顔の無い男 (一)

 大学も春休み期間中、そんな学生たちで運転免許の実車教習もキャンセル待ちという状況のため連日あまり遠出する用もない。外はまだ冬の寒さのピークを過ぎたばかりという状況のため部屋で寝転がりながら動画を見ていた。そろそろ日付が変りそうだ。続きは寝る支度くらいしてからだと思っていると、動画がいきなり着信画面に変わって危うく取り落としそうになった。

 その画面には西宮翠、つまりバイト先の上司からの電話だった。

「はい、遠……」

「お前、今すぐ来れるな」

 真夜中に唐突な、有無を言わせぬ出勤のお誘い。聞く人にとっては命令と言えるし、また聞く人にとってはいつもの彼女とも言う。行けないことはないのだが、こんな真夜中。断ろうと思ったのだがかえって気になってしまい一応理由だけは聞いてしまう。

「何かあったんですか?」

「聖アリン女子高、知ってるな」

 夜食を作れとか掃除をしろとかを覚悟していたら、思いもよらぬ名前が出てきて完全に不意を突かれた。聖アリン女学園高等学校、その名の通り生徒は女子だけだがお嬢様学校として名高い名門中の名門だった。大企業の重役や国際何ちゃら機関の理事長、たしか現職の衆院議員にも卒業生がいたはずだ。つまりは僕のような一般男性には一生縁のない存在。

 知っている。が、縁はない。よってこの電話、切ってもよいだろう。そう思っていたら、

「実は……生徒が消えたらしい。それもニ十人同時に忽然と」

 神隠し。突如消えた生徒たち。

 詳しい話は来てからすると言われて、電話は切れた。聞きたいことは次から次へと浮かんでくる。まずは何であれ彼女のいる実験室に向かわなければならない。

 そういえば僕は一言も行くと言っていなかったよな、と今更になって気がついた。

 

 手荷物を引っ掴んで自転車に跨り、夜道を急いで彼女の待つ事務所兼実験室にたどり着くと丁度入り口で車のエンジンがかかる音が聞こえた。その運転席に翠さんの姿があった。彼女も僕を認めるとすぐに脇に乗るように合図したため、自転車を停めて助手席に乗った。挨拶する間もなく車は走り出した。

「聖アリンですか」

 行き先は、という言葉を欠いたにもかかわらず彼女はそうだと答えた。そして僕から尋ねるまでもなく何があったかを話し始めた。

 異変が起こった、正確にはその時点までに何かが起こったと推測されるのは、日は跨いでいたが数時間前の午後七時過ぎだった。大学とは違い高校はまだ春休み前の授業だったから放課後の午後七時近くまで部活が盛んに行われていた。聖アリンでは体育棟とか教室を使用した際は活動終了後に使用報告を提出する必要があるのだが、実習棟という、広い多目的ルームをいくつも備え部活動や体育の一部の授業を行う施設を使ったはずの団体の一つから届出がなかった。その団体が二十人で活動していた演劇部で、これが消えた生徒たちだという。

 届出の管理者は当初はただの出し忘れだと思っていたが、今まで演劇部が忘れたことはなかったため、もしかしたらまだ部活中なのかと考えた。その場合施錠時刻までに帰宅させる必要があったから演劇部の活動場所に行ってみた。すると部屋はもぬけの殻でやはり出し忘れかと思ったのだが、一階の演劇部の靴置き場にはまだ二十足ほどの靴が置かれたままだった。不審に思った管理者が他の職員にも連絡して、そこから直接生徒にも連絡しようとしたのだが生徒は皆音信不通。そうしているうちに保護者からも子供が帰っていないと連絡があっていよいよ大ごとになったという。

「警察には……」

「呼ぶとは言っていた。誘拐だったら下手に警察を呼ぶわけにもいかないという結論と体面があったりで、ついさっきまで大激論だったんだとか」

 だからと言ってじゃあ何で翠さんが、そう尋ねると彼女は難しそうな顔をした

「あそこは……どうも妙、なんだよ」

「妙?」

「あの土地では昔から何人か人が消えてるんだ。あの学校は丁度創立百年くらいでその前には当時の軍隊の学校があったそうなんだが、その頃から人が消える話がある」

 彼女は話を続けた。あの場所ではこれまで学生や教職員、それに物が、軍学校や聖アリンになってからも消えているらしい。特に昔、聖アリンの生徒が消えた時には大騒ぎになったようだが、結局は分からずじまい。厳格な家庭から逃れようとしたとか駆け落ちしたとか噂がたって、真相は忘却の彼方に消えたという。

 しかし、奇妙な話もあった。日露戦争後のある日、一人の警官が軍学校の近くの道を放浪している軍服姿の不審な老人を怪しんで素性を尋ねたところ、その老人が口にしたのは、軍学校で数年前に神隠しで消えたという学生の名だった。

 彼はどう見ても六十は過ぎている姿で警官は何度もきつく取り調べたが、老人は主張を変えなかった。ふと老人が「戦争は終わりましたか」と聞いたので警官は「東郷閣下の采配じゃ!勝ったに決まっておろう」と答えたところ、老人は腰を浮かせて「あのバルチック艦隊を破ったのですか」と驚愕した。子供でも知っている話をまるで初めて聞いたような様子だった。

 業を煮やした警官が老人の言う「家族」のもとに連絡したところ、その老人の兄という人物、つまりまだ二十そこそこの若者がいることがわかった。一計を案じた警官が兄とされる人物に警官の衣装を着せ、部下を装って老人の前に姿を見させた。すると老人が一目見た途端「これは兄に違いない」と若者を抱きしめ泣き崩れたという。しかもその老人からは家族しか知り得ない兄の黒子の場所とか子供時代の思い出が滔々と語られるのだった。数年前に消えた弟が五十近く歳をとった姿で帰って来たのだった。

「それに生徒の間でも妙な話がある。聖アリン七不思議の一つとして、生徒たちが集団で消えることがあるらしい。実際には一時間かそこらで出てくるらしいんだが、その神隠しにあった生徒たちは皆、丸一日どこかにいたんだと言うんだとさ」

 確かに本当なら奇妙な話だろう。翠さんがあの学校に興味を持つのは頷ける。しかし、なぜ翠さんが昨日今日起こった演劇部生徒の失踪事件を知っているんだ。さっきの話だと関係者以外極秘であろう詳細情報まで聞いているようだったが、一体どうやって知り得たのか。

「そりゃ当然、あの学校の先生から聞いた」

 何が当然なのか、なぜあの学校に繋がりがあるのか疑問が降って湧いた。

「だっても何も、あの学校は大事なクライアント、、、、、、だからな」

 クライアント、一瞬横文字の並ぶコンサルティングとかセキュリティとか、何とも今風ハイクラスで高収入な関係があるのかと期待したが、実際には怪しげな「占い」だった。

 お嬢様相手に魔女の力を使った高額な占いで一儲け、これが彼女の貴重な収入源の一つだという。

「あんな世間知らずのお嬢様の悩みなんて、私の力を使うまでもない。使わなくても当たるし、使っても当たるんだから全くの合法取引だ。先生も来るくらいだし。それにオプションで当たるように仕込んでやることだってできる」

 その本人曰く「当たると評判」の占いによって彼女は聖アリンへ隠然たる諜報網を持っている。今回の失踪事件も困惑した先生の一人が大慌てで相談してきたのだという。

 僕のバイト代も、そんな良いんだか悪いんだか分からないお金が出どころなのだと知って、どうにも複雑な気分になった。ふと窓の外を見ると家々の向こうに白い建物が見えてきた。闇夜の中で明かりが点けられくすんだ白い壁のように見える。しかしこの街の人ならあの影に浮かぶ建物は実際には美しい白亜であることをよく知っている。聖アリン女子高だ。

 

 聖アリンに到着すると車は駐車場に誘導された。土曜日になった真夜中というには多くの車が停まっていた。学校の脇を通った際に校庭が見えたが、ナイター用ライトの中でなお懐中電灯を振る人の姿が見えた。失踪した生徒を探しているのだろう。

 車から出ようとしていると三、四十代くらいの一人の女性が誘導員と話をしていた。すぐに話は終わったようで、女性は僕たちの方へ、挨拶するように会釈しながら駆け寄って来た。すると隣の翠さんが「あの人だ」と言って車を降りた。あれが、翠さんに連絡して来たという先生なのだろう。

「いや、すみません、わざわざ…」

「いえ、それで何か進展はありましたか?」

「ああ、警察はさっき来たんですが今のところそれだけで、ああ、あと保護者を…あと、そちらの方は…?」

 困り顔の女性の目が僕の方を向く。翠さんが僕はアシスタントでありこの件も既に知っているという旨を説明すると、ひとまず納得したようで早速現場に行くこととなった。一応僕らは失踪した生徒の親族という設定だそうで、そう言いながら僕らを案内するこの女性は大宅千智おおやちさとという国語教師だった。

 車窓から見えた、要塞かそうでなければ大銀行の本店といった堂々たる白い建物が本館で、学生たちの教室はここにある。その入り口は石造りの大きなアーチとそれを支える太い柱が堂々たる構えで、まさしく聖堂や神殿のそれだった。この門を毎日くぐると考えると気後れを感じる。ここに来てなお、やはり聖アリン生は僕とは一生縁がないと思わざるを得なかった。

 幸か不幸かそんな本館の前を素通りしてぐるりと脇を回って本館の裏手に出た。校庭や体育館などはそちらにあり、建物同士が渡り廊下で接続されているものも多かった。

「あの建物は教会ですか?」

 白い建屋に時計塔がくっついたような、他に比べれば小さな建物。塔の先には十字架が立てられていた。

「ええ、そうです。ここはキリスト教系の学校ですからね。信仰を強制はしませんが、社会や道徳の涵養を深めるためにも宗教の授業もありますから。コンサートもあったり……その、演劇部も使っています。大きなものはできませんが、朗読劇もあるようですから」

 不意に失踪した彼女たちの日常の姿が思い起こされる。女子高の、教会での、朗読劇。どれもあまり僕には馴染みのあるものではなかったが、どこにでもいる普通の高校生の日常が途切れ、その現場にいるということに不安を感じた。

 大宅先生は教会の斜向かいにある建物を見ると指差した。その建物の前には他の教職員の姿があり、腰に手を当てたり電話をしていた。もしかするとあの中に警察もいるのかもしれない。

「あれが実習棟です。あの二階で演劇部が活動していました」

 

 大宅先生の上手いあしらいのおかげで、親族を装った僕らが来ると他の先生は気まずそうに萎縮してしまったと見え、特に怪しまれず二階の演劇部がいたはずの場所に上り込むことができた。

 長方形の広い部屋で長い壁の一面は大きな鏡となっていた。床は適度に滑りにくくされた動きやすそうなフローリングで、天井には音響装置やカメラが備えられていた。

「鏡はダンス部や演劇部が振りの確認、ボールとかを使わない範囲で他のスポーツ部が使っています。反対の面にはプロジェクターで等身大に近い録画映像を映せます」

 これは演技をする人にとって便利だろう。他の階もこんなかんじなのだろうか。

「同じ設備は三階にもありますが、それ以外の部屋は茶室だったり美術系の工作室があります。ここなら大型の作品を置きっぱなしにできますから」

 明かりはついているし三人いるとはいえ、深夜に大きな鏡を見るのはどうも気が落ち着かない。嫌でも背後というか、不可知の世界というべきものを意識させられてしまう。それを知ってか知らずか翠さんが独り言のように言った。

「鏡を見ると、自分が棚やテレビと同じ、世界の中のただのモノでしかないことに気付かされるからな。よっぽどのナルシストでない限り、自分のちっぽけさに不安にもなる」

 そうかなあと考え鏡を見る。……別にそう良くもない一般的男子大学生の姿。まあ、不安にもなる。「今鏡見たろ」と翠さんのしてやったりという声。

 靴がそのままだったから生徒たちはこの建物の中で消えたと思われる。しかし壁にも床にも天井にもその姿はなかったと言う。

「お二人が来る前に配管スペースも見たんですが、人の入った形跡すらありませんでした。それにこの学校は外部との境界全てがカメラで監視されていますが、この学校はおろかこの建物からすら出ていないようです」

 上の階で活動していた生徒に話を聞いたところ、それらしい生徒を見かけた者はなかったという。それならやはりこの部屋で消えたのか、そう思っていると階下から声が聞こえた。僕たちのことを呼んでいるようだった。

 とりあえず一旦外を見てみるか、という翠さんに従って部屋を出るようとする。その時視界の端にちらと黄色いものが写った気がした。あれ、と振り向くが何もない。「どうかしたか」と聞かれたが、いえ何も、という他なく実習棟を後にした。

 

 実習棟を出るとまた別の職員が来ていて、保護者控え室に案内しようとしてきた。翠さんが言うには神隠しは場所が最も大事とのことで、まずは周囲を見て回るのが先決ということだった。そのため大宅先生も間に入って控え室へ行くのを断ると実習棟前の集団を離れた。

「そういえば配管を確認した時は図面か何かを確認したんですか」

 翠さんが問うと大宅先生は頷いた。

「ええ、図面とか土地に関するものはまとめてあったみたいで、それをひっくり返して……」

「それ、見せてください」

 翠さんがきっぱり言うと大宅先生は一瞬たじろいだようだが、すぐに僕たちを案内した。

 

 上を下への騒動となっているらしい職員室近くの一室に案内されるとやがて大宅先生は両手にどっさりと資料を抱えてきた。

「図面関係で見ていたのがそれらしいんですが、見たところ土地のものもありました…あまり長くは借りられなさそうですが…」

「そこまではかかりません。……私はあの部屋の構造を見てみるからお前は、そうだな、過去にあの場所に何かあったか調べてみろ」

 調べろと言われたってと思った矢先に目の前に地図のようなものをどさっと置かれる。十年ほど前の地図で「建設予定地」という言葉が書かれていた。おそらく棟を増設した際の資料だろう。地図をめくっていくと、時代を遡って同じような内容の地図が重なっていた。

 地図を読むに実習棟が建てられたのは二○○○年に入ってからで、その前は六十年代に建てられた体育館の一画だった。そのように遡っていくと、やがて聖アリンの関係しない建学以前の資料となった。この資料は単純に地図の収集といえるもので、あの時を越えた青年の言う日露戦争のころは確かに軍学校の宿舎となっていた。

 紙自体は百年前にしてはやけに新しいもので、それに当時は軍事施設の詳細が載った地図は一般には発行されていなかったのではないか。とすると後世の聖アリンの教職員が学園の歴史の調査のために加えたのだろう。

 そして一八八○年代後半、軍学校の大部分がなくなった。この地に軍学校があったのは四十数年間ほどだそうだ。そしてその少し前、軍学校の建物の一画が残っていて、というか軍学校が後にその建物を利用するようになる建物があった。名を「式山癲狂院」と言った。当時の精神病患者病棟が今の実習棟とは一部が重なる位置にある。

「実習棟の建物には特別、魔を引き寄せたりする特徴はないな……」

 隣で翠さんがため息をつく。丁度のタイミングだったのでそのことを伝えると、興味を惹かれたようだった。

「病院か……病院は‘“溜まる”からなあ……」

 その時大宅先生が「あの、そろそろ……」と切り出した。部屋に掛けてある時計を見ると午前一時五七分。もうこんな時間か、と思いふと腕時計を見ると午前二時○三分。

「あれ、時計がずれてる」

 時計を直そうとすると、横から「あれ、わたしもだ」と翠さんの声がする。彼女の腕時計もずれているようだ。とすると、三対二でこの掛け時計の方が間違っているのではないか。

「あの掛け時計、ずれてません?」

 そう翠さんが問うと大宅先生は首を振った。

「いえ、そんなことは…この学校の時計は全部正確に時刻合わせをしていますから。それにその時計は職員室と同じ物で、電波を受信して毎日自動で調整されますし…あれ?」

 そう言った大宅先生は自分の腕時計を見つめていた。「ずれてる」素っ頓狂な言葉とともに部屋を出ていく。やがて戻ってきた彼女は狐に摘まれた表情をしていた。

「おかしいですね……他の時計はこの掛け時計の通りなのに、私たちの腕時計だけおかしいみたいです…」

 そう聞くと翠さんはがたんと椅子を跳ね除け立ち上がった。

「やっぱりあの部屋がおかしい。丁度丑三つ時だ。また見てみよう」

 山積みにされた資料そっちのけで僕らはまた実習棟に向かった。

 

 鏡の前には僕と翠さんの二人。大宅先生は外で他の先生と話し合っている。

 この部屋に入ると時間の流れがおかしい。それがもう一つの世界の存在を暗示しているのだという。

「空間が重なり合っているんだ。空間が重なってるから中の光は周囲の倍の距離を走らなきゃならない。しかし光の速度は不変でなければならないから、光の速度が倍になるのではなく、中の者が倍の時間かかったと感じなきゃならない。そのため、中では外の倍の時間が過ぎることになる。そうアインシュタインは言っている」

 こじつけであろう。彼女の言い分はたぶん常にマイペースの光にあわせて周囲が時間を伸び縮みさせてやらなければならないということだろう。マイペースな人に付き合うと周りがいつも可哀想な思いをする。

 その結果、この部屋の空間が歪むと中では外よりも体感時間が長くなる。

「それなら、この部屋の裏にある空間に生徒が迷い込んだとすると、向こうではもう何日も経っている可能性があるんですか?」

「たぶん、そうなんだろう」

 どうも焦りが湧いて来る。急がないと急速に老いてしまいかねないということだ。しかし、どうやって入ると言うのか……

 深呼吸して鏡を見る。すると視界の隅に黄色い物体が写る。右後ろの床に何か落ちているようだ。何かな、と振り向くと、その実際の床には何もない。

「どうかしたか」

 僕の様子に気づいたようだった。

「ああ、そこに何か黄色いものがあると思って……あれ?」

 また鏡を向いたら、やっぱり黄色いものがある。鏡の汚れか?気になって鏡に近づくと、「それ」はやはり床の上にあるように見える。見ると黄色い紙片のようだ。しかし、実際の床には何もない。「何ですかこれ、一体……?」そう尋ねると彼女もその紙片に気づいたようだった。歩み寄りながら「手をつなげ」と言われ思わずすがるように彼女の手を握ってしまう。

「鏡の方を見ながら動け。あの紙のもとへ行って手で掴んでみろ」

 クレーンゲームをやるように鏡の中の自分たちを紙片に近づけていく。そして恐る恐る空いた右手を紙の方に伸ばすと、床ではないものに触れ咄嗟に少し引っ込める。しかしその感触は紛れもなく紙。意を決してそれを掴むと紙を手にした感触があった。

「見てみろ」

 言われて右手を見ると、その手には確かに名刺大の黄色い紙片が握られていて、紙には直筆の文字で右から左に「新作演劇開催中」と書かれていた。飾り線が引かれそれはさながら……

「自作のチケット、ですかね」

 翠さんと顔を見合わせる。そして何となく鏡を見て驚愕する。鏡の中の僕たちの周囲は木板で囲われ、背後の窓には格子がはめられていた。

 何だあれ、そう思って鏡から目を逸らすと、現実世界の僕ら自身の周囲も木板と格子に囲われていた。

 僕たちは、いや僕たちも、実習棟から気板の間へと迷い込んでしまった。

 手にしたチケットがもぎりされたように欠けていることにも気が付かなかった。

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