転生したら狼だった

おもち

第1話 はじまり

2XXX年、とあるゲームが発売された。



DMMORPG『ラグライン』



ゲームと言えばDMMORPGが当たり前となってきた現代において最も人気のDMMORPGである。



『ラグライン』では最初に特殊な能力を持った自身のアバターを作れるがその時に選択出来る種類は人間族だけで30種類もあり、1番多い魔族の種類はなんと1000を超える。これは、2番目に数の多いドラゴン族の500種類の2倍の数値である。

基本的に『ラグライン』のユーザーは初プレイ時に膨大な時間をこの初期キャラメイクに取られる。当然、種族一つ一つに特徴や覚えるスキル、また、相性の良いユニット悪いユニット、生産施設の適正、成長限界、装備出来る武器防具、配置出来る最大数、と上げれば切りがないデータが備え付けられており、それを眺めているだけでも数週間は優に使われるだろう。



それだけではなく、自分だけのスキルや武器防具を作れるのは勿論、ペット、料理、洋服、家、etc……と何でも自分の手で生み出す事が出来た。

無論、公式運営の用意してある素材の組み合わせの中からであるが。



『ラグライン』内で出来ることは非常に多い。例えば、DMMORPGと言えば定番の武器や魔法を駆使しての戦闘行為、所謂、PVPに熱を入れるもよし、ドラゴンになって空を飛び回るもよし、猫になって惰眠を貪るのもありだ。



『ラグライン』内で行える全ての事は基本的にSP(スキルポイント)を使用する。キャラメイクやスキル習得、ガチャや武器防具の生産等。これはモンスターを討伐したりランクマッチの報酬と手に入れる方法は色々あるが珍しい所で言えば、キャラメイクの際に猫等の戦闘能力を持たないアバターを選べば時間経過でも入手可能である。

これは、戦闘に連なる行為をしないユーザーに向けての処置である。勿論、課金をする事でも入手出来るし、有償SPでしか入手出来ないモノやガチャも存在する。



そして何より広大過ぎるマップ。

その広さは解析班が解析出来ない程広大であり、広さは未実装の場所まで含めたら日本の大きさに匹敵するのでは?と噂が流れたがその真偽を知るのは公式だけだ。

その広大過ぎるマップの何処に行こうが何をしようがはユーザー次第。

辺境に自分だけの村を作るもよし、ユーザーが多くいる場所で戦いに明け暮れるもよし、ゲーム開始直後に高難易度のエリアに突っ込み理不尽に全滅させられるのもオープンワールドならではの醍醐味と言えよう。

特に有名なのは〈黒ノ村〉だろう。

基本的に高難易度のエリアには、向かう道中に強い敵が出現したりゲーム側から警告が出たりするが、〈黒ノ村〉にはそういったものはない。

山の中にポツンとある村を探索しようと思い、侵入してきたユーザーを数々ゲームオーバーにしてきた罪深きエリアだ。

発売直後、SNS及びゲーム内チャットでは「【注意】初期に行けるエリアに初見殺しのエリアがあります」「道中スライムのLv3しか出てこなかったのに急にLv90越え出てきたんだが……」「なんか奇跡的に生還出来て草」「〈黒ノ村〉やばくね?」「入って右奥の民家で宝箱見つけた。死んで取れなかったけど、あれ絶対レアアイテムだろ」等、盛り上がったのは懐かしい記憶だ。



そして、今宵、そんな『ラグライン』の続編『ラグライン』2が発売された。





「ただいま」

「んー」



私はバイトから帰ってきて、母親に声をかけると直ぐに自分の部屋へと向かった。

何故かって?当然、『ラグライン2』をやる為。

先日、世界的大ヒットを記録した『ラグライン』の続編が発売された。

私はまだ本格的なプレイが出来ていない。

というのも、アバター作りに時間をかけていたからだ。

ちなみに私のアバターは金髪美少女エルフにした。



とりあえず今日の予定は『ラグライン』の頃のフレンドさんと初級のレイドボスに挑む。

まぁ、私はアバターを作ったばっかだから役立たずだろうけどね。



『ラグライン2』は続編なだけあり、前作のプレイデータを一部引き継ぐ事が出来るため、最初から前作のフレンドとプレイする事が可能だ。

私はゲームミングチェアに座るとログインする前に知り合いに向け『ラグライン』シリーズ対応のチャットアプリを繋いだ。



───ルシファーさん、行けますか?



すると、既にログインしていた〈魔皇帝ルシファー@アニメ好き〉さんからチャットが帰ってきた。



───大丈夫です。お待ちしてます。



それを確認した私はゲーム機を起動した。この〈魔皇帝ルシファー@アニメ好き〉さんは名前はキツいが実力は本物。前作のPVPランキング1位の覇者であり、ひょんな事から仲良くなった私達は良くパーティーを組んでる。

ちなみに私は毎回じゃないけどランキングに乗ったこともある。最高順位は39位、結構強いと思う。まぁ、上には上がいるんだけど。



『次のニュースです。先日、また赤い流星が確認されました。この流星に対し、○○○大学の佐藤教授は───』



私は自分の部屋に備え付けられたテレビを消す。つけっぱなしで家を出るのは私の悪い癖だ。『ラグライン』シリーズ以外の事がどうも疎かになってしまう。

今朝も今日のレイドボスの事を考えていたので、テレビがついてることに気づかなかったのだろう。



私は『ラグライン』以外に人生に楽しみがない。

根暗ゲーマーの大学中退の彼氏居ない歴=年齢の週4フリーター、準無敵の人だ。

月の収入は10万くらい。実家暮らしなので家賃は要らないので、そのうちの4万を税金と家に収めることで暮らしている。

基本的にご飯はスーパーで買った冷凍食品かお母さんが作ってくれたご飯。

なので食費が浮いた私の余ったお金は全部『ラグライン』シリーズにぶち込んでいる。

自分でもとんでもない社不だと思う。

でも、これ以上ないのだ。『ラグライン』シリーズだけが私の人生に色を付けてくれるのだ。

私はゲーム機を取り付けると、そのまま目を閉じた。



しかし、そんな私に凶兆が───赤き凶兆がすぐ側まで迫っていた事を私は知る由もなかった。

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