ケアハウス一寸法師
「なあ、
綺麗な庭が見えるテラスに
ゆったりと椅子に座っている金剛と呼んだ年寄りに豆太郎が聞いた。
ここはケアハウス一寸法師だ。
お年寄りの世話をする。
柊豆太郎はここの職員だった。
「どれ。」
金剛が手を差し出し、そこに豆太郎は折れた眼鏡を乗せた。
「眼鏡か、真っ二つだな。」
「鬼が身に付けていたんだよ。」
「ほう、鬼か。」
金剛は匂いを嗅いだ。
「確かに鬼くさいが人を喰った臭いはせんな。
どこで手に入れた。」
豆太郎は今朝がたの話をする。
「二人の若い鬼か。」
「そいつら金色のでかい鈎針みたいなのを出して
子供に突き刺そうとしたんだ。
鈎針の後ろには真っ赤な紐がついていた。」
金剛の目がきらりと光る。
「ふむ、それは
「逆数珠?」
「ああ、人が使う数珠とは違って禍々しいものを吸い込む数珠だ。
人に取り憑いて身を太らす。
人間には邪悪だが、鬼には勝機を見出すものだ。」
「鈎針が人に刺さると死ぬか?」
「いや、死なん。むしろ邪気が抜けるから反対に良いかもしれん。」
豆太郎はあの時の二人の鬼を思い出す。
「じゃあ、その鬼はそのままにしておいて良いのかな。」
金剛は難しい顔をした。
「いやそれをどうするかで判断した方が良いな。
それを集めて世の混乱を狙っているなら阻止せねばならん。
ともかく邪悪なものだ。
数は108ある。人の煩悩の数だ。」
「おーい。」
話している二人に桃介とピーチが駆け寄って来た。
「金剛じいちゃんおはよう!」
「おじいちゃんおはよう!」
「おお、おはよう、朝の散歩からお帰りだな。
今日も二人とも元気だな。」
金剛は違和感なく返事をする。
散歩に連れて行っていた老人も笑うだけで何も言わない。
このケアハウス一寸法師は全国展開をしている。
日本の各地にこのハウスはあり、
国のツボとも言える場所に配置されていた。
そしてそこに入所している老人は
全国の神社仏閣の神官などのその関係者しかいない。
この一寸法師は実は日本と言う国を
呪法的立場から保護する目的がある。
入所している人は老人ばかりだが全て現役の法術師なのだ。
だから犬や鳥や猫が喋ろうが鬼が出ようが、
驚く者は誰一人としていない。
「お前達も鬼を見たのか。」
「見たよ、鬼臭かったけど腐った臭いはしなかった。」
「一人は黒髪の短髪でネクタイをしていて、
もう一人は金髪だったわ。派手な格好だった。」
「若い鬼か。多分誰も知らない鬼かもなあ。」
金剛は考えあぐねたようにうなる。
「まあ、しばらくは様子を見るしかないかな。
赤い玉は見ようと思えば見えるが、
どこにあるかさっぱり分からんからな。
ただあまり様子が良くない場所や人に憑いていることが多い。」
「あの時、鬼が道具を使おうとしたのは玉があったからだよな。」
「多分な、でも豆よ、お前は何も見えなかったのか。」
豆太郎は眉を潜める。
「俺は分からなかった。」
金剛はため息をつく。
「お前は見えないのかもしれんな。
あれは見える人とダメな人がいる。
まあ気にするな、気配は分かるだろうし。」
その時、ケアハウスの食堂から軽いベルの音がした。
「じいちゃん、ご飯だ。」
豆太郎は車椅子を持ってくる。
「おお、すまんな」
金剛は足が不自由だ。
豆太郎に手伝ってもらって車椅子に移動した。
昔争いで足が悪くなったのだ。
豆太郎が車椅子を押す。慣れた手つきだ。
車椅子を押しながら豆太郎が大あくびをする。
「なんだ、寝足りんのか。」
「うーん、まあ、路上寝していたガキ共をずっと見張っていたからな。
不用心すぎるよ、あいつら。
置き引きに遭ったらどうするんだ。」
「そうか、優しいな。後からちょっと寝ろ。」
「そうするよ。」
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