第29話 依頼
玄関から場所を移しリビングにいる。須藤の対面にミレーネとナオが座り。チャンとナタリーは須藤の背後に待機していた。ミレーネも少し落ち着いたのか顔色も戻ってきている。ナオは母親を心配してかそれとも他のことが原因なのか落ち着かない様子だ。
「――ごめんなさい。気が動転してしまいいきなりあんな支離滅裂なことを言ってしまって」
ソファーに腰を下ろすミレーネは頭を下げる。対応する須藤は気にしてないと首を振る。
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも何があったのか俺に聞かせてください。話せる範囲で大丈夫ですので」
「はい――」
そしてミレーネは何があってここに来たのか、マナはどうしたのか話してくれた。その話を聞いた須藤は――顔を青ざめ、握り拳を作り歯を食いしばる。その握った拳に自分の爪が食い込み血が流れようが関係なかった。
マナが自分の恩人の娘が――魔物に連れ去られたという話だったのだから。
レインと誓った。そしてさっきまでマナといたはずだ。それも【
「――ッ」
『……』
そんな自分が情けなくて、情けなくて――悔しかった。チャンとナタリーはその痛々しい姿をただ見ていることしか出来なかった。
マナとナオは須藤と別れた後にそのまま家に戻るつもりだった。が、ナオが口にする。「お母さんが大好きな『白玉草』も取ってこようよ!」と。そこでマナは「『白玉草』が生えている場所は外なんだよ? 私達だけじゃ危ないよ」と弟に優しく論する。それでもナオは話を聞かず、マナが押し切られる形で外への門が開かれた隙に外に出た。向かった場所は公爵領から少し離れた草原だ。
運が良いことに『白玉草』は直ぐに見つかり安心した。これで帰れる二人はそう想っていた。ただ油断をしていた。気付いたら二体のゴブリンに囲まれている状態。大人だったらゴブリンの二体ぐらいなんとか自力で追い払えるが子供のマナ達には無理があった。
それにマナは知っていた。外は魔物が闊歩している。そしてゴブリンは――女子供を好きなことを。なので
一人逃がされたナオは公爵領まで泣きながらガムシャラに逃げた。そして母親に会い自分のせいでマナが魔物に連れ去られたことを伝える。ナオから話を聞いたミレーネは直ぐに行動に移した。それが公爵家にいる須藤を頼ることだった。
普段だったら『冒険者ギルド』を頼るのが筋が通っている。だが今は冒険者が少ない。なので自分達を救ってくれた
「――スカー君。無理を承知で言います。どうか、どうか――マナをお救いください。あの子がいまどんな目にあっているのか想像をしてしまうと、居ても立っても居られず。どうか、お願い致します!!」
自分の
「僕も、僕からも。スカー兄ちゃん。僕のせいでお姉ちゃんが、お姉ちゃんが……スカー兄ちゃんは強いんでしょ。お願いだよ、助けてよ。これ、あげるから!!」
ナオは泣きべそをかきながら須藤に助けを乞う。そして――手に持っていた銅貨3枚を渡す。
「それ、は」
ナオが手に持つ銅貨を見てあることを思い出す。
『えっとね、これでお母さんに何か誕生日プレゼントを買ってあげたくてお小遣い貯めていたんだ! 僕、頭悪いし何も作れないけど、安い物なら買ってあげれるから!』
ナオと出会い仲良くなった時、ナオから話を聞いた。近くに母親の誕生日があるのだと。その為に自分でお小遣いを貯めていた。子供ながらに母親に何かを買ってあげようと思っていた。そんな大切な"お金"を自分に渡そうとしている。
それにわかっているのだろう。自分の我儘で外に出てしまい姉が魔物に攫われたことを。自分では何も出来ない。ならせめてでも須藤を動かす為に「依頼料」を渡しているのだと。
その姿を見た須藤は立ち上がる。そしてナオの元に向かう。近くまで寄ると頭を撫でる。
「それは大事なお金じゃないのか?」
「うん。大事な、お金だよ。でも、でも……お姉ちゃんの方が、大事……ッ!」
「そっか」
嗚咽を漏らしながらもしっかりと自分の言葉で伝えてくる。そんなナオを見て決心をする。いや、決心を更に高める。
須藤はナオからお金を受け取ることなくミレーネに顔を向ける。
「ミレーネさん」
「は、はい!」
真剣な表情を向けられたミレーネは慌てて返事を返す。
「今日は貴女の誕生日と、お聞きしました」
「は、はい、そうですが……」
「じゃあ、ナオ君とお家で準備をして待っていてください。俺もマナちゃんとそちらに顔を出すので」
「そ、それは――」
ミレーネはそのに話を理解すると共に須藤を見る。須藤はただ微笑を向ける。
「はい。俺はマナちゃんを助けに行きますよ。必ず貴方達の元にお連れします」
「ありがとうございます!!」
「あ、ありがとうスカー兄ちゃん!!」
須藤の言葉を受けた二人は頭を下げる。
「当然のことですよ。なんせ俺は――【商人】ですよ。何よりも人との繋がりを大切にする人種なのですから」
それだけ伝えるとチャンとナタリーに顔を向ける。二人は初めからこうなることがわかっていたのかただ須藤の顔を優しく見つめる。
「二人共。そう言うことなので俺はちょっと出ます。少しの間ですが、ここを任せます。何もないと思いますが、何かあればお願いします」
「承知しました。スカーお坊っちゃんも無理はせず」
「マナちゃんのこと、宜しくお願いします」
ただ二人は須藤を信じ、見送る。
何も言わなくても伝わるその信頼関係が心地よかった。
ソファーの横に置いていた
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