短編集
黒白 黎
恋なんてしなければ
沖田先輩の誘いに私は黙って従った。先輩はひとつ年上で周りから面倒見がいいと評判だが、私に言わせればそう見えているだけで実際は相手を見くびって従わせている風にか見えない。
「なんすか」
私がぶっきらぼうに言うと、沖田先輩はどついた声で言う。
「お前がよく振舞わないから、俺が悪く見られている」
知ったこっちゃないと、言いたいがそんなことを言えば沖田先輩は強く当たり散らすだろう。
「すみません…」
不甲斐なく気弱な自分を呪った。
「よし、沖田先輩は強くてカッコイイと風潮してこい。そうしたら許してやる」
なにを許してやる、だ。自分がカッコイイと見せているだけで本心…中身はゴミだ。周りの子たちがこんな男に惑わされるなんて、この学校も落ちたものだな。
「なに見てんだ」
「いえ、いってきます」
沖田先輩はカッコよかった。誰よりも優しく誰よりも困った人を助けてくれる。まるで救世主(ヒーロー)みたいな人だった。沖田先輩を慕う子たちは多い、先輩から後輩、または教師までいる。幅広い世代を独り占めをしている先輩を私は告白した。他の誰よりも多くの告白を受け取っているはずの沖田先輩は他の誰よりもと、私に「いいよ」と答えてくれた。
だけど、蓋を開けてみれば、幻想をぶち壊す――まさにシリアルキラーみたいなやつだった。こんな男に騙されるなんて、はー私ってなんて見る価値がなかったのだろうな。
でも、いいんだ。沖田先輩の悪い風潮を流している。沖田先輩が影からどんなことをしているのか広まれば、きっとみんなわかってくれる。そう願いたい――「た、たい…がく…!?」信じられないことを告げられた。場所は校長室。教頭と校長が目の前で私にそう断言したのだ。
「我が学校に相応しくない生徒は断っている」
「キミもこの学校に入学してまだ一年だというに…淫らな行為をしているとは…親御さんがなくぞ」
「な、なにを…言っているんですか!」
「教師たちと昨日、話し合ったんだが、君を退学させざるえない」
「我が校としても非常に残念だ。なんとかしようとしたが、教師はみな賛同した」
そんな…そんなのって、あまりにもひどすぎる。私は、ただ平凡に学校に通っていただけ。なのに、なぜ退学処分されるのかわからない。
「――以上を持って――」
「待ってくださいッ!」
そこに現れたのは沖田先輩だった。息を切らせながら校長たちに向かって土下座をした。
「お願いです! 退学を取り消してください! 彼女は違うんです! まったく関係ありません!!」
「もう決定したことだよ、いまさら取り消しなんて…」
「彼女がいないと、俺はダメなんです。それに、彼女がいなくなったら…俺は…」
胸に手を置きながら腹の底の奥から訴える。
「俺も辞めます!!」
「なっ!」
「なにを言っているのかわかっているのか!?」
「分かっています! だって、俺は彼女を愛している。ずっと告白したその日から、彼女の声が電話越しから聞こえてくるたびに心が躍った。彼女がいない日は、その日を呪った。彼女がいたとき、俺は彼女に声をかけ、懸命に俺の想いを伝えた! だから、彼女がいないと、俺はなにもできないのです! すべては、彼女が、告白してくれたあの日から…俺は彼女のために…守ってあげたいと思ったんだ!!」
沖田先輩からの告白…私、勘違いしていた。周りにいいように見せては私に対しては冷たく当たっていた。照れ隠し…男は好きな人がいるとイジメてしまう…まさにその通りだったのだろうか。
「ですから!!」
「もういい、わかった。今回のことは君に免じて、退学は取り消そう。だが、もしまたなにかしたら、取り消しは二度とできないからな」
「あ、ありがとうざまします!!」
私も見習って「ありがとうございます!!」と返した。
嬉しかった。こんなにも私のためにも思ってくれていたんだって。
校長室を後にした後、私は嬉しいあまりに涙を浮かべていた。沖田先輩…私を――そのとき、私は背筋を凍らせた。一瞬にして笑顔を奪い、凍え苦しむ子羊のように私は震えていた。
沖田先輩は私に睨みつかせながら「あのクソ教師ども! 俺から奴隷を退くとはどういう神経しているんだッ! あーおまえ、二度と悪い噂を吹くなよ。お前のことは俺が一番わかっているし、なによりも好きだ。他の奴らなんざに渡したくはない。お前も、俺から逃げようとしていたみたいだが、俺の株を下がったんだ。これからは俺の思うように働けよ」
ああー…結局は、救世主(ヒーロー)でもなんでもなかった。このクソゴミの一芝居だったようだ。すべては告白した昔の自分に呪いつつ、私は救世主(ヒーロー)から逃げるべく沖田先輩を後ろから突き飛ばしたのだった。
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