第9話 旅立ち 踏み出した歩みはとても、重く
「――シッ!」
何もない空間に向けて素早く左手を振るう。遅れてやってくる突風。空間を裂く刃。
ガインッ!!
そして金属同士が打ち合った様な轟音。
須藤が事前に発動しておいた【ロック】の壁にこれまた須藤が発動させた【
だが音の感覚から【ロック】の壁は健在。
「――まだまだ!!」
その場で駆ける。勢いと共に両手を振るう。さっきと同様に発生する突風と空間を裂く刃。
ガインッ!! ギッ! ギギギッギインッ!!
さっきよりも遥かに甲高い音が空間を振動させる様に鳴り響く。
設置している【ロック】の壁に須藤が放つ本気の【
ただ、やはり【ロック】の壁は健在だ。
「――ふぅ。以前よりは【
少し顔付きが大人びた須藤は腕を組み自分の成長に喜ぶ。その間に【解除】と呟く。
【ロック】の壁が消えたことを感覚で感じた須藤は近くに置いていたソファーに腰を下ろす。そしてスポーツドリンクを一口飲む。
須藤は『魔力切れ』を起こしてからもここ、『時間の流れが緩やかになる』という【ルーム】の中で修行を続けた。
何日、何月修行を行っていたのかわからない。途中から数えることをやめた。ただ一年は修行をしていない――と思う。
一度、調査の為に一ヶ月数えて修行をしてみた。その時外の世界に出た。スマホで日付を確認したら……2024年の4月29日だった。須藤達がネフェルタに召喚されたのは2024年の4月24日だ。
【ルーム】内での一ヶ月は『外界』での5日にも満たなかった。
このことからこの空間、【ルーム】の『時の流れが緩やかになる』という効果は絶大なものなのがわかった。
それを知った須藤は日々成長する自分に悦び、一人で黙々と修行を行った。
ちなみに今の『ステータス』はこうだ。
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スカー・エルザット 18歳 男(須藤金嗣 15歳 男)
L v.:1
種族:人種
職業:商人(※特殊職業:【転売ヤー(時空間魔法)】)
体力:100
魔力:50(505050)
スタミナ:50
筋力:50
防御力:50
魔防御力:50
素早さ:30
運:100
加護:なし(異世界神の加護)
スキル: 成長速度上昇 体術lv.5 魔力制御 魔力上昇 鑑定 (時魔法lv.3【使用魔法:ロック・スロウ】(使用魔力300 レベルに応じて変化) 空間魔法lv.3【使用魔法:インベントリ・
(ユニークスキル:異世界言語能力(異世界の言語が理解できる))
(エクストラスキル:メルカー(スマホで地球と同じフリマアプリができる。買えるもの売れるものは自由。自分のお金か魔力で購入、売却))
属性:無(時・空間)
持ち物:学生証・スマホ(異世界仕様&充電は魔力 破壊不能オブジェクト)
所持金:15000ウェン
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このように大幅にアップしていた。
ちなみに新しく手に入れたスキル
・スロウ:相手の動きをを30秒間遅くする 使用魔力300
・
「ふむふむ。むっ。『魔力』が「500000」を超えたか。喜ばしいが――【体術】は上がっていても『魔力』以外はレベルを上げなくてはいけないらしい……『魔力』は【時空間魔法】と【魔力上昇】のスキルのおかげでどうにかなっているが――」
とんでもない『ステータス』になっているのにも関わらず、須藤は冷静だ。
須藤も自分の『魔力』が「100000」を超えた時はとても喜んだ。だがそれもスキルのおかげ。それと『魔力切れ』を駆使したおかげだとわかっていたのでそれほど喜べなかった。
『魔力切れ』も始めの数週間はキツかったが、次第に慣れていき。徐々に『魔力』の回復も早くなり、今は既に『魔力切れ』の辛さを克服し、忘れていた。
他の『ステータス』もそうだ。須藤の言う通り『魔力』以外はレベルを上げないとどうしても変わらないとわかった。
そして今が外に出て「冒険」を始める節目だと思っていた。
「【メルカー】も自在に使える様になったし、【商人】の真似事は楽に出来るだろう。【商人】が無理でも【メルカー】を通して物を売れば済むことだからな」
そんなことを言いながらもスマホを片手に【メルカー】の商品欄を眺める。
以前まではただ【メルカー】と口にするだけでスマホが起動してしまう為めんどくさそうにしていた。だが普通に「設定」で変えられることを知った。お金はないが『魔力』で商品を買えるので重宝している。
【メルカー】をやっていて知ったのは「地球」「ネフェルタ」の物全てが購入出来て、売却出来ることだ。
そのことを知った須藤は『魔力切れ』への『修行』とかこつけて『週間少年ジャ○プ』の新刊だけ買った。
どうしても大秘宝を探す海賊の物語の続きが見たかった。
まあそれ以外にもこちらの世界で「使える」物を沢山買ったのだが。
ちなみに『エリクサー』を「検索」で調べたが該当するものは出てこなかった。やはり一筋縄ではいかないらしい。
「多分異世界もので有名どころの『冒険者ギルド』とかあるんだろうな。俺はそれよりも『商人ギルド』がいいが。そこで人脈を作って大勢すれば――ただ異世界人よすまない。俺は【転売ヤー】なんだ」
そして悪どい笑みを作る。
本性は優しい。だが人間誰しもいつかは非常にならなくてはいけない時がある。それが今だ。自分の為、妹の為に須藤は悪になろうと思っている。
「――俺は俺の夢のために勝手にやらせて貰う。ただ、そんな俺を邪魔する様なら――その代償は高く付くぞ――【ルーム解除】」
その言葉を呟くと何度目かになるだろう空間の歪みを感じる。
【ルーム】から外に旅立つ。
須藤が外界へ旅立った後に残らされた【ルーム】には沢山のラノベが並ぶ本棚。そしてテーブルとソファーが置いてあった。
何気に異世界満喫中。
◇
「はぁーーーー! やっぱり外はいいな。【ルーム】の中は外敵を気にすることないからそれはそれでいいが、やはり部屋に閉じこもっているよりは外に出るのが一番」
優しい騎士と別れた森の中に何ヶ月ぶりに現れた須藤は胸一杯に新鮮な空気を吸う。丁度日中だった為、助かった。
「――さて神様の言う通り『魔法国』に向かうとして。それまでにレベルを上げて『商人ギルド』があれば登録して人脈を作る……完璧だな」
ブツブツと一人でそんなことを口にしているとあの日の様に近くの茂みがガサガサと揺れる。
【
「――ガルッ、ガルルルルッゥ」
そこにはあの日と同じオオカミ型の魔物が須藤を威嚇する様にそこにいた。その魔物は以前会った魔物かはわからない。でも漸くリベンジが出来る。
今回は大丈夫だ。あの日の様に死の恐怖はない。逃げる必要もない。
「もう、怖くないさ。ただお前にはすまないが、糧になって貰おう――」
「ガルルァッ!!」
須藤の言葉を待つことなく魔物は駆けて来る。須藤と魔物の距離はあと一メートルもない。
「――恨むなら、俺の目の前に今現れたお前の不運を恨むんだな!――【
須藤はそんな何処かで聞いた覚えのある言葉を使うと駆けて来る魔物に向けて【
【無詠唱】じゃなく、久しぶりに言葉で紡がれた【
そしてそこには魔物の骸は既に無く、血がのっぺりと付着した青色の小石――「魔石」と呼ばれる魔物から取れる換金アイテムだけが落ちていた。
「……」
右腕を振るった状態で魔物の残火――血が付いた魔石を見る。
そして――
「――オェェェェッッェ!!」
魔物が残した血に濡れた魔石。そして周りに散らばる血しぶき、周りに漂う死の香りに耐えられなかった須藤は四つん這いになり、嘔吐をする。
強くなった。以前とは比べ物にならないほどに。ただ安全な国、日本に住んでいた須藤には『生き物の命を奪う』という行為は刺激が強過ぎた。魔物の死体が残らないだけまだマシだが。
やっぱり、物語の主人公達の様にはなれないや。というか、なれるか! アイツら頭おかしいよ。地球のそれも安全な日本にいたのになんで普通の顔して魔物狩ってるんだよ。お前ら悟りでも開いたんか!!?!!?
心の中で物語の主人公達にキレる。
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