閑話元相棒の選択

「そこの君!!」


そこは弓弦の通う学校からは少し離れた高校。

慣れない高校での授業も終わり雰囲気で仲良くなった同じクラスの男子と一緒に帰ろうとしていた一年生......佐々木隼人に上級生から声がかかる。


「....?」


突然後ろから声が上がったので隼人は振り向き、周りを見渡して首を傾げた。

しかしそのまま気にすることなく新しい友人と帰ろうとすると


「って....ちょっと待てぇーい!何故無視!?」


当然こうなる。

ようやく自分に向かっていっているのだと理解した隼人は隣で困った顔をしていた友人に先に帰るようにと言い先輩の方に近寄る。


「なんのようでしょうか?」


「その前に確認なのだが、君の名前は佐々木隼人で間違いないな?」


隼人はその言葉に頷き、この後の展開を若干察しつつ通行人の邪魔になるからと先輩と一緒に歩き始める。


「単刀直入に言うとテニス部に入らないか?」


まあばっちり隼人の予想通りだった。

県大会で優勝したのだ新聞にも載っていたし熱心な部活であれば有望株が自校に入れば勧誘もするだろう。


「先輩.....俺はもうテニスはんです。」


少し寂しさの滲む表情でそう言うと先輩はうむと頷き、


「怪我のことか......まあ入る入らないはともかく一度見学に来ないか?ちょうど今日から部活動見学だぞ」


そう言われて見るだけならと先輩の後について行く。


「俺はテニス部部長の柊 雅也だ俺は部室に寄って着替えて来るから取り敢えずテニスコートで待っててくれ。テニスコートの場所はわかるよな?」


先輩にそう言われ頷くと先輩は満足げに頷きではまた後でと部室の方へと走っていった。


「.......テニスか.....」


そう言う隼人の脳裏に浮かぶのは三年間共に戦ってきた相棒の後ろ姿。

元々中学のテニス部には隼人以外に経験者はおらずペアをどうするか悩んでいた。

別に何か特別な出会いがあったわけでもなければ特に気が合うと言うわけでも無かった。

それでも初めて中学の大会に出て、そして初めて負けた時、あいつは相手が上級生で県大会でも結果を残すような選手で一方俺たちはペアを組んですぐ、しかも片方は素人だ。

正直勝てるとは思っていなかった。

だから試合に負けて泣いていたあいつ、次は絶対に勝つからと俺に誓ってきたあいつを見て俺はこいつとならどこまででも強くなれると思った。

そんな俺の予感は二年後に正しかったと証明され、そして俺たちの夢は終わった。

もう俺は長時間の運動は出来ないし何よりあいつ以外とは組みたくない。

それから1時間ほどテニス部の練習を見ていたがもはや何も感じなかった。


家につきLINEを開く。

今日一緒に帰る予定だった友達に軽く謝罪のメッセージを送り弓弦の名前を押す。


隼人:おーい弓弦〜


弓弦:なんだよ?


すぐに返信がきて驚くがあの日以来弓弦とテニスについての話はできていない。

咄嗟に他愛もない話題を振る。


隼人:いやーお前高校どうだ?友達できた?


弓弦:まあまあだな誰とも喋ってないけど笑


隼人:あーお前背高くて初対面だと威圧感凄いからな笑


弓弦:お前こそどーなんだよ?


相変わらずな弓弦の様子に1人苦笑いしていると弓弦からも聞かれる。


隼人:俺はまあまあよ


弓弦:なんだよそれ笑


会話が途切れて一瞬躊躇う。


隼人:お前部活どうするんだ?


返信は無い。

謎の罪悪感が生まれてくる。


弓弦:実は弓道部に入ろうと思っている


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