第25話 一時の別れ
商売も軌道に乗ってきたある日。それは夜ご飯を食べ、ティータイムをしている時にレインの口から唐突に言われた。
「明日『王国』に旅立つ。だからスカー君に知らせておきたいと思って」
それはレイン達が『王国』の悪事を調べに行く為に『フラット公爵領』から離れるという話だった。
自分の為にレイン達は『王国』に赴き現国王に今の現状を伝える。そして自分を救ってくれた騎士の解放を行なってくれると言う。そんな人達を置いて『魔法国』ヘ一人で行くわけにもいかず『旅商人』としてこの地にまだ留まっていた。
「――わかりました。俺はその件ではあまり役に立てないかもしれないですが、どうか宜しくお願いします」
座っていた席から立ち上がり、みんなに頭を下げる。
そんな須藤を見てレイン達は頷く。
「任せてくれ。ちなみに明日は僕とマリー。ローズ、ダニエルの四人と行くつもりだよ」
「かなり少数なんですね。もっと人員を連れて行かなくて大丈夫でしょうか? ダニエルさんがお強いのは知っていますが、ローズの時と同じように魔物、もしくは盗賊に多勢に襲われたらと思うと……」
話を聞き、レイン達の身を心配してしまう。
今の俺じゃ馬車で移動されてしまえば追いかけられない。移動系のスキルがあれば良かったが……無い物ねだりだよな。
いずれ【転移】系統のスキルが手に入るとわかっていても今持っていない状況に歯痒い想いを持ってしまう。
「心配ありがとう。けど、今回は問題ないんだ」
「えっと、それは馬車以外に移動手段があるという訳ですか?」
話を聞いたレインは一つ頷く。そして懐から手のひらサイズの青色の結晶を取り出す。
「そうだね。僕達は今回この――『転移結晶』を使って『王都』に直接行くつもりなんだ」
「『転移結晶』ですか!」
ゲームやアニメでお馴染みの楽々移動手段こと『転移結晶』の実物を見て興奮し、立ち上がってしまう。須藤を見たみんなは微笑ましい顔で見てくる。そのことに気付いたので少し頬を染めていたが何もなかったかのように座り直す。
周りからは「可愛かったわね」や「はしゃぐスカー殿もまたいいですね」やら「あぁ、可愛い。頭を撫で撫でしてあげたいです」など、女性陣から声が上がっていたが――無視する。
「――レインさん。『転移結晶』とやらの説明お願い出来ますか?」
「う、うん。わかったよ――」
耳まで真っ赤にした須藤に頼まれてしまったレインは自分も内心「珍しいスカー君を見れた!」と嬉しく思いながら、その気持ちは伏せて説明する。
『転移結晶』
その名の通り『転移』が可能な『魔道具』。使い方は『魔力』を元に行きたい場所を頭の中で思い描きそこを座標として飛ぶ。もとい転移する。
ただ『転移結晶』自体がとても「高価な物」で使用する時に「大量の魔力」を必要とし、「一度目にしたことがある場所」にしか飛べない。「一度使うと使用不可」という欠点もあり、あまり使われていない。
要は緊急の時に使う要人御用達の『魔道具』だ。
「――『転移結晶』一つで2000万ウェンとする。なので『貴族』でも『侯爵』以降じゃないと無闇に使えないんだ。ただ安心して欲しい。僕達は公爵だからお金は問題ないからね」
「――そうですか。説明ありがとうございます。でも『転移結晶』があれば問題無さそうなので良かったです」
初め「2000万ウェン」という多額の値段に物申そうと思った。自分の為に『王都』に行く訳だから。だが、それを見越したようにレインに「問題ない」と言われてしまう。
自分からは何も言えないと思ったので安心したことだけを伝える。
「うん。それで
「あ、ありがとうございます。ですが無理はしなくて大丈夫ですからね。この世界に存在していると神様にも教えてもらっていますので」
「わかったよ。ただ出来る限りで頑張ってみる所存さ」
須藤が探している『エリクサー』は公爵のレイン達でも所持していなかった。ただ自分の為に探してきてくれるという話を聞き、心が暖かくなる。
「僕達は明日から約一週間は不在になると思うけど、何かあったらチャンとナタリーに聞くと良いよ」
「あ、はい、わかりました」
気持ちに心が揺らいでいる時話を振られ、少し動揺してしまう。
「スカーお坊っちゃん、何かご入用でしたらなんなりと」
「スカー君。お姉ちゃんがなんでも言うこと聞くからね!」
「あはは、お二人ともありがとうございます」
二人に感謝を伝える中、「ナタリーさんが少し怖い」と思う須藤であった。
話し合いが終わった後もローズがナタリーに「スカー殿に不埒な真似はしてはならんぞ?」と釘を刺していた。ただナタリーは「大丈夫ですよ〜姉が弟にそんな気持ち持ちませんから〜多分」「おい!」なんていうやり取りがあった。
その光景をレイン達は微笑ましいものを見るように見ていた。その様子を見た須藤は一人、震える。
俺が少し寒気がするのは、多分気のせいだな。
ナタリーに限って変なことをしてくる訳が無いと思いその話は聞かなかったことにした。
◇
翌日の早朝
須藤、チャン、ナタリーの三人+公爵家の使用人達が見守る中、公爵家の門の前で外行きの格好をしたレイン達が立っていた。
公爵のレインは金の刺繍が入ったタキシード風の服装。公爵夫妻のマリーはお気に入りなのか赤いドレス姿。ローズは黒色のゴシック系ドレスだ。正直、マリーとローズの格好は胸元が強調されている為、目に毒だ。
「ではスカー君とみんな。僕達は『王都』に行ってくるよ。良い土産話が出来ること期待していてね」
「みんな、元気でね。スカー君もまた次に会えること楽しみにしてるわ」
「スカー殿、みんな、行ってくる」
公爵親子はそれだけ言うと『転移結晶』で『王都』に転移する準備に入る。
「と、スカー君。一つだけ伝え忘れていたよ」
「はい?」
今正に『転移結晶』を使おうとしていたレインが振り向く。そのことにどうしたのかこちらも顔を向ける。
「この頃の魔物の動きについてなんだけど」
「魔物、ですか?――あ、前回のローズ達のことやレッドワイバーンのことですか?」
あることを思い出した須藤は口にする。レインも須藤が口にした話であっていたようで真剣な表情を作り、頷く。
「そうだね。実際今も魔物の動きは不自然なことが多い。本来ならレッドワイバーン達もこちらまで来ないはずなのに――」
「魔物達は来た、と?」
「うん。何かから逃げるように、又はこちらに仕向けられるように魔物達は襲ってきた。それは何かの前兆のようだと僕は思った。それが杞憂であれば良いのだが、僕達が不在の間どうか、気をつけてくれ」
レインはそれだけを伝える。
「わかりました。ただ何かあれば俺が対処しますよ。この街は――俺も好きなので」
「――ありがとう。無茶なことはしないで欲しいけど、どうか宜しく頼むよ。『冒険者ギルド』にも話しているから、問題はないと思うけどね」
「わかりました」
二人は最後に無言で握手をする。
「では、また会おう」
四人で手を繋ぐと須藤から少し離れたレインがそれだけ言う。そして目を瞑り『転移結晶』を頭上に掲げる。
するとレイン達を囲むように突然魔法陣の様な模様が床に現れる。それに須藤が驚いていると、一瞬でレイン達の姿が消えてしまう。
「――これが、『転移結晶』。みなさん、どうかご無事で」
既に姿はないレイン達に向けて空に告げる。
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