第109話:観光を楽しむ




 薔薇の街。自慢の観光スポットは、やはり色とりどりの薔薇が植えられた薔薇園だろう。

 ローゼンの素晴らしい化粧で別人のようにったオーブリーと、控えめなお嬢様風なフローレスが並んで歩く。

 勿論、ローゼンも一緒である。


 そして護衛のようにオーブリーに寄り添うホープと、フローレスとローゼンの後ろに控えるアダルベルトとマティアスが居る。

「マティアスさん、今日はお仕事大丈夫なのですか?」

 フローレスが小声でマティアスに問う。

 彼は出版社勤めの一般人なのだ。


「隣国のパーティー出席ですからね。あと3日は大丈夫ですよ」

 マティアスが笑顔で答える。

 確かに普通より、かなり早く帰って来てしまっている。

 貴族ならばパーティー後に宿泊して、そこからゆっくりと帰って来るだろう。

 そもそもキメンティ王国までが強行軍だったのだ。


「では、オーブリー皇女殿下とアダルベルト皇子殿下がいる間は、どうぞお泊まりくださいね」

 フローレスがにっこり笑う。

 どこか拒否を許さないその笑顔に、マティアスは頷く。

「あ、ありがとうございます」

 お礼を言うマティアスの側に、ローゼンが近付く。


「アダルベルト皇子殿下より、マティアスさんの方が現在平民なだけ、1歩前に進んでますよ」

 周りに聞こえない程度の小声で言われた台詞に、マティアスは目を見開きローゼンへと顔を向ける。


 何か言おうとマティアスが口を開くと、「では」と言ってローゼンはフローレスの方へと行ってしまった。




 ちょっと裕福な平民のような服装をしている貴族の一行は、薔薇の街のカフェでお茶を楽しんでいた。

「これだけ種類があると、逆に悩んでしまうわね」

 店内のケーキを全種類注文して、テーブルに所狭しと並べてある。


「ケーキナイフを借りて、全て一口大に切りましょうか?」

 ローゼンが提案する。

「あら素敵!」

 オーブリーが両手を合わせて喜ぶ。

 とてもオルティス帝国次期皇帝には見えない。


「では、私がナイフを」

 同じ室内の別のテーブルに居た護衛が腰をあげる。

 平民に変装しているので、表立って護衛出来ない為に、客として一緒に行動していた。

「いえ、私が行きます」

 護衛を手で制し、オーブリーから離れるなと意思表示をして、ホープが部屋を出て行った。



「ホープ様は、自分が上に立つより二番手で、誰かを立てながらも人を動かすのが合っていますのね」

 フローレスがホープの出て行った扉を眺めながら、しみじみと呟く。

「人は変わるものよ」

 オーブリーがウフフと笑いながら言う。


 最初から、これほど良好な関係では無かったようである。


「それでは、仲睦まじく街中をデートしたり、あ~んってケーキを食べさせあったりもするようになるかしら?」

 フローレスが頬に手を当てて首を傾げる。

 因みに今フローレスが口にした内容は、【緑の女王と氷の侯爵】の中に書いてある。

「それはぜひ見てみたいですね」

 ローゼンがポツリと呟くが、口端が意地悪く上がっている。


 隣のテーブルに居たアダルベルトが「いや、無理だろ」と間髪入れずに口にしていたが、その声は女性陣には聞こえない。

 マティアスは、何となく居心地悪くて大人しく紅茶を飲んでいた。



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