勇者の隣の式神さん~(異)世界を救うのはネコミミです!~
白千ロク
#001
【 まえがき 】
■小説家になろうからの再掲になります(21話まで)
■わりとシモネタとえっちぃ感じに走ってます。R15に収まる程度に(頑張る)
■ニャンコがワンコにいろんな意味で可愛がられるお話
やまなしおちなしいみなし文
いろいろご都合主義だと思われます
2022.09.23
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「さあ、勇者。わしを可愛がってくれないか?」
「勇者様、わたくしもですよ?」
洗い場で躯を洗いながら、よくできるものだと感心する。ふたりの女は泡だらけの躯を勇者こと
この人数を相手にできるのかと、笑う奴もいるかもしれない。だが、犬井はやる。やるといったらやる。健全な男子高校生の頭のなかなんて、ピンクドリーム一色なのだから。オレだって『こんな躯』でなかったらハーレムを築き上げられたのに! 許すまじ犬井!
怒りに任せてボディタオルでがしがし躯を洗うのに夢中なオレは、背後にいる犬井に気がつかなかった。「ユウ」と抱きつかれてようやく気がついた体たらくである。情けないことに。泡で滑る手が胸元を撫で、肌が粟立つとともに「ぎょっほおおおお!」と悲鳴をあげてしまった。くすぐったさに。
「そこな猫はいつもうるさいぞ。いい加減にしたらどうだ。勇者も萎えるだろうよ」
スタイル抜群の魔王様が艶かしい足を組み替えながら眉を顰めるが、なんでコイツは魔王様よりオレにくるんだ! 巨乳のなにが気に入らないのか解らない。おっぱい星人の名が廃るぞ。オレなんて貧乳の……、まあ、Aカップはあるらしいけど、大きくもない『女の子』なのに!
「俺はいい加減メインを食いたい」
「オレもメロン食いたい」
「話を逸らす気なら、『お仕置き』コースだな」
「すみませんでした」
『お仕置き』はごめんだと即座に謝罪を口にすれば、ふたたび胸元を撫でられてしまう。這い上がるぞわぞわとした不快感に躯を竦めれば、鏡に映る犬井がふっと柔らかな笑みを浮かべた。『てめえ、人が堪えているそばから笑うんじゃねーよ!』とは言えないのです。理由は単純、オレと犬井の能力の差によってね。どう見ても色男な犬井対身長も成績も運動能力も負けているオレとでは、犬井にしか軍配が上がらないわけだ。そもそも、女の子の扱いにも慣れている犬井に勝てる気がしない。どうあっても。
「たっぷりと可愛がってやろうな」
「あい」
ぎこちなく――棒読みで答えれば、抱え上げられて泡が浮かぶ浴槽に運ばれてしまう。邪魔をするなというような顔をした女性ふたりだったが、犬井がついでだというようにかわいがったので機嫌を直してくれた。ついでの扱いでいいのか疑問だが、それくらいに犬井に夢中らしい。いっそもげてしまえ!
か弱い猫を鳴かす――いやなに、別にオレは鳴いてないけど、そう表現してやる――
犬井曰く、勇者として召喚される際にいろんな能力を授けられたらしい。なんだっけ、チートだっけ。よく解らないが、とにかく犬井は強かった。誰からだと詰め寄ったオレには『女神』だと答えたが、本当かどうかは解らない。最速でこの世界を渡り歩く術を手に入れていたなんて、なんて奴だ。
オレには『女神』なんて現れなかったし、仕舞いには
役目は終わったとばかりに、猫なで声とエロ単語が飛び交っていろいろヤバい雰囲気の浴室から出たはいいが、くそ野郎がぁと湧き上がった怒りのままやけ食いしたのがまずかったようだ。なにを食ったのかと聞かれる前に答えてやろう。アイスだよ、アイス。しかもファミリーパックのでっかいやつ!
腹が痛いと何度もトイレに駆け込み、熱いお茶で腹を温めていたらば、ようやく犬井が顔を出した。髪の毛を拭きながら。すっきりとした顔をしていたが、そこにはまだ足りないと書かれているようだ。どんだけやねん。恐るべしだ、健全な男子高校生・イヌーイ。
テーブルに突っ伏すオレを抱きかかえ、イスに腰を下ろした犬井が囁く。「食いすぎだ、アホ」と。オレはといえば、犬井の足の間にフィットしていた。ことあるごとにこうされており、もはや膝の上よりはマシだという結論に達している。うん、膝の上よりはマシだと思わなければやっていけない。オレたちは別に、恋人という甘い関係ではないからな。ぜんっぜん。
「誰のせいだ……」と恨みがましく犬井を睨めば、手にある薬の包装をちらつかせられる。『ほしいなら解るだろ?』と目が訴えていた。
言わずもがな、この世界に来てからというもの、金も薬もわけの解らないアイテム郡も――全ての管理は犬井一択だ。薬に関してはオレの行動を把握した上で、調子が悪いときにこうして持ってきてくれるが、それとこれとは話が違う。行動パターンを把握しているのなら、食い物の好き嫌いも把握しているわけである。こんな意地の悪いことができるのは、正真正銘意地が悪いからだろう。
「薬なんか、いらねーよ」
さわさわ腹を撫でる犬井の手を払って睨み付けたとたん、ネコミミに顎の先が触れる。瞬間、大袈裟に躯が跳ねるのを犬井は目を細めて見ていた。
「楽になるぞ」
「に、苦いのは嫌いなの」
「どこの幼稚園児だ」
「……うるさい……」
呆れた犬井から顔を逸らせば、ふたたびネコミミになにかが触れた。「あ……っ」とやらしい声が出そうになるのを、寸でのところで飲み込んだ。
「そうかそうか、
「なんでそうなる!?」
なんてことを言うんだと言外に含めば、犬井はネコミミに息を吹きかけた。ぞわりとしたものが背中を駆け抜けつつ、しっぽが逆立つ。
「――っっ!」
「選ばせてやる。自分で飲むか、口移しで飲ませられるか。どっちでもいいぞ、俺は」
どちらにしても嫌な選択しかないのはなんでだ。ニヤニヤする犬井はふたたび腹を撫でてきた。かと思えば、掌にぐっと力を込めて押す。
「っ……!」
「漏らしても片づけてやるから安心しろ」
そんな羞恥プレイは望んでない、一切望んでないからと、腰を浮かすオレに悪魔の囁きは続く。「早く選ばないと大変なことになるな」と、今度は直に肌を撫でながら。冷たい――たぶん魔法で冷たくした掌で。やーめーてー。本当にやめてください。
意を決して――折れることは何度もあったが、無意味に折れるのは嫌だ――口を開けば、犬井は口端を上げた。絞り出した「く、薬を、ください」に返るのは、「ください、じゃないだろ」という地獄落としである。
薬でも小遣いでも、オレが犬井からなにかを受け取るには、必ずしなければならないことがあった。その対価は屈辱以外の何物でもないが、『犬井の式神』となった瞬間から、魂の一部は犬井のもので――言い換えれば、泣き叫ぼうが暴れようがある程度は逆らえないわけだ。
「ユウ」
ぞわりとするほどいい声で囁いた犬井は、オレの顎に空いた片手を添えた。対価の準備のために。唇を噛みしめていたことなどお構いなしで。この男は遠慮はしない。絶対に。
解るだろうか。屈辱的な対価とは――。
早くしろとでも言うように顔を近づけられつつ押し付けた唇をすぐに離したかったが、後頭部へと添わされた冷たい手がそれを阻む。そうして何度か啄み満足したのか、唇も掌も呆気なく離れていった。抱きすくめられるままだが。
「悠希」
「変態は相手にするだけ時間の無駄だ」
震える声で薬を奪い取り、コップ片手にポットへと走る。見かけは電気ポットとなんら遜色はないが、コードレスであった。異世界電気ポットの仕組みなどはいまいち解らないけれども、コポコポ注ぐお湯から湯気が昇る。
対価に選ばれたのはキス。しかもオレからの、というオプションがつく。そしてそれは、オレの躯をさらに酷使させようとする犬井に対し、「これ以上は無理。壊れる」と情に訴えた末に決まったことである。――嫌だなんて断ったら、否が応でもベッドに運ばれて朝までコースなのだ。……いわゆる『お仕置き』も朝までコースだが、それはいまは関係ないだろう。もげろと思わざるを得ないオレの気持ちが解っていただけただろうか。
いまから話すことは、オレの苦労と心労と擦り切れる精神とズタボロの姿と相成ったプライドの話だ。どこから間違えていたのかと考えるが、答えはいつも同じだった。
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