第13話【ニリワームSide】相手にする必要はなさそうだ

 早くもツバキの諜報部隊が捜査を終えた。

 すぐに報告するため、ツバキがニルワームに調査報告を提出した。

 ニルワームがそれを隅から隅まで確認し、深くため息をはいた。


「やはりルリナは……」

「証拠不十分な部分は報告書に記載していませんが、貴族の場で恥をかかせたうえで修道院へ送るか捨て子にするという流れだったようです」

「ふざけおって……。ルリナのような優しくて無邪気で可愛げのある子をそのような目にあわすとは……」

「まぁ、無邪気という点は貴族家本来の教育がなかったからこそかもしれませんが……」


 ルリナの辛かったであろう人生を考えると、ニリワームは唇を噛み締めながら怒りを露わにしていた。


「ルリナの成長ぶりは凄まじいものがある。一度教えただけでテーブルマナーはおろか、文字の読み書きまでわずか数日間で完璧に覚えてしまった。故に今までこのような教育はなかったと考えるべきだな」

「私も先日ルリナ様に、目上の人間に対して話すことば選びを教えました。廊下で大臣と接触する機会があったのですが、そのときの挨拶は完璧でした」

「その割には私に対してはいつもどおりだが……」

「えぇ。ニルワーム様に対しては普段どおりにしましょうと言ってありますから。ただし、公の場では丁寧に話すように言ってます」


 ニルワームがハハッと声に出して笑う。

 ホッとしていたのだった。


「ルリナが私に対して無邪気に接したり話してくれるのが嬉しいのだよ……。この前も頭を撫でられてしまった」

「ふふ……。幸せそうですね」

「あぁ。このような気持ちは初めてだ……」

「兄弟にバレるわけにはいきませんね」

「あぁ、今はな。だが、皆ルリナのことを誤解しているだけだ。いずれ彼女が自力で証明するだろう」


 ニリワームはルリナの人間性を信頼していた。

 もうしばらく、かくまうことができればルリナの社交性も立派なものになると信じている。

 だからこそどんなに反対されようとも影でルリナを庇っていたのだ。


「公爵家への制裁はどうされますか?」

「我々が手を出さなくとも勝手に崩壊するだろう。それに、ルリナ自身で証明させることができる。次のお茶会でな。公爵家のシャインは必ず招待しておくように」

「承知しました。しかし、これだけはルリナ様とは別件で情報が……」

「別件?」

「実は公爵様の夜の行動で……」


 ツバキが丁寧に報告を続ける。

 ニルワームは呆れすぎてしまい、しばらくの間無言のままだった。


「変装……、庶民のフリ……、王族としての恥だ……。そちらに関しても放っておいてもいずれバレるであろう……。情けない」


 ニルワームは、相手にしなくても公爵家は勝手に崩壊するだろうと判断した。

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