君に捧げる一射
Kiki
一年生
第1話始まりの日
スパンッ
その音を聞きながら俺は目を見開いてあるものを一心に見続けた。
そこは町外れの古い屋敷の横の道。
その日俺は初めて自分の人生が変わるほどの衝撃というものを味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よっしゃー!」
俺は叫びながら後ろで顔をくしゃくしゃにして喜んでいる相棒に視線を向け、抱きつく。
そこはテニスコートの真ん中。
俺達は全国大会への切符を手に入れた。
「お前本当にすげーよ!」
コイツと......佐々木隼人とペアを組んで早くも2年半最初の大会では一回戦負けという結果に終わり互いに怒鳴りあいの喧嘩にもなった。
2年の総体予選で初めて勝利を勝ち取った時は二人して次の日の授業で爆睡し仲良く担任の教師に怒られた。
そして今三年の夏.........ついに!
「賞状第76回中等学校総合体育大会愛知県大会個人の部優勝
佐々木隼人 神宮寺弓弦
おめでとう」
会場中から拍手が聞こえる。
今まで俺たちと戦ってきたライバルたちから、
共に練習しこの場に全員で立とうと誓い団体戦
を共に戦い抜いた仲間から、俺たちを県優勝ペアに育ててくれたコーチや顧問の先生から.......
ここから先何があっても今この瞬間の気持ちを、喜びを忘れることはないだろう。
「おい何泣いてるんだよ弓弦!まだ終わったわけじゃねーぞ次は全国だ!」
「は!?泣いてねぇーよ!馬鹿なこと言ってんじゃねー帰ったら速攻特訓だ」
表彰が終わり退場しながら軽口を叩く隼人に帽子を深く被りつつ言い返すと隼人は苦笑しながら俺の背中をバシッと叩き駆け寄ってくる仲間の方に向かっていく。
次の日部活に行くと他の部活の奴らも夏休みで全員部活も引退したはずだったのにわざわざ祝いの言葉を言うために来てくれていた。
全国大会まだそんなに時間もない。
俺はこのまま隼人とならどこまでも一緒に行けると信じていた。
隼人が事故のあったと聞くまでは
「おい隼人大丈夫か!?」
俺が隼人の両親から連絡を受け病院に駆けつけると隼人は病室で日の沈みかけた空を能面のような表情でボーッと眺めていた。
俺が静かの歩み寄ると隼人はゆっくりとこちらに顔を向け、
「.......ごめんな弓弦........俺.....もう......」
言いながらどんどん歪んでいく表情と隼人の目から溢れる涙に全てを察した。
もう俺たちは全国の舞台には.......
「おい何泣いてんだよ隼人謝る必要はねえよ
それより無事でよかった全国なんかよりお前の無事の方が大事だよ」
そう言って笑いかけるが隼人はくしゃくしゃになった顔を俺に再び向けることはなかった。
その後隼人の両親が入院することになった隼人の着替えを持ってきたので挨拶だけして病室を出る。
そのまま病院を出ると駅のある方とは反対に歩いて行く。
そのまま誰もいない町外れの公園に着くと俺の視界はぼやけ始めた。
「くそ!謝んじゃねーよ......くそ!!」
俺は本当は隼人に謝ってほしかった訳ではない
すぐに治してやるよといつも通りの笑顔で言って欲しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます