出会い——Merry have we met

 胴体から切り離されたぼくの頭が、敷き詰められた藁の上にゴロンと落ちた。


 こんなに頭は重かったのか。

 吹き上がる血が、藁に吸い込まれていく。

 首の切り口が燃え上がるように熱い。


 ぼくが鶏だったら、頭のない胴体は藁を蹴散らし処刑台を飛び降りて、集まった野次馬の間を呪いながら駆け回っているだろう。

 だが、後ろ手で縛られた体は、座ったままで痙攣するだけだ。


 目隠しがずれ、血だらけの斧を持った処刑人が目に入った。


 この大男も家に帰れば、一人の父親。

 首切りの今日の稼ぎで、一人娘にみやげを買って帰るだろう。

 買うのは甘いお菓子か、小さな人形、それとも、尨毛むくげの子犬だろうか。


 大男の頭上には真っ青な空と白い雲が広がって、一羽の鳥が飛んでいた。


 ぼくの血を吸ってベトベトになった藁は不快だけれど、その不快さを感じるのもあと僅かだ。

 視力が消えて、青空も暗闇に変わっていく。

 ぼくの斬首に興奮し歓喜する野次馬たちの声も消えかけている。


 頭を落とされた体は、どうしているだろう。痙攣は、もう止まったろうか。

 見えなくなった目から最後の涙がこぼれ、頰を伝う。




 不意に耳元で声がした。

「首のない鶏はね。いくら走り回っても逃げ場はないの。すぐに捕まり羽をむしられ、丸裸にされて食べられてしまうのよ」


 鳥の声だ。真っ青な空と白い雲の間を飛んでいた鳥の声だ。


「あら、いやだ。まだ、聞こえていたのね」


 鳥はケラケラと笑い、ぼくの頭の下から血に染まった藁を引き摺り出すと、飛び立っていった。

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