅いでみた。……僕には分からなかった。
竜には分かるくらいの細かい違いなの?!
さっと湯がいておひたしにするか、天ぷらにすると旨いのだ、とアズーロは続けた。
「これは丁度いい、収穫してハルに調理してもらおうではないか」
「いいけど……」
食べるのが、嫌なのか?とアズーロは聞いてきたが、野菜は昨日の夕飯で食べたばっかりなんだよな。
すると、アズーロはその小さな体で長ネギを引っこ抜くと、バスケットの中へと放り込んできた。
「これは良いものだ。ネギスープも作ってもらおうかのう!」
「いや、ネギだけでも…主食かってくらい毎日食べてる気がするんだけど」
「この辺の特産だからの」
もう知ってたけどね!
ただ、毎日毎日ネギばかりなのは飽きると思うんだよ。
「チアキが主食のパンをあまり食べないから、おかずが増えるのだろう」
「僕は米派なんだよ!」
パンは食べるし、何なら好きだ。
でも昔からパンはおやつとか、軽食の感覚で食べた!って感覚にならないというか……我が儘で悪かったですね!
「この国は米が割高なのだ、我慢しなさい」
「くっ!日本人の心なのに!」
僕はチアキ、本名は
この前、某感染症とか不景気とか色んな事が重なって仕事先がつぶれてしまったせいで、社会人からニートになってしまったのだ。
まあ、そんなわけでハロワとコンビニを往復する毎日をしていた。最近は某動画のゲーム実況を見るのが楽しみになってた。
そんな僕はある日、目が覚めると見知らぬ部屋にいた。そこの家主はハルという少女だった。
この町の外れでぶっ倒れていた僕を見つけてくれたらしく、自分の住む家まで連れてきた、との話で…
所謂、ファンタジー物で流行りの異世界召喚と言うやつをしてしまったらしい。
そんなわけで現在、僕はその居候先で暮らしている。
「…こんなもんかな?」
「そうさな。ハルも喜ぶだろうて」
気づけば、籠一杯に薬草やお野菜を収穫していたようだ。まあまあ、上々ですかね。
その中身をアズーロに見せると、満足そうに笑っているように見える。
「さて、日が暮れる前に帰ろう。ワシの背に乗るがよい」
心地よい陽気だった辺りが、冷たい空気に包まれる。これはアズーロの発する冷気だ、と思っていると僕はぎょっとした。
瞬きの間に、4~5mほどの姿になった白銀の竜がそこにいた。
これがアズーロ本来の姿だった。
やっぱり見慣れてないし、迫力満点の姿にこっちはびびってしまう。
「どうしたのだ、チアキ」
「…スカート、めくれないかな?」
「レギンスを履いているのだろう、なら問題ない」
ハルもそれでけろっとしておるよ、とアズーロは言う。そうですけどね、僕はまだ自分の…女子の姿に馴れてないんだよ!!
そう。僕ことチアキは、異世界に飛ばされたら何故か体が性転換していた。胸が大きくなった代わりに、僕の大事なものが無くなって……この目で見た時に、まずまずショックを受けたね。
「わっ!……失礼しますよ」
どうにでもなれ、と彼の背の上に飛び乗る。
アズーロの鱗は手で触ると少しひんやりとしている。氷を操る竜であるらしく、仄かに冷気を纏っている。
「よいよい。背の手綱に捕まっておるのだぞ」
「……うわっ…!」
ばさっ…
体がひゅうっと地面から離れる感覚に、思わず目を閉じる。……自分が竜に乗っている、この感覚はまだ慣れそうにない。
風が頬を撫でていく感覚に、恐る恐る目を開けると…
「……!!」
雄大な自然のパノラマが広がっていた。
この町とその周辺の大地がミニチュアの様な風景に見える。いま住んでいるリーキの街、商人や冒険者の通る街道と、少し先にある深い森。
それから…地平線の手前、大地の先にあるのは空。
この不思議な世界の大地は、古代の技術の力で空の上に浮かんでいる。遥か昔の災害で海と大地は遠く離れた、のだそうだ。
……浮遊大地って、それどこのラ○ュタだよ。
「……キ、チアキ!そろそろ街に着くぞ!」
「あ、ああ。ごめん」
慌てて意識を現実に戻す。
アズーロはスマートな着陸で、家の近くにある空き地に到着した。
「……ふう。ありがとう御座いました」
「どういたしまして」
彼から地面へと降りて、ふうと息を吐き出す。
と、家から見慣れた少女が出てきた。
「お帰り。アズーロ、チアキ」
「ハル、ただいま」
明るく笑う彼女は、居候先の家主のハル。
そろそろ日が暮れる頃だ。
さて、明日は何をしようか?
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