第9話 (最終話)最高の初恋。

そう言えば、あの花火の夜に小次郎と晴子は付き合った。

メッセージを読んだのは少し後で俺と小夏は「おめでとう」と祝福をした。


それ以来「今日は会うか?」と小次郎に聞かれると俺は「小夏と居るから晴子と居なよ」と返す。


その返信に小次郎からは「お前も小夏とかよ」とツッコミが入る。

これは毎日の朝の挨拶みたいになっていて「また小夏かよ」「小夏小夏って小夏一色か」と言うメッセージで締めくられていた。


そのおかげで俺と小夏は2人で居てもおかしくなかった。朝も早くに起きて朝ごはんをコンビニおにぎりでもいいから2人で食べて一日中過ごした。

何度試しても小夏は家に向かうと最後の曲がり角で消えてしまっていた。


ムービーは沢山撮ったし写真も撮った。


俺は小夏とお揃いの木製アルバムを買って同じ写真をプリントしてアルバムに入れる。


本当に時間の許す限りプラネタリウムも水族館も行った。

もうあの花火の日から10日も過ぎていた。


俺達は手を繋ぐのもいつの間にか恋人繋ぎになっていて、小夏は「好きだよ冬音」「もっと居て冬音」と言ってくれて俺も「俺もだよ小夏」「ずっと居て」と返すようになっていて別れを惜しみながら夜を迎える。


夜になると小夏は急に消えて「あ、また家にいる」とメッセージが入る。


一日中河川敷で空を見ながら2人で雲を見て喜ぶ。

そんな中、好きと言い合っていればその先を意識してしまう。

俺の目線はどうしても小夏の唇に向かっていて、小夏は俺の目線に気付くと真っ赤になりながらも拒絶をする事もなく小夏も俺の唇を見ていた。


どちらともなく近付く。

今冷静になると同じ考え方の人なのだから同じタイミングになる。


息の当たるその距離で後一歩の所で小夏は消えていた。


「あー…ここで?」と小夏からメッセージが入り「本当、残念だったけど…また明日」と返す。


「なんか普通の文章なのにやらしいね」

「本当、また明日ってエッチな言葉なのかな?」


俺達はそんなメッセージを交わして家に帰る。

母さんは「小夏さんは来れなかったのね」と聞いてきて「うん。今日はいつもより早く消えてた」と返してメッセージを見せる。


特別予算を貰う為に証拠提出がルールになっていたからなんの気無しに見せたら母さんが「冬音?」と言う。


「何?」

「何をしようとしたのかしら?また明日ってエッチな言葉なの?」


これには驚いた俺が「うぇ!?あ!?」と慌てると「武士の情けよ。まったく…。でも好きな人に会えて良かったじゃない」と母さんは言ってくれた。


父さんは「お父さんより早いなぁ冬音は」と笑いながらやってきて小夏と何をしていたかを聞いてくれた。


「まだ夏は長いから沢山冬音だけの夏を見つけるといいよ」


父さんの返しにまったくと思いながらも確かにまだ夏は長い。明日はまた小夏と何をして過ごそうか考えながら今日の続きをしたいと思っていた。




翌朝、お決まりの小次郎メッセージで起きる。

「今日はどうする?」

「晴子と居なよ」


お決まりの文章で始まり、小次郎からの「また小夏と2人きりかよ」と言う返事を待っていると「何言ってんだよ。もういい加減いじけるのはやめにして3人で会おうぜ?」と返事が来た。



なんだ?

この気持ち悪い文章はなんだ?


俺が慌てて「3人?」と聞き返すと「だから謝ってんじゃん。俺と晴子と冬音の3人きりなのに抜け駆けして花火の日にトイレではぐれた俺が晴子に告白して付き合った事が面白くないんだろ?晴子も気にしてるから会おうぜ?」と小次郎が言う。



なんだ?気持ちが悪い。

グラグラと地面が揺れた気がする。

とにかく気持ちが悪い。


俺は小次郎に返信をせずにリビングに行くと母さんが「また?今日も?いい加減機嫌を直して小次郎君と遊びなさい。毎日毎日1人で豪遊するってお金をたかるんだから」と呆れ顔で言う。


気持ち悪さは加速する。

俺は何が起きたかわからずに「か…母さん?何言ってんの?俺、小夏と…」と言うと母さんは「小夏?誰それ?」と聞き返してくる。


「小夏だよ!青海 小夏!日向 小夏!」

「知らないわよそんな子」


俺は慌ててスマホを取り出してフォトフォルダを見ると小夏を撮った写真は何もない景色になっていて、2人で撮った写真も俺1人が写る気持ちの悪いものになっていた。


部屋に戻り木製アルバムを開いたがスマホと同じだった。

夏祭り、誕生日会、プール、花火大会、それから先の日々全部の写真から小夏が消えていた。


俺はその瞬間ショックで倒れた。




目覚めると病院に居た。

母さんは夏休み前の高熱の後遺症を疑い、父さんは仕事を早退して病院に来てくれた。


俺はまずスマホを取り出してメッセージアプリを開いたが小夏とのメッセージは無くなっていた。

小次郎と毎朝交わしていたメッセージも「抜け駆けしてごめんって、会おうぜ」「怒ってないよ。晴子と居てあげなって」になっていた。


何が起きたかわからずにスマホを抱えて大泣きする俺に「せん妄の可能性がありますから話を合わせて」と聞こえてきた。せん妄がなんなのかわからないが倒れた俺のことを言っているのだとわかった。



「冬音、どうしたんだい?心配したよ」

そう話す父さんに「父さん、俺が熱を出して学校に行ってからの日々を聞いて、擦り合わせをしたいんだ」と話した。


学校の事はわからないがスマホのタイムラインと合わせながら話すと夏祭りでは俺がゴミ捨てに行って迷子を助けていて、助けた子供のお婆さんと晴子が謝ってくれていた。


誕生日会は無くなっていて木製アルバムを買ったのは小次郎や晴子と食事会をする時にプレゼント交換をしたことになっていて、俺の手元には晴子の折り畳み傘が来ていた。俺が買った木製アルバムは小次郎の手元に渡ったらしい。


「じゃあ駅地下の…甘党天国の素甘は?」

「お父さんと冬音で食べたよ」


その後は全て小夏のいない世界の話になっていた。


「父さん、青海 明子さんって知ってる?」

「知らないな。誰だい?」


「俺達の前に現れたその人の娘さんと俺はずっと居たんだ」

俺はそうして小夏と会った時間を父さんと母さんに話した。


母さんは作り話にしてはリアリティがあると言ったが父さんは信じてくれた。


「確かに夏生まれの娘なら小夏にしたと思うよ。自分だけの小さな夏に感謝してその気持ちを忘れないように小夏にするかもね。その子は本当に居たんだね。だから父さんと冬音の所に来てくれていた。だから冬音は何もない写真を撮っていたけど、それはそこに小夏さんが居たんだね」


この言葉で俺は声を上げて泣いた。

「小夏は好みが一緒だったからずっと一緒に居たかったんだ」

「うん。冬音の話を聞いて、なんで小夏はウチに入れなかったか父さんはわかるかな」


「なんで?」

「きっと小夏の家はウチと違っていたんだ。ウチは明るいから記憶と違いすぎて入れないんだよ」


「じゃあ外でなら会えたかな」

「そうかも知れないね。でも冬音のムービーでお別れは済んでいたんだから、今父さん達が覚えていないとしてもなんの問題も無いよ」


「本当?」

「ああ、でもね。病院の医師も冬音が熱のせいで何日も幻を見たかも知れないなんて言うから外で小夏の話をして疑われても気分が悪いよね?だからこれは父さんと母さんと冬音だけの3人の秘密にしようね」



俺は素直に頷いて日常へと帰っていった。

表向きは小次郎と晴子が付き合った環境の変化に耐えられなかった事にされたが俺は普通の自覚がある。


それを裏付けたのはネットで青海 明子を検索したら小夏の言った場所に青海 明子が住んでいたからだった。実名SNSに投稿されていて初めて見た青海 明子さんは父さんの一個下で少しだけ小夏に似ている気がした。


俺は誰も小夏を知らない事が嫌だったので小夏とあった事を記した。


何回も文章を直したら夏休みは終わっていた。

始業式、俺の列は6個の机しかなく誰も青海 小夏を知らなかった。


秋になって晴子の友達から告白をされた。

だが少し付き合った後で断りを入れた。


その子に落ち度はない。

いい子だった。


でもどうしても俺の最高は小夏で小夏よりいい人は居ない。

比べながら付き合って小夏を探す事が悪くて断りを入れた。


この頃から俺は別の考えを持つようになっていた。


俺は生きているのか?

幽霊なのか?

夢を見たのか?

幽霊に会ったのか?


そう思う中でまた別の可能性を考えた。

小夏は自身を幽霊と言ったが幽霊は俺で、小夏の中に生まれた存在で小夏は回復して目覚めたからいないのかも知れない。


なんであれ小夏はいない。

小夏に会いたい。


口にしなくても同じ想いをもっていて、敢えて口にして再確認をして微笑みあえる存在。


残りの人生で小夏のような存在に会えるのだろうか?

そんな事を思いながらも、ここが小夏が死にかけて出来た世界なら二度と来ない方が良いと、現実で幸せになって欲しいと思った。


俺は生きているのか幽霊なのか?

ここは現実なのか?夢なのか?


もう何年も過ぎているがなんであれ、あの暑い日々にした最高の初恋は本物だ。


今も泣きながら小夏の言った「私が消えたらね、冬音ちゃんと彼女作ってね」という言葉が耳に残っている。

思い返すたびに俺は空を見ながら「小夏、彼女を作るのは無理そうだよ」と、そう呟いた。

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