戦いに疲れた勇者の帰還

ヤマゴロウ

プロローグ

「終わった……。」


―――――――――――――――――


高校2年生だった俺は登校途中に突然異世界へと召喚された。


「おお、勇者よ!よく来てくれた!」


なんて、国の王様からお決まりの台詞を聞かされても


魔王を討伐する気になれなかったが


地球に帰る唯一の方法が、魔王の持つ禁書に記されている転移魔法だと聞かされ


しかたなく魔王討伐の旅に出たのが30年前


そして、LVとステータスが限界を越えてカンストした俺はようやく魔王の討伐を成し遂げた。


苦難を乗り越えて掴んだ勝利


だが犠牲も大きく、多くの仲間や愛する者達を失った。


「長かった……。これでようやく帰れる。」


今更帰ったところで俺の居場所はないだろう


ほそぼそと人から距離を置いて余生を過ごす事になりそうだが


戦いに疲れた俺は、もうこの世界には居たくなかった。


だから禁書を手に入れた俺は迷わず魔法を行使した。


「転移!!」


俺は眩い光に包まれ意識を失った。


――――――――――――――――――


「…………すか?」


誰かの声が聞こえる。


「大丈夫ですか?」


女性の声。意識を覚醒さえた俺はゆっくりと瞼を開く


「あ!大丈夫ですか? 急に目の前で倒れるからびっくりしましたよ。」


「え?」


(目の前で倒れた??)


上半身を起こし、周りを見回すと懐かしい景色


高校生の時に何度も通った通学路


(ああ、無事に戻って来れたんだ。)


「あの~、ほんとに大丈夫ですか? 救急車呼びますか?」


目の前の女性もとい、女子高生が問いかけてくる。


「いや、大丈夫。すまないな。」


「あ、はい。」


女性に心配かけまいと立ち上がろうとした時に自分の服装の違和感にようやく気付く


(ん? なんで学生服を着てるんだ?)


立ちあがって自分の体を確認していると女性から奇妙な視線を受けた


「も、もう大丈夫だ。ほら遅刻するといけないからもう行きなさい。」


「え? そ、そうですね……。」


ほんとに大丈夫か?みたいな目を向けながらも渋々了解した女子高生は、時々こちらを振り返りながら学校へと向かっていった。


(それはいいとして……。)


「なぜ俺は若返っているんだ?」


アイテムボックスから取り出した鏡で自分の顔を見てみると


30年前の姿、高校2年の時の姿に戻っていた。


そして、この場所は俺が異世界に召喚された時に居た場所


(時が戻ったのか?)


考えてもわからない俺は確認する為に一度自宅へ帰る事にした。


―――――――――――――――


自宅は30年前と変わらず同じ場所にあり、表札も【寺町てらまち】と書かれていて俺の自宅だと示している。


(いきなり入っても大丈夫だろうか? 知らない人が出て来る可能性も……。)


とりあえずインターホンを鳴らしてみる。


ピンポーン♪


鳴らして数秒後に懐かしい声と共に玄関の扉が開く


「あら? 優希ゆうき?」


「か、母さん………。」


懐かしい顔を見て気が緩んだ俺は母さんに抱き着き


子供のように泣き続けた。


――――――――――――――――――


戸惑いながらも受け入れてくれた母さんは何も言わずに俺の言葉を待った。


「ごめん母さん。」


「なにがあったかは知らないけど、少しは落ち着いた?」


「……ああ、落ち着いたよ。ありがとう。」


「そっか。それで学校はどうする? 今日は休む?」


「うん、今日は休むよ。ごめん……。」


「じゃあ、連絡しておくわね」


部屋に戻った俺は服を着替えてベッドで横になる。


(召喚されてあの日にやはり戻っている。一体どうなってんだ?)


時間が巻き戻っているのかと思ったがアイテムボックスや魔法も使えたので、ますます意味不明だった。


混乱しながらも時間は過ぎていき昼食を食べた時はまた涙が流れそうになったがなんとか堪えることができた。


結局、考えてわかったことは考えてもわからないという事だけだったので考えないように召喚前の生活を取り戻そうと決意した。


―――――――――――――――


夕方、玄関から「ただいま~!」という元気な声に身体が反応する


妹の優菜ゆうなだ。


(顔を見たらまた泣きそうだ……。平常心平常心!)


覚悟を決めて部屋から出ると妹とバッタリ出くわす


懐かしい顔に涙が溢れそうになるがグッと堪える


「お兄ちゃん!? もう帰ってたんだ?」


「あ、ああ。 おかえり優菜。」


「ただいまお兄ちゃん♪」


いつも元気な優菜の笑顔にまた泣きそうになってしまった。


その後、父さんが帰宅した時はなんとかなったが、家族全員での夕食時は涙が溢れトイレに逃げこみ声を抑えて泣いてしまった。


多くの敵を倒してきたと同時に多くの仲間や友を失った


(もう戦う日々はうんざりだ!)


これからは家族を大事にして平穏な日々をおくろうと決意を新たにした。


翌日


『緊急ニュースです!世界各地に洞窟の入り口のようなものが現れました。日本では警察や自衛隊が出動し厳戒態勢が敷かれております。』


テレビから流れてきた声に興味を惹かれ目を向ける


そこに映った洞窟を見てびっくりして腰を抜かしてしまう


(あ、あれはダンジョンじゃないかっ!?)


時が戻ったと思ったら今度はダンジョン


訳がわからず、ただ混乱するばかりだった。

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