第17話 チートでファッションリーダーになる
名手であるバランがマンツーマンで指導している所為かラルフ君の上達は目覚ましい。
ホーンラビットの解体タイムも一匹10分強まで短縮されてきた。
美品魔石も2割位は出せるようになってきた。
俺の場合は何度やっても傷が出来るので、やはり美品を出せる人材は貴重だ。
「ドラン。 次にトード系が来たらラルフの練習用に買い取ってもいい?
新しい仕事させてあげなきゃ可哀想だし。」
「そうだな。
キャパシティはまだまだ余裕あるから大丈夫だぞ。
但しトード肉は相場が下がってるから、キツ目の燻製掛けて3階にしまわないか?
俺、昼に保存庫と燻製セット買っておくよ。」
「3階?
ああ、小倉庫あるしな。」
「プライベート食材も色々な種類揃えて行こうぜ。
余ったら俺が小口で売って来るし。」
「はははw
俺達だいぶ余裕が出て来たもんな。
チート・ラルフ、喰いたい物があればリクエストしてくれよ。
一度しかない人生、好きなもの喰って楽しく生きようぜ!」
「ボク、シティボーイみたいなお洒落な食べ物がいいです!」
『あ、じゃあ俺寝っ転がったまま食べれるもので』
「二人共かなり自分に素直になって来たなあw」
一同 「「「『はははははは』」」」
そんな風に4人で歓談していると、上から神経質そうな足音が降りてくる。
居候のベスおばさんだ。
「あら、皆さんお揃いでごきげんよう。
今何時ですの?」
「あ、11時です。」
「あらあら。 ついつい夢中になってしまって今日も夜更かしする事になりそうね。」
「あ、午前の11時です。」
「あら、そう。
それは失礼。」
ベスおばさんは食卓に並べた干し肉を平然と貪ると、勝手に飲食物を漁って5階に戻って行った。
あの人、いつまで居るんだろう。
ベスおばさんで思い出したので、俺は小太りおじさんから聞いたイキリ系職人ファッション作戦を3人に提案してみた。
「へえ、そういう視点で自分を見た事は無かったなあ。」
「職人を好きな女の子とか居るのか?」
「あ、でも商都にいる頃。
《親が職人の女の子はコテコテの職人が好きだ》って話を聞きました。」
「ふーむ。
どうせ作業着は買うつもりだったから、派手目を狙ってみるのもいいかもな。
チート、他に何かないか?」
『そうですね。
俺の故郷の話なんですが。
大衆向けのジャンク食堂の店員なんかは、全員が頭に揃いの鉢巻き巻いて
全員腕組みしたポーズでイキってます。』
「え? そんなのでモテるの?」
『モテてるかどうかはわからないんですけど。
威圧感あって舐められにくいというか、気合入ってるように見えますね。
あー、でもボソボソ喋る職人よりも、デカい声で訳の分からない掛け声を挙げてる職人の方がモテる雰囲気です。』
「あー、それはあるよな。
気合入ってる職人の方が女連れ率高いわ。
ラルフ、商都ではどうだった?」
「今、思い出してみるとですね。
確かに真面目な先輩よりも、派手で崩したファッションの不良先輩の方がモテてましたね。」
「うーん。
俺は本当は苦手なんだけど、工房のユニフォームはやや派手目にしよう。
それで、折角だしチートの鉢巻きアイデアも試してみようか。」
どうせ冒険者が来るのは早くても2時過ぎなので、工業区まで4人でメンズショッピングに行くことにした。
今回のテーマはイキり系・ヤンチャ系ファッションの模索だ。
工業区は汚く臭く五月蠅かったが、その分地区に活気があった。
普段俺が住んでいる中央広場付近よりも遥かに人口がある。
『あれ? 中央広場よりこっちの方が活気がないですか?』
「あの辺は冒険者関連の店や宿が集中してるからなあ。
ほら、冒険者って基本的に街の外に出てるでしょ?
逆に職人は街中で仕事してる訳じゃない?
それにスラムからの通勤者もかなりの数になる。
結果として職人が密集している工業区は昼間人口が一番多いんだ。」
『へえ。
繁盛してていいですね。
あっ、これじゃないですか?
若い職人向けの店。』
俺が指を指したのは、地方によくある暴走族の刺繍特攻服をオーダーメードしてそうな雰囲気の店。
店の外では若い職人たちがヤンキー座りしながら、ジャンクフードを食べている。
『こんにちはー。』
と声を掛けると
「オマエラ鍛冶か?」
と聞かれたので
『ウチ、解体です。』
と答える。
すると職人たちは鼻で笑って仲間内の談笑に戻った。
何となく解体屋のポジションが理解出来る。
背後から【俺ら建築やから格上やで!】と勝ち誇ったような【心の声】が聞こえてくるので、職人の世界にも色々なヒエラルキーがあるのだろう。
店に入ると眉を剃ったコワモテの店主が「ラッシャイ」と低い声で歓迎(?)してくれた。
地球での経験上、こういう職人はモテる。
広めの店内には多種類のユニフォームがびっしと並べられていた。
どれも派手である。
まさしく北関東や九州の鳶職が好きそうな雰囲気。
「この赤にしよう! ズボンと上着に2本ラインが入ってるのが格好いい!」
「バラン! このドラゴン刺繍なんて最高だな!」
おっさんコンビは相当本気なのか、主張の強烈なユニフォームに一目ぼれする。
一番人目を惹くデザインだけあって値段は他の物より一回り高い。
まあカネはいっぱいあるし問題ないか。
その後、4人で試着タイム。
汚れ易い仕事なので、一人三着ずつ購入。
(絶対三着も要らないが、まあたまには浪費を楽しみたいんだよ)
後、タオルっぽい見た目の手ぬぐいを見つけたので、その中の黒色を大人買いする。
四人でキャッキャと試着するのは楽しい。
レジ横に野球選手が装着しているような金の極太チェーンネックレスがあったので、調子に乗ってこれも買う。
店主がおまけに職人用肌着をくれたので、ベスおばさんにでも恵んでやることになった。
折角だから、ということで。
買った服を着用して帰宅することにした。
バランギル工房イキリモードである。
当然、黒タオルもラーメン屋風に巻く。
往路はそうでもなかったのだが、復路では周囲からジロジロ見られた。
よしここだな。
スキル発動!
俺はスキルを全解放し、周囲の声を全て拾うことにした。
本当にイキリファッションが女子受けするのかを確認しなくてはならない!
しばらくは男としかすれ違わなかった。
年配の職人は【何だあのふざけた格好は!?】と否定的な目で見てきたが、若者は【あれって制服? いいなあ、ウチは地味だから】と羨望する者が多かった。
ここまでは想定内。
ぶっちゃけ男にどう思われてもいい。
すると突然、一斉に各工房から職人が大量に出て来た。
ラルフ君によると《工業区では一斉に昼休憩が始まる》とのこと。
今まで見なかった女子の姿も急激に増える。
よし!
スキル全開!
女子の意見を一つ残らず拾う!
わざとルートを変えて女子とすれ違いまくる俺達。
【なあにあの人達、変な格好。】
【職人? どこの工房かしら?】
【あんなチャラチャラした服装で仕事になるのからしら?】
【目がチカチカする!】
【あれは極端だけど、私達ももっとお洒落な服が着たい】
【かっこいいやん! どこの人やろ?】
ん?
やや否定的な意見が多いが、5人に1人くらい気に入ってくれる子がいるぞ。
俺は更なる検証の為に幾つもの女子グループの前をわざと横切り続けた。
「チート、どうだ?
何かわかったか?」
「露骨に馬鹿にした目線の子も居たな。」
「兄弟子… このファッションは正解なのでしょうか?」
『みんな。
結論を言うね。』
「「「ゴクリ。」」」
『この服装は馬鹿な女にモテる!』
「「「な、何だってー!?」」」
『大前提として、この服装はド派手なので殆どの女の目を惹ける!』
「ですよね。 全員がこっち見てましたもん。」
「嫌でも視界に入るよな。」
『賢そうな子は全員眉をしかめていた!』
「あ、それは俺も感じた。」
『しかめながらも、こっちに釘付けだった!』
「ふむ。」
『そして5人に1人! 女子のグループで一番馬鹿な子!
その子達が滅茶苦茶好意的だった!』
「「「おおお!!!」」」
「あ、兄弟子… その分析はどのように活かせば?」
『あそこにこっちを見ている女子5人組が居る!』
「なるほど! あの中で一番馬鹿そうな子を探せばいいんだな?」
『否! あのグループは馬鹿5人組! こっちから話し掛けられるのを期待している!』
「「「え!? マジ!?」」」
俺はありったけの笑顔を作ると馬鹿×5に近づいていった。
【心の声】は既に聞こえている。
【あの人らめっちゃいけてるやん!】
【どこの工房の人やろ?】
【ちょっとお話ししてみたい】
【わー♪ こっち来たぁ】
【飲み会とか大歓迎♪】
おお、先日のナンパとは真逆の反応。
最高だな!
このチートスキル、マジでチートだな!
『こんちわーーーー!』
俺は全身全霊を振り絞って、明るく大きな挨拶をする。
「「「「「こんちわーーー♪」」」」」
お!?
やはりノリがいい!
俺、この子達すっごく好きになった!
『俺達バランギル工房って言うんだ!
この人は師匠のバラン!』
「バランでーす!」
『この人は乾燥部長のドラン!』
「ドランでーす!」
『そしてこの人は俺の親友のラルフ!』
「ラルフでーす!」
『ウチはグランバルド最高の解体屋なんだ!
場所は冒険者ギルドの真隣。
凄く儲かってるからさ!
フレイムキマイラだって解体するんだぜ!』
…俺、こういう軽薄な自己紹介をする男は大嫌いなんだが
まあモテたいしな。
極限まで自分を大きく見せて自己紹介する。
普通ならこういう男は嫌われるのだが、コイツラは余程馬鹿なんだろう。
目を輝かせて喰いついて来た。
【心の中】をチェックしているが、本当に好意的だ。
この馬鹿×5は風車小屋で製粉の仕事をしているらしい。
よく見かけるカロリーメイトみたいなのを作ってるのが彼女達とのこと。
つまみ食いトークで爆笑しながら盛り上がる。
相手は若いだけあって肉に飢えているのか、ドランが《俺達どんな干し肉でも作れるぜ》と振ると口々に食べたい品目を挙げた。
俺の予想に反してトードやスネークが人気だった。
癖の強いものが好まれるのだろうか?
しばらく盛り上がった後。
あっさりと飲み会の約束を取り付けれた。
その後も恋愛トークに花が咲くが、彼女達の休憩時間が終わったので手を振って別れた。
5人共【素敵な出会いがあって良かった! 今日は最高の一日!】というニュアンスの感慨を持ってくれていたので、社交辞令ではなさそうである。
そして俺達は、早足で工房に帰ると興奮を抑えて検証会議を始めた。
「うーん。 イキリ職人作戦… 大成功とみていいんだな?」
『はい。 圧倒的手応えでした。
一応確認しますが、3人共今までこういうケースはありましたか?』
「いやいや!
盛り上がるどころか、口も聞いて貰えなかったよ。」
「兄弟子。
正直言って、今まで視界にすら入れて貰えませんでした。」
「さっきのは逆にビビったよな。
女の子が積極的に名前教えてくれることとかあるんだな。」
『やっぱりこのファッションが良かったんだと思います。
スタート時点で相手がこちらに好意的なので、軽く話し掛けただけでトークが弾みました。』
「モテるファッションとか、もっと若い頃に知りたかったなあ。」
「師匠! まだお若いです! これから楽しんで行きましょう!」
「そうだな。 男は一生青春だ!」
俺はイキリファッションのまま冒険者ギルドの小太りおじさんを訪ねた。
「おおお! 君かあ!!! 見違えたな!」
『馬鹿みたいでしょw』
「本当はもう解ってるんだろ?」
『はい! 馬鹿はモテます!』
「流石だ!
断言する!
君はまだまだ伸びるぞ!」
『ありがとうございます!
…そしてこれは感謝の印です。』
「魔石? それもブラッドベア美品じゃないか!?」
『貴方のおかげで人生を一歩前に進めることが出来ました。
今後共宜しくお願い致します!』
「いや! 私こそ、君からは多くを学ばせて貰ってる!
こちらこそ今後共懇意にして頂きたい!」
俺は小太りおじさんと固く握手すると部屋に帰って寝た。
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