第18話土曜練習

「おはようございまーす!」


今日は土曜日なので学校はないのだが朝から部活だ。

うちは公立高校なので部活の時間は週6日で土日は4時間までと決まっている。

なので練習は午前中だけということになる。事前にグループLINEで朝の8時半に挨拶だからそれまでに来るようにという連絡が来ていたので念のため8時に来たのだ。


「おはよう弓弦君」


弓道場の扉を開けると三年生の女子の先輩が挨拶を返してくれた。既に袴に着替えて弓を持っており、どうやら朝練中のようだ。

パンッ

射場の方を見ると射場には三年生の先輩や二年生の先輩が数人弓を引いていた。


「先輩達早いですね。朝練ですか?」


的の数は限られているため弓を引く轟先輩の後ろで待っていた淳先輩に尋ねる。


「おう弓弦かおはよう。そうだなもう総体予選まで2週間しかないからな、いつもより人多いし」


中学の最後の大会は夏休みに入ったばかりの時期に始まったが高校は早いようだ。

矢立の方を見るといつもより大分矢が少ない。


「先輩達何時からいるんですか?」


「うーんまあ人によるな、俺は1時間くらい前に来たし朱莉は朝弱いからお前とそんなに変わんないくらいに来たし、一番早いのは多分轟先輩だな。あの人電車勢なんだけど始発で来て弓引いてるから」


最寄りの駅の始発は6時4分なので大体1時間半も前から弓を引いているのか......

淳先輩の言葉に驚いていると轟先輩が持っていた矢を2本とも当てて場所を淳先輩に譲る。


「あんまりがむしゃらに長時間引くのは良くないんだが弓を引くのは楽しいからな、朝引かないと物足りないんだ」


轟先輩が矢立の方に矢を取りに行きながら俺に向かって言うと淳先輩が弓に矢をつがえながら


「この人は俺が入部した時からずっとこんな感じだからスタミナがバケモンなんだよ」


「おい淳!射場で私語するな、矢取りの時に俺の矢も取って来い」


ニヤニヤしながら言った淳先輩に轟先輩が注意し、ついでにパシリにした。


「すいませーん」


ニヤニヤした顔のまま謝る淳先輩にやれやれと首を振った轟先輩は俺の方に向き直り、


「弓弦、お前はこいつみたいになるなよ?これ以上増えると流石に疲れる」


2人がいる前で肯定も否定もできないので取り敢えず曖昧な笑みで誤魔化す。


「そろそろ準備したほうがよさそうだな、今持ってる矢で射込みを終了してください!」


轟先輩が道場全体に向かって呼びかけるので時計を見ると既に部活の開始時刻15分前だった。


「あのー先輩?俺が次の矢取ろうとした瞬間にストップかかったんですけど?」


淳先輩が苦笑いを浮かべつつ轟先輩に言う。確かにタイミングが悪い。


「ん?わざとに決まっているだろう。お前が真面目に練習しないのが悪い、さっさと弽を外して矢取りの準備しろ.......後俺のも取ってこい」


すました顔で言い切った轟先輩はそのまま射場に入る。

軽くパシられた淳先輩は笑いながら弓を片付けてた。


「弓弦〜お前はこんな意地の悪い先輩のことは見習わなくていいからな〜」


先程の意趣返しだろうか淳先輩が俺にそう言ってくるがまたしても何を返しても角が立つキラーパスだったので俺は挨拶が始まるまで2人の間で曖昧な笑みを浮かべ続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る