一角と千角と豆太郎





豆太郎は驚きで言葉も出ない。


その時後ろの車がクラクションを鳴らした。


「豆太郎君、車を出して。」

「おおおおお、お前ら、おい。」


彼は慌てて車を発進させる。


「豆ちゃん、焦って運転すると危ないよ。」

「お前らいつ来たんだ。」

「今日だよ。見たら豆太郎君がいたからご挨拶に。」

「ご挨拶も何も、おい。」

「ああ、あのファミリーレストランに行こうぜ。ちょうど見えるし。」

「お前らなあ。」


結局皆はレストランに入った。


「プリンアラモード3つね。」


一角が注文する。


「勝手に注文するな。」

「おや豆太郎君は嫌いなのか。」

「好きだけど……。」


鬼は顔を見合わす。


「相変わらず豆ちゃんは可愛いなあ。」

「うるせー、それよりあの後お前らどうなったんだ。」


豆太郎が真剣な顔で言う。


「あの後は僕達はすぐに鬼界きかいに帰った。

あちらも心配だったからね。」

逆数珠ぎゃくじゅずはどうなったんだ。飛んで行ったよな。」

「ああ、俺達が力を使ったからな、空っぽになって飛んで行った

また光り出すまで何年かかるかな。

人間の厄を吸って。」


にやにやと笑う千角を見て豆太郎が嫌な顔をする。


「まあ、鬼界も空が閉じて、地面に落ちた粒は全部泥になった。

あちらも今では何もなかったようになってるよ。」


プリンアラモードが運ばれてくる。


「そうか、こちらももう何もなかったみたいになってるよ。

工場は無くなって更地になった。」


豆太郎がアラモードをつつく。


「あのおっさん、紫さんと結婚したんだな。」

「ああ、紫垣製菓は全部なくなったよ。

偽装とか脱税とか全部ばれて、会長や社長などあの後すぐに亡くなった。」

「体や心に詰まった邪悪が抜けたからな、

あの玉が出来た時に魂ももう抜けていたんだよ。」


事も無げに一角が言う。

豆太郎はため息をついた。


「お前らは鬼だから人の情とか分からんだろうが、

清二さんは本当に大変だったんだぞ。」

「それは失礼した。」


一角が頭を下げる。


「まあいいや、何にしてもあの時、

お前らがでかくならなきゃどうなったか分からんからな。

遅くなったけど礼を言うよ。」


鬼が複雑な顔をする。


「豆ちゃん。」

「なんだ。」

「お前は本当にバカ正直だな。」

「バカとはなんだ、バカとは。」

「僕達は心配しているんだよ、豆太郎君を。」


豆太郎は驚いた。


「心配って鬼でも心配するのか。」

「するよ。それで鬼ですら心配になる素直さだよ、君は。」


豆太郎はどう返事をしていいのか分からなくなった。

彼の親は鬼に殺されている。


元々鬼を払う家系ではある。

その上に親も殺されている。

だから鬼は憎い仇だ。


だがこの鬼達はプリンアラモードを美味しそうに食べて、

その上に自分の心配をする。


「一角、千角。」


豆太郎は彼らを呼んだ。


「お前ら、まだ人は喰ってないんだよな。

嫌な臭いはしないし。」

「あ、ああ、そうだな、食べると言いながら、

俺食べてないな。」

「そうだな、食べてみたい気はするけど。」


豆太郎は彼らを見た。


「お前ら、絶対に人を喰ってくれるなよ。

絶対だぞ。」


彼はレシートを持った。


「今日は俺が払う。

俺は貸しは作りたくないからな。」


一角と千角は座ったままニヤニヤしている。


「ごっそーさん。」

「ごちそうさま。」


そして豆太郎が立った時だ。


「そう言えば眼鏡を折った詫びはもらってないよな。」


一角が言う。

豆太郎は一瞬何の話か分からなかったが、

初めて会った時に一角の眼鏡を撃ったのを思い出した。


「あっ、あれは、その、すまん。」

「その詫びでこれをもらっていくよ。」


と彼が脇にある段ボールを軽く叩いた。


「あっ、いつの間に。それ、ゆかり豆じゃないか。」


先程紫垣にもらったサンプルの豆だった。


「お前ら、豆なんて持って行ってどうするんだ。

嫌いなんだろ?」


「いや、」


千角が言う。


「鬼は食べる豆は大好きだぜ。

当てられるとかなり痛いけど。」

「なんだよ、それ……。」


箱を抱えて鬼達は席を立つ。


「一角と千角、もう二度と顔を見せるなよ。」


三人で歩きながら外に出た。

日差しが眩しい。


「ところでお前ら、どうして現世に来たんだ。」

「そりゃ、宝探しだよ。」


一角と千角が笑う。

そして手を上げて挨拶するとふっと姿が消えた。


豆太郎は少しだけそこで彼らの消えた場所を見ていた。

そして車に戻りエンジンをかけようとした。


だが、ハンドルに手をかけ外を見た。


このどことなく寂しい気持ちが何なのか。


それを整理してから一寸法師に戻ろうと思った。








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