第21話羞恥

「ねえねえ弓弦っちー見事な転びっぷりだったよー」


俺はあれから悠も置いて一人で外に出て佐藤さんの元に行きやる気だなーと感心している佐藤さんの脇を抜けそのまま一番隅っこの目立たない所で弓道場とは反対の方向を向いて先程味わった恥ずかしさを消そうと黙々と徒手練を続けていた。

後ろから聞こえてきたその声は顔を見なくともその声の主の表情がわかるほどイキイキしていた。


「それ以上言ったら例え女子でも俺は容赦しない」


振り向きながらそう返すと予想通りニマニマした顔の澤田と俺の目を見ようとしない悠、生暖かい目を向けてくる飛鳥さんと同情的な表情の花村さんがいた。


「えー面白くなーい」


「もうやめてあげなよ......」


尚もいじりたそうな澤田だったが花村さんの制止で諦めてくれた。


「そう言えばさっき佐藤さんが弓弦くんのテストしたいからあっちに行けるようになったら来いって言ってたよ」


流れを変えてくれた飛鳥さんにはありがたいがテスト?

後ろで頑なに目を合わせない悠が背中を向けながら補足する。


「もう全員分のゴム弓が届いたから徒手練のテストして合格者はゴム弓に移行らしいよ?ちなみに弓弦以外はもうテスト終わって半分くらいは合格してた」


どうやら俺が羞恥に悶えている間に他の人達はテストを終えていたらしい、全く気が付かなかった。


「私たちは勿論全員合格だったよー」


澤田がドヤ顔で報告する。

これは俺だけ不合格だと練習一緒にやる人がいなくなって悲しいパターンか。


「じゃあ取り敢えず佐藤さんのところ行ってくるわ」


みんなはまだ練習の時間だからさっきまで俺がいたところで練習するらしい。

なんだか微妙に周りからの視線を感じるが、これは気のせ

いと思い込みつつ一年生に指導している佐藤さんの元に向かう。


「佐藤さん手が空いたらテスト受けたいんですけど」


俺が言うと佐藤さんが若干ニヤニヤしながら振り返る。


「分かった。じゃあそこで足踏みから残心までやって見てくれ」


佐藤さんが指差した場所に立ち足踏みをする。最初に注意された顔向けを意識しつつ打起こしの時は若干前傾姿勢で、引分けは左右同時に扉を開くイメージで.......


「....よしいいぞ、合格」


思ったよりサラッと合格をもらえた。

その後佐藤さんから何箇所か細かい改善点と逆に良かったところを教えてもらった。


「お前は比較的全身の動きを意識して動けてると思う、けど実際に何かを持ってやってみると結構イメージと実際の動きにブレが出るから他の一年生とかと見合って互いに注意しあいながら練習する事、いいな?」


俺が頷くともう時間が来たようで道場内から淳先輩が出てくる。


「佐藤さん、そろそろ一年生を道場内に入れます」


佐藤さんに一言言って周りに散らばっていた一年生に練習終了の連絡をして、そばにいた俺の方を見てニヤニヤする。


「おう弓弦ーお前もういいのか?」


明らかに面白がっているが一応先輩なので澤田みたいに雑に返せない。


「.......はい.....まあ」


「悪いな、弓弦の反応がおもしろいからついからかいすぎた。正直俺も袴始めて着た時は裾踏んで転んだし割とみんなそんなもんだからそんなに気にすんな......流石に正座して転んだやつはいなかったけど」


途中までは後輩の失敗をフォローする優しい先輩だったのに最後に小声で付け加えられた言葉のせいで台無しだった。


「じゃあ俺はこれから準備するからしっかり見といてくれよ!」


とはいえなんだかんだ人なので嫌いにはなれない人だ。

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