とんかつが食べたい
川崎そう
専門店より、定食屋とかのとんかつ定食が好き
とんかつが食べたい。
それを思ったのは三限の現代社会の授業の事である。
理由はハッキリとは覚えていないが、恐らく一次産業の話を現代社会担当の教師がした辺り、「畜産」というワードが出た辺りで思い浮かんだ事だろう。
「畜産」というと何故か最初に豚が出て来る。
のは、私だけでは無い気がする。
「畜産」=畜生みたいなイメージから畜生=家畜になり、家畜=先ず豚。
の連想が勝手に思い浮かぶ。
とどのつまり我々は豚の事を見下しているのである。通りで人を蔑む時に豚野郎なんて呼称を用いる訳だ。
一方でこうやって、食べる時は容赦なく、余す事無く豚肉は頂くのが人間という豚野郎の性である。
豚肉は美味しい。バラ肉は脂がたっぷりで、塩焼きにしてカリカリになるまで炒めて余分な脂を落として、白飯と共に頬張れば至福である。
ロースは生姜焼きにしても良い。生姜の香りと玉ねぎのコクが醤油ダレと絡まれば、コレまた白飯と合い至福である
そして何より私はとんかつが好きだ。
あの分厚いロースの塊に、小麦粉、卵、パン粉をしっかりつけて、最初は低温でじっくりと、最後に高温でサッと揚げられた、サクサクの衣にしっとりジューシーなロース肉。
最初の一口目は塩だ。粗塩だと尚良い。
ひとつまみ掛け、端から頂く。
端の肉は脂身が多いから、塩と合わさると脂の旨味を一層引き立ててくれる。そのまま白飯を頬張れば、脂の甘みに乗算されたでんぷんの甘みでいきなりデザート状態…にはならないが、最初に口の中をtheとんかつで浸らせ、かつマイルドにしてくれる。
そうなるともう早速ソースを掛け、カラシを付け、勢いよく食べて行くだけだ。
とんかつ一口。ご飯二口、口の中で脂、赤身、ソース、ご飯が連鎖反応で爆発し、幸せな旨味だけが占有する空間になる。
しかし脂は徐々に溜まるモノだ。口内というのは脂質、油分のストックゲージが存在し、一定量入ると受付なくなる。
ならばとココでとんかつの奥、緑の大平原、キャベツの出番である。ソースを垂らすもヨシだが、私はココではそのまま行く。
シャキッと水に晒されて、ピシッと伸びた千切りキャベツ。
コレを頬張るとなんという事でしょう。口の中の油分を纏めて吸って、勝手に胃に持って行ってくれるのです。
更にそこへ味噌汁を流し込む。
私のおすすめとしては豆腐とワカメ、ネギが入るとなお良い。
赤だしだったら最高である。
キャベツが拾い逃した油分を一気に洗い流し、口の中をリセットだ。
更に追い打ちを掛ける様に漬物もひと齧り。
コレで口の中は食物繊維まみれになり、乾きが始まる
脂が欲しい。油分が欲しい。
こうなるともう止まらない。
いよいよもってとんかつのマスターピース、センターの最も長いヤツを頂く。
先ずは赤身側を一口。赤身の淡白さと衣の油が最高のバランス
ココで再び塩を脂身側へ付け、更にカラシも付けて、少々お行儀が悪いが脂身側も一口行こう。淡白さの残る口内に脂質、塩気、辛さが一気に押し寄せ、ココにでんぷんを+せずには居られなくなる。ご飯を掻き込み、掻き込みまくるのだ。
ああ美味い。とんかつはどうしてこうも私を食事に夢中にさせるのか。
赤身も脂身も、キャベツも漬物も味噌汁も、全てが吸い込まれる様にご飯と共に流れて来る。
一片一片が無くなって行くのが惜しすぎる。
だが、だからこそとんかつは、その姿を徐々に減らすからこそ、存在のありがたさがあるのだ。
欠片が一つ、無くなるたびに、心の欠片が一つ、埋められていく。
とんかつは豚だ。いや、豚さんだ。
豚さんが教えてくれるのだ
「君は豚野郎なんかじゃないよ」
って
ああ、いますぐとんかつが食べたい
「すいませんとんかつ定食くだ「今日もう売り切れー」………」
豚野郎共が…。
終わり
とんかつが食べたい 川崎そう @kawasaki0510
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