インスタントフィクション 渇き

宇山一博

インスタントフィクション 渇き

 この渇きを何に喩えよう


日差しを受けたカーテンを開けて、ドリップしたコーヒーを飲んだ時の一杯か


出勤前のシャワーか


ネクタイを締めて、革靴を履き、今日も仕事を頑張ろうと意気込んだ出勤前か


少しだけ空いた電車を降りて、誰よりも早く会社に着いた時か


上司に頼まれた依頼を完璧にこなして評価が上がった時か


部下が慕って付いてきてくれてる時か


定時に退勤した時か


居酒屋で同僚と上司の愚痴を言った時か


電車内で暴れ出す酔いどれを見た時か


帰宅して、風呂に入らぬままそのままベッドに乗り出し眠りについた時か


起きた時の頭痛か


恋人からのメールか


改札口で恋人を待ってる時間か


待った、と可憐に笑う恋人の顔か


この生活を続けたいと思ってる自分か


普遍的価値観を愛した自分か


不可逆なこの世を愛した自分か


愛したことがない人を嘲る自分か

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インスタントフィクション 渇き 宇山一博 @hirococotansan

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