第91話:嘘から出た……?




【『盛大な結婚式』

 ホープとクロームの結婚式は、とても盛大なものになった。

 それはそうだろう。

 王国と帝国を繋ぐ結婚なだけでなく、二人は真実の愛を実らせた運命の夫婦なのだから。

「お兄様、おめでとうございます」

 王太子妃となったピンキーが兄を祝福する。

 満面の笑みのピンキーの後ろには、修道服を着たホワイトがひっそりと立っていた。】


「あの、このホープと言うのは、セルリアンの事ですよね?」

 受け取った原稿を確認していたマティアスがフローレスに聞く。

「あらごめんなさい。願望がそのまま言葉に」

 フローレスは小さく切った紙に【セルリアン】と書き、糊付けをしてからマティアスに渡す。


「今までよく大丈夫でしたね」

 渡された紙を原稿用紙に貼り付けながら、マティアスが呟く。

「向こうでは、校正してくれる方が居たのよ」

 フローレスが少し淋しそうに笑う。

「こちらにおいそれと呼べない方なのです」

 王子妃教育をするくらい優秀な人、とはさすがに言わないでおく。



「そういえば、オルティス帝国のオーブリー第二皇女殿下が御成婚なさったらしいですね」

「あら、素敵」

 世間話のようにマティアスが軽く話すものだから、フローレスも軽く返事をする。

「どこか外国の貴族らしいですが、爵位を返上したそうですよ」

「あら、普通は親戚や兄弟に譲るものでしょうに」

 フローレスが不思議そうに首を傾げる。


「妹しかいないらしく、爵位が残っていると外国から呼び戻さなくてはならないとかで」

「まぁ、随分と優しい方ですのね」

 驚いた顔をするフローレスを見て、マティアスは片眉を上げる。

「このお話とよく似てますよね」

 この、の言葉の時に、フローレスの原稿を少し持ち上げて見せる。


「それはあくまでも創作ですわ。それに私には結婚した妹がおりますので、仮に兄が他国へ行く事になっても爵位返上では無く、妹の産む子供に継がせる手続きをしますわよ」

 王族の血ですからね、とはさすがのフローレスでも言えなかった。

 まだマティアスをそこまで信用していないせいもある。


「そうですよね。2作続けて予言書みたいな……ねぇ」

 マティアスが笑う。

「そうですよ」

 フローレスも笑顔を返した。




 マティアスが帰った後、フローレスは真剣な表情で何やら考え込んでいた。

 前作は作者であるフローレスが、自分の為に周りの状況を見ながら、事実を織り交ぜて書いていた。

 わざと本と同じ状況を作り出したりもした。

 途中からは、ルロローズが本の通りになるように行動したりして、都合良く物事が運んだ。


 しかし、今回は遠い土地で、完全なる想像で書いていた。

 兄ホープの侯爵家当主という立場に対する思い入れは、自己存在証明と言い換えても良い程だった。

 だからこそ恋愛にうつつを抜かして爵位返上をしてしまう愚か者として、本人の最も嫌うであろう男として、物語に登場させたのだ。


 もしも本当にオーブリー第二皇女の王配になるのだとしたら、ホープに無理強い出来る立場の……?

「オーブリー第二皇女殿下が……」

 いやいやまさかね、とフローレスは頭を横に振った。



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