『ダンジョンシーカーズ』 ~スマホアプリからはじまる現代ダンジョン制圧録~
七篠康晴
序章
第一話 不思議なスマホゲー
歩くことを始めて、ふと、歩くことをやめる。下校時間の夕焼けにカラスの群れが照らされて、カァカァと鳴く声が聞こえた。
見飽きた高校からの家路に深いため息をつく。代わり映えしない。まるで俺の人生のようだ。
停滞感の中を、常に生き続けている。それを打破したいと、必要な努力は欠かさず行ったし、人の勧めで人生を彩る様々な趣味にチャレンジしてみた。
しかしどうしても、魅せられるようなものがない。心の底から楽しいと思えたのは、ずっと前の子供の頃の話。木の枝を握って、おじいちゃんの持っていた山を探検した時だろうか。あの頃は、世界が未知で満ちていた。
(何か……変わったことでも起きないかな)
右手に握った学生鞄を肩に乗せ、考える。
ただなんとなく、行ったことのない場所へ行きたいと、一度も足を踏み入れたことのない住宅街を行った。
電柱が立ち並ぶ路地を歩く。通りには誰もおらず、閑散としている。たかだか数歩逸れたところで、先程までの帰り道とやはり何も変わらない。
そう思って、踵を返そうとした時。電柱に貼られた、白い紙に気づいた。
「なんだこれ……? QRコード?」
白地の紙に乗せられた、黒のQRコード。異質な存在感を放つそれに、気づかない人間はいないだろう。
迷子犬のポスターやら、交通安全を喚起するポスターが貼られているのはよく見るが、QRコードの貼られた電柱など見たことがない。
詐欺のサイトに飛ばされる、とか。エロサイトに飛ばされる、とか。新手のいたずらか何かだろうか。
……くだらないと切って捨てるのは簡単だ。だけど、このQRコードを読み取ったらなんのサイトへ飛ばされるのかちょっと見てみたい。俺はそれだけ、退屈なんだ。
スマホのカメラを起動して、QRコードを読み取る。画面をタップしてブラウザに飛ぶと、そこには一つのメッセージが記されていた。
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おめでとうございます! 貴方は新作スマートフォンゲーム『ダンジョンシーカーズ』への招待状を入手しました!
リンクをクリックして、ゲームをダウンロードし、探索者生活を始めてください! ”素質”ある貴方に提供される、新世界が待っています!
↓
https://www.××××.×××/×××/××××
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「なんだ、ソシャゲの招待リンクか。ダンジョンシーカーズ、聞いたこともないけどな」
ソシャゲを装った詐欺サイトかと疑ったが、リンクを見て察するに、そこそこ信用できそうなドメイン名をしている。
”素質“ある貴方に提供される、新世界か。重課金の素質か?
せっかくだし、まだ続けてみよう。リンクをタップ。
その時、なんと俺の携帯の画面が真っ暗になり、『Start Downloading……』と表示され始めた。
「はあ? 嘘だろ? これオレンジ社のスマホだぞ……セキュリティ高いって聞いてたのに……」
突然始まったスマホのあり得ない挙動に、ビクビクする。ロードが終了し暗転した画面が明るくなると、そこにはなんら変わらない、壁紙とアプリたちが映っていた。
なんなんだろうと驚きつつも、少しワクワクしてくる。電柱に貼られたQRコードから、こんなことが起きるとは思っていなかった。
アプリ欄をスワイプしてチェックしてみると、見たことのないアプリがダウンロードされていた。アプリの名前は、『ダンジョンシーカーズ』。
剣を握った騎士と杖を抱えた魔法使いのイラストが、アプリのアイコンになっていた。パスワードとか、何も入力していないのに。
ちょっとやばいんじゃないかと思いながらも、ワクワクが止まらない。親指を動かして、迷うことなくアプリを開いた。
「うおっ……本格的にソシャゲだな……」
追加ダウンロードもなく開かれたゲーム。ゲームのホーム画面には、『ステータス』『アイテム』『フレンド』など……本当によく見たことのあるもののような、レイアウトをしていた。具体的に言うと、某引っ張りハンティングのような。数年前にやめたけども。
すると画面上。利用規約とともに、バカ長い説明書が急に出てきた。なんだこれ。今時のスマホゲーでこんなん出すやついるのかよ。
とりあえずスキップ。最初に説明書を読まないでゲームするタイプだ。俺は。
なぜか何回も鬱陶しい警告があったが、説明書を閉じて、レイアウトの中をチェックする。
他のソシャゲと変わらない見慣れたテンプレ的レイアウトの中に、『シーキングカメラ』という、謎の項目があった。
ははあ。なるほど。カメラを使って、遊ぶタイプのゲームなんだな。これは。そう思ってゲーム内カメラを起動し、周りに何か見えないか、チェックしてみる。
住宅街。ゲーム内カメラを通して見てみると、奥の電柱に煙のような靄があった。紫色のそれは、渦潮のように動いている。
カメラにそれを映したまま、近づいていく。渦潮から2mぐらいの場所まで来たら、『突入』というボタンが出てきた。これを押せば、ゲームが開始されるのだろう。
謎の新作ソシャゲ、『ダンジョンシーカーズ』やらせてみろよ。
「うわっ……!? まぶっっ!!」
『突入』ボタンを親指でタップした俺の顔が、スマホから飛び出る眩い白光に照らされた。
顔を覆った右腕を退けて、俺の視界に映ったのは薄暗い坑道のような場所。
は?
壁は綺麗に石材で舗装されていて、一定間隔で置かれた松明が無明の闇を照らしている。こんな場所、見たこともないし、聞いたこともない。
いや、違う。俺はこんな場所を知っている。これはまるで━━━━
「ダンジョン……?」
キキキと笑う、謎の生物の鳴き声が、狭い道に反響した。
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