第2話 君は悪いスライムじゃないよ

視界が暗くなったのも一瞬、直ぐに視界が明るくなる。

私の目に飛び込んで来たのは風に揺れる木々。



(え?ここ何処?最初のログポは〈エステル広場〉って公式生放送で見たんだけど……)



ログポとはログインポイントの略で、ゲームに入り込んだ際のスタート地点の事だ。

発売記念生放送で、『アルティメイト2』のチュートリアルを終えた後の最初のログインポイントは人間族ならば〈エステル広場〉という街の中である事は分かっている。そのため、エルフをアバターにしている蓮が木々に囲まれるなんて事が起きるはずがないのだ。



(てか、なんか木がデカイな……)



蓮の視界を埋め尽くす木々は蓮が視線を上の方まで上げなければその全体を見渡す事が出来ない。こんなでかい木ゲームにあったっけ?と手を顎にやって考える仕草をした時それはおこった。



フサッ



うん?



蓮の顎にフサフサとした感覚が走る。それを感じた蓮が視線を下に向けると、白いフサフサの手と肉球が見えた。

言うまでもなく分かる。獣だ。



な、なんで私が獣に!?

私のアバターはエルフで作ってあるんだけどっ!?道理で木がデカく見えるわけだよ!

うーん、ログポといい不具合でも起きた?

まぁ、いいや。とりあえずログアウトしよ。再ログインすれば元に戻るでしょ。



私は『利用者権限プレイヤーメニュー』と呟く。私の口から出たクゥンという可愛い言葉と共に私の目の前に緑色のパネルとそれを操作するキーボードが浮かび上がった。



よーし、さっさとログアウトしちゃうぞー……うん?



私は『利用者権限プレイヤーメニュー』の右上にあるログアウトの文字が書かれた場所に目をやる。

するとソコにログアウトの文字は無く、■■■■と黒く塗りつぶされていた。



……………………………うん?



ゴシゴシっと可愛いお手手で目を擦ってもう一度同じ場所を見る。しかしソコにあるのは先程と同じ黒い文字。



も、もももももも餅つけっ!?餅着くんだ!

え!?いや、これ異世界なんとかってやつ!?

そんな訳ないよね!?ちょっと!ログアウト!ログアウト!ログアウト!

全然っ反応しないっ!?あばばばばば………





あれから何度もログアウトを試みたけどそれは叶わず、ましてやずっとお手手を振っていたお陰で少し手が痛くなってきた。

これは『ラグライン』シリーズ……というか、現代のDMMORPGでは有り得ない。

DMMORPGでは痛みを感じることは無いからだ。

つまりこれは……



えー、誠に遺憾ではありますが、私は獣になってしまいました。しかもアレです。異世界何とかって言うやつです。どーしましょ。あばばばば………

と、とりあえずお決まりのステータスでもチェックしようか(現実逃避)。

ログアウトは使えなかったけど、使えそうなコマンドもあるんだよね。ステータスなんかは文字が点滅してるから使えるはず。てなワケでステータスをぽちっとな!



【ベビーウルフ Lv1 /5

HP:5/5

MP:10/10

物理攻撃:3

魔法攻撃:6

物理防御:2

魔法防御:3

行動速度:5


スキル:「全知」「弱者」】



うわ……私のステータス、低すぎ……?

いやちょっと弱すぎじゃありませんか?これド底辺もド底辺よ。

後、私狼なんだ。獣なのは分かってたけど自分の顔まで見れないから今初めて知った。

ま、まぁいい。ステータスが低くても良いスキルがあれば何とかなるかもしれない。

幸い、何故か知らんがスキルを2つ持ってるし見てみよう。

まず「全知」から。名前からして凄そう。



全知ラヴ :世界の知識の結晶。効果:「詳細鑑定」「言語理解」「言語自動翻訳」「武ノ頂」「魔ノ頂」】



あー、これあれだ。特典スキルだ。

特典スキルってのは初心者に与えられる一つのスキルに色々なスキルが内蔵された配布スキルの事。初心者が遊びやすくする為の公式の配慮だ。当然、初心者スキルって言うくらいだから期間限定であり、その期間はスキルによって違う。

ログイン日数で決まるものもあれば、Lvが高くなるまでのものもあったりする。これも何らかの条件がある筈だ。ちなみに私が知っている『ラグライン』の初心者特典スキル【神の知識本インフォメーションオブゴッド】は初めてから100日間限定のスキルだった。


さてと……「全知」の内容は「詳細鑑定」「言語理解」「言語自動翻訳」「武ノ頂」「魔ノ頂」か。

前3つは何となく効果が分かるけど残りの2つはどんな効果なんだろ。



「武ノ頂」:全ての武器種を装備可能。また、武器毎の制限を解除。


「魔ノ頂」:全ての魔法の操作が可能。また、魔法毎の制限を解除。



おぉ!かなり強い効果だ。

でも、これは今の私では宝の持ち腐れっぽい。

だって、私武器も魔法も持ってないもん。



うーん、「全知」についてはこんな所かな。じゃあ、もう一個の「弱者」を見てみますか。なんか強い気がしないけど。



【弱者:他者から受けるダメージが2倍になる】



ふざけんなよ。クソスキルにもほどがあるでしょーが!

私のHP知ってます?5ですよ?3ダメージ以上受けたら即死なんですがそれは。



ガサガサっ



突如、私の後ろで木々が揺れる音がする。

私がその音につられ振り返ると、ソコには小さな水色の球体がいた。あれは……「詳細鑑定」



【スライム Lv3/5

HP:10/10

MP:1/1

物理攻撃:5

魔法攻撃:0

物理防御:2

魔法防御:2

行動速度:5


スキル: 「弱者」】




やはりスライムだ。可愛いなー、ぷにぷにしたいなー、とか考えてたらスライムが私に向かって突進してきた。

突然の行動に反応出来なかった私はモロにその体当たりを食らって後ろに吹っ飛ばされてしまう。



痛ったぁぁぁい!

ちょっ!私のHPどうなってる!?



【ベビーウルフ Lv1 /5

HP:1/5

MP:10/10

物理攻撃:3

魔法攻撃:6

物理防御:2

魔法防御:3

行動速度:5


スキル:「全知」「弱者」】



危ねーっ!秒でゲームオーバーするとこ……待って!スライムさん!お願い!君は悪いスライムじゃないはずだっ!



それから私は突進してくるスライムから暫くの間に逃げ続けた。

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