奇襲  2





「ばあちゃん、一体どうなってるんだ!」


豆太郎のラインを見て慌てて鬼界きかいにやって来た一角と千角は、

鬼界の様子に驚いて梅蕙ばいけいの家に飛び込んで来た。

部屋ではパソコンとスマホとタブレットを駆使して

情報を集めている梅蕙がいた。


「そうなんだよ、ちょっと前から空が落ちてきているんだ。」


いつもは獄色ごくいろの空が今は真っ赤に染まっている。

そして空はその中に水が溜まっているように、

下に丸く巨大に垂れさがっていた。


「どうやら人間界で何か起きているようだが、

お前達知ってるか。」


一角と千角は顔を見合わす。


「おばあちゃん、あの赭丹導あかにどう紫垣しがき製菓だよ。

今夜人間が奇襲をかけると言っていたんだ。」

逆数珠ぎゃくじゅずか。」

「多分。それで俺らも来いと言われているんだ。

だから俺達に力になるものは無いかと来たんだけど。」


梅蕙は無言でパソコンに打ち込んでいる。

Twitteらしい。


「おばあちゃん、あのさ……。」


一角が聞く。


「いつ間にそんなに扱えるようになったの?」

「便利だからな。

字はでかく出来るし年寄り向きだ。

それより、お前達、ある程度の事はみなには話してある。」


梅蕙が大きく息を吐く。


「だがなあ、あの赤い粒、

あたしは逆数珠を増やしていると思っていたがどうやら違うようだ。」

「玉が増えるんじゃねぇの?」

「玉の数は108と決まっている。それ以上にはならん。」

「じゃああの粒は何なの、おばあちゃん。」


梅蕙は腕組みをする。


「皆と話はしたが、

あれは人の煩悩の欠片みたいなもののようだ。」


一角と千角は紫垣が口から赤い粒を出していたのを思い出した。

彼はN横キッズにその粒を吸わせていた。

そして紫垣製菓の社員も体内に粒を持っていた。


それをありとあらゆる所にまき散らし、

その人の煩悩を吸わせて大きくする。

それからそれを集めて逆数珠の力を巨大に肥え太らせる。


「と言う事は、日本中に散らばっていた逆数珠玉は

今は全部紫垣製菓にあるって事か。」

「俺達は今5つ持っているけどあそこに行けば全部揃うな。

話が早い。」


一角と千角はにやりと笑う。


「人間どもが奇襲をかけるのはいつだ。」


梅蕙が真剣な顔をして言った。


「ラインで来ただけだからまた良く分からないけど、

今夜は間違いないよ。」

「今夜は満月だからな。

闇の力は弱くなるが、どうして昼間じゃないんだ。」


千角が言う。


「工場には昼間は人がいるからじゃないかな。

俺はそれはどうでも良いと思うけど。」

「それに人に見られたくないんだと思う。」


梅蕙は腕組みをして考える。


「まあ人は人で考えがあるだろうから仕方ないが、

今回はこの鬼界きかいにもとんでもない事が起きそうだ。

こちらとあちらで一気に叩いた方が良いと思う。」


一角と千角が頷く。


「おばあちゃん、赭丹導って昔もこんなに

大きな事を起こすような奴らだったの。」

「いや、それなりに騒ぎは起こしていたけど、

今みたいなどちらの世界にも影響が出る様な事は無かった。

あいつらどうやってこんな力を持ったんだ。」


梅蕙は首をひねる。


「まあ何にしてもこれをお前達の武器に巻いておくと良い。」


梅蕙は細い針金のようなものを出した。


甚大じんだい輪銀りんぎんだ。秘宝だぞ。昔爺さんと見つけた宝だ。

これを金棒と鞭に巻くんだ。力が爆発的に強くなる。

そしてお前らの手首と足首にも輪のように巻け。

ただし取扱注意だ。時間制限があるはずだ。」

「どれぐらい?」

「分からん。使った事は無いからな。」

「ばあちゃん、そんな分からんものを……。」


梅蕙はにやりと笑う。


「怖いかい?」


二人は首を振る。


「いんや。」

「全然。」

「それでこそ、あたしの孫だ。

輪銀りんぎんを使って思う存分暴れてこい。逆数珠玉も使っていいぞ。

何が起こるか分からんからな。

お前らの判断で好きにして良い。」

「おばあちゃん、分かったよ。」

「面白い話になって来たな。」


一角と千角は顔を見合わせてニヤリと笑った。


「そして奇襲がいつか教えろ。こちらも同時に叩く。」


二人は手を上げてあいさつすると姿を消した。


梅蕙のスマホやパソコンには通知音が途切れることなく続く。


「しかし、」


梅蕙は呟く。


「人間界と鬼界の両方に影響があるってどういう事だ。

どちらにもあるものは……。」


梅蕙の頭にふと考えが浮かぶ。


「まさかな……。」


彼女は急いでパソコンに向かった。

急いで孫から聞いた情報を伝えなければいけない。

そしてこの危険な出来事は終わらせなければいけない。


本来は鬼は禍々しいものは大好物だ。

だが自分たちの世界が壊されるのは別だ。

胸糞が悪い話だが今回は人と協力しなければ

無事に終わらない気がする。


梅蕙はスマホとタブレットを持って姿を消した。


これからみなと集まり話をするのだ。








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