踏み台
「パーティーの茶番には不必要な殺気だ」
彼は正体を看破された悪役のように顔を歪ませ、見誤った力量に対して襟を正す。これ以上の攻防に発展させたなら、お互いにタダでは済まない。このまま、大立ち回りを演じる価値は果たしてあるのか。
「……頼むよ。おれはそこに行く理由があるんだ」
傷付けようと刃物を振るった側の意見としては最悪だ。手前勝手な理由を掲げた上、懇願する始末にを得ない彼の態度について、頭ごなしに悪罵を重ねて、どれだけ恥ずべき事をしているか、詳らかにしてやりたい。
「それを俺に頼むなよ。中の奴に言え」
俺はそこから意識をなくした。次に目を覚ました時には、自分の部屋に出戻っていた。頭に残る鈍痛から察するに、背後から不意の一撃を貰ったようだ。俺をここまで運び、甲冑まで脱がす労りに感謝する。それにしても、最初から最後までやり通した依頼が一つもない。達成し難いものなのか。それとも俺にツキがないのか。
「……」
考えても答えは見つからない。マイヤーに訊いてもきっと、苦心しながらこう答えるはずだ。「毎回、こんなことがある訳じゃないから」と。
頭の痛み以外に違和感のある箇所は見つからない。「仕事」という単語を使って俺を説得しようと試みた手管から鑑みるに、彼は個人的な恨みを募らせてあの場に挑んだ訳ではないと分かる。
俺は、大広間に誰かいるだろうと踏んで、部屋の外へ出た。あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。携帯電話の有り難みと、曜日という概念によって定義されたサイクルは、文明社会の営みに欠かせぬ比類ないものだと再認識させられる。
「おっ、カイル。目を覚ましたみたいだな」
後方から声を掛けられて殊更に驚く同じ轍は二度と踏まない。俺は努めて冷静に振る舞う。
「なんだ。リーラルじゃないか」
「良かったよ。元気そうで」
依頼を台無しにし、不甲斐ない結果に終わった事への皮肉を言われても仕方ないと思っていたが、リーラルは安堵の笑みを見せて身体の調子を慮ってくれた。
「運んでくれたのは君かい?」
「外で倒れていたからビックリしたよ」
終始、リーラルの手を焼いてしまった情けなさから、頭がより重く感じる。
「すまない」
「謝ることじゃない。シャードの奴らに不意を突かれたんだろう?」
リーラルが言う、「シャード」とは俺が相手にした冒険団の名前だろうか。
「本当にどうしようもない奴らだ」
舌打ちで誹るリーラルの姿に全くもって同意する。同業者を襲う尊大な行いは、依頼主と謀り月照の首を狙った野盗と何が違う。
「シャードの奴ら、暗殺を自作自演だと講説すると、鍛冶屋のヨルネに全ての原因を押し付け、事態を片付けやがった。全員、そんな事は承知した上で、誰が上手くその場を仕切るのかを競い合っていたのに、禁じ手に出たんだよ」
「ヨルネ」とは状況から察するに、初老の男を指しているはずだ。そして、俺が真っ先に口に出した一つの可能性を乗っ取られたという事実に、怒りが湧いた。
「それって、俺のやった事とどう違うんだ!」
「外連味が足りなかったな」
後から颯爽とパーティーに登場し、のべつ幕なしに捲し立てれば、その場の空気をぶち壊すのに充分な不条理さを身に纏える。つまり、最初からパーティーに出席した俺が幾ら文句を飛ばしたところで、世迷言のように扱われて黙殺されても仕方ないという事。唯一出来た事といえば、暗殺者の皮を被った傾奇者をブチ殺して無理矢理、言う事を聞かせるしかなかった。
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