王家からの報告(下)

 トーコは装置でドアを閉めた後、穀物の茶をすぐに作って、イスに座っていたオズワルドに差し出した。


 愛想良く振る舞っていたトーコだったが、何となく元気が無いのは、家に入ってからすぐ、オズワルドも察していた。


「もし良かったら、飲んでね」


「ありがとうな。……置いてある手紙、もしかして……、アイザック様から、か?」


「えっ、そうだよ? ん……、アイザック、『様』?」


 封筒の中身を開けて、手紙の文章を読み始めていたトーコだったが、急にポカーン……として顔になり、オズワルドの方を見た。


「二十一の時まで、王宮の近衛兵として働いていた」


「えっ、そうだったの!? 全く知らなかった……」


 まあ、近衛兵とはいえ、王宮の規模だと数百人は居る故、トーコがオズワルドのことを知らないのは当然だ。

 よほど近い距離で働いていなければ、顔見知りにすらなれないだろう。


「……で、手紙の内容は?」


「うん、……えーと、ね――」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 我がめい、トーコ殿


 この度、次期王位を継ぐ、我が息子のジュリアンが結婚することとなった。

 来年の冬に、正式な入籍と、国民への披露ひろうをする予定になっている。



 事前に、顔合わせの食事会を行う故、参加して頂きたい。

 今月半ばの土曜日、太陽が南中して少し経つ昼間に、王宮の中央にある大広間で、食事会を行う予定だ。


 当日、昼前には、後宮に来て欲しい。

 よろしく頼む。


              アイザック


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 と、上記に書いてあることを、トーコは簡略化して、オズワルドに話した。


(いろんな方々と浮名を流していたジュリアン様が、ついに……か。

 それなら、あ〜……。今年の秋は、王宮に行かないといけない機会が、多いかもしれないな……)


 トーコは、オズワルドにも聞こえるくらいの、大きくて深い溜息が出てしまった。

 手紙の内容を読む前より、彼女はさらに元気を無くしているようにも見えた。


「……当日は、俺も王宮に行くか」


 茶を飲み終えたオズワルドが、そうポツリと言うと、トーコは「え?」と、再び思考停止の状態になった。


「アイザック様の護衛を頼まれていた時期があった由縁ゆえんで、オスカー様とは今もつながりがあるんだ。

 ……でも、まずは、きちんと挨拶しねーとな」


(お父様も、顔見知りなのかな? てか、私……オズワルドさんのこと、あまり知らなかったんだな……)


 トーコが心の中で呟いた時、オズワルドは床に置いてあったかごを背負い、立ち上がった。

 その後すぐ、トーコも立ち上がって、オズワルドを見送ようとした。


「相談したいから、また仕事の合間にでも来る」


「ありがとうね。それと……婚約してからゆーのは変かもしれないけど……、今日オズワルドさんのこと、もっと知れて嬉しかった……な」


 「えへへ」とトーコが笑うと、オズワルドはハッした表情になった後、下を向いた。よくよく見ると、両頬りょうほほが少し赤くなっているようだ。

 

 すると、オズワルドはトーコの左頬に、やさしく口付けをした。


「……!」


 「またな」と言って、オズワルドが家を出た後も、トーコの顔はリンゴのように赤いままだった。

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