鬼  1




「おっさんたち、結界を壊してくれてありがとうなっ!!」


がねのような耳をつんざく声だ。

金剛こんごうは一瞬肝が冷えた。


彼らは鬼だ。

さっきまで殊勝な様子だったが一変したのかもしれない。


一寸法師の皆は鬼との戦いを昔から何度も経験している。

だからこそ、その本性は分かっている。

騙されたのだろうか、と金剛は思った。


二人は玉の上に飛びあがると、

一角が一尺鈎針を振り上げて玉に突き刺した。


硬いものに金属が突き刺さるような鋭く激しい音がする。


皆は思わず耳を押さえた。


そして鈎針が中に入り込む。

針は長く長く伸び、ついに玉の反対まで届いた。


「金剛じいちゃん!」


豆太郎が金剛に走り寄る。


「鬼はどうするつもりだ。」

「分からんけど、あいつらあれを抜くつもりだと思う。

あんなにでかい物どうするんだ。」


鈎針の後ろには赤い糸がついている。

あれもそれほど長くない。


一角と千角は二人で鈎針を持ち、

体を使って玉の位置を変えながら二人は地面に足をつけた。


彼らの顔には青筋が立ちまさに鬼面だった。

頭には角もある。


今まで豆太郎は彼らが人の顔をしていた時しか知らない。

そして今の彼らは紛うことのない「鬼」だった。


彼が払わなければいけない鬼なのだ。


彼の心に悲しみが湧く。


自分と彼らの世界は違うのだ。

何度も話をして彼らと同じテーブルも囲んだ。


だがやはり駄目なのだ。






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