3節「ガルテンシュッツの反乱」
秋を経て冬を越し、春には先代ヴェーグ王の深淵踏破を祝う祭事がレガリアで行われていた頃、祭事に乗じてヴェストフレッヒェンの後援を得た反中央政権を謳う勢力がガルテンシュッツ卿を旗頭として反乱を起こした。
エライヒェンの領民を人質にとられたフィシュカ太后は民と王の安全を優先し王城を開け渡した。重臣ネーパス卿の命を賭した戦いによって王妃と王、臣下達は脱出に成功しシュルフトブルグへと辛くも逃げ延びた。
エライヒェンを奪取した反乱軍はヴェストフレッヒェン軍と合流し入城を果たした。新たに迎え入れられたヴェストフレッヒェンのクレーベ王の元、反乱軍派や貴族は新たに地位と権力の向上を計り、荘園や領地の再分配を画策した。反乱軍とヴェストフレッヒェンはフィシュカ王大后と幼い王を始めとする中心人物を追放し王都エライヒェンを抑えたことでレガリアを掌握したかに見えた。
しかし、既存のレガリア王権に属する多くの諸侯や民衆は此れに強く反発した。漸く整備され国がまとまりつつあるレガリアを侵攻し、剰え国を挙げて王を祝う祭りに水を差したヴェストフレッヒェンと反乱軍は国内の多くで認められる事は無く、その認識は新政権などではなく侵略者と反乱軍に過ぎなかったのだ。そのため、不安定な政治状況下において各地で不満の声や抵抗は収まらず、それを反乱軍が各個弾圧するといった不毛な争いが続発した。
都を追われた王太后はシュルフトブルグへ辿り着くと、要塞の守りを固め、自身は騎士リュスタル卿の領地であり故郷であるルクスラクスへと赴いた。王の遺言のひとつである賢者を頼ってのことである。
ルクスラクスは小さな島であり、その領民の半数が妖精と呼ばれる種族で構成され人と妖精が共存するノルン地方でも稀有なる地域である。太后自ら王を連れ、リュスタルと共にルクスラクスの中央部、湖を越えたさらにその先の深い森の奥へと賢者を頼り赴いた。
辿り着きしは森を抜けた先、周囲に花が咲き乱れる泉にある小さな塔。ローブを目深に被った若いとも老いているとも男性とも女性とも判断できぬ人物が一行を迎え入れた。
「ここは本来妖精の領域でね。認識をぼやかすいろいろな魔術を重ねがけしているんだ。貴方がたが用いるのとはまた違う質のね。その無礼はご容赦いただきたい」
賢者は太后自ら王を連れ赴いた事に喜び、太后は先代の深淵踏破の話や新たなる王の話、そして辛くも生き延びこの地まで辿り着いた冒険譚を賢者の興味の赴くままに答え語った。
賢者が用意したハーブティーのポッドが幾度空になってもその問答は続き、やがて朝日が登る頃賢者は満足した様子で席から立ち上がり大后へと頭をもたげ深く礼をした。
「王太后自らの口からその歩みを伺えたこと、実に興味深い神秘の話を貴女様を通じて覗き見られたこと、大変喜ばしく思う。私で良ければ力になりましょう。いくつか条件はありますが」
礼儀正しくも飄々とした態度でそう言うと賢者は自らの名をヴィーサスと名乗った。賢者ヴィーサスは窮地を脱する智慧を貸す代わりに幾つかの条件を出した。
王宮魔術師を一定期間貸し出すこと。
ウルドの魔術、魔法の知識技能を定期的に提供すること。
リュスタルの子を成人までに4年間ヴィーサスの傍使いに出し修行させること。
賢者の存在を世にせず、今後妖精との諍いを避けること。
以上の条件をフィシュカ大后は承諾したことで賢者ヴィーサスより智慧と策を授かるに至った
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