第66話:兄妹の夢物語




 ずっと王宮へ軟禁されていたルロローズへ、帰宅許可がおりた。


 卒業式から直接王宮へ連れて来られたルロローズだったが、着替えも全て母親が屋敷から届けてくれたし、食事もきちんと3食出されていた。

 世話をするメイドも付けてもらえたし、部屋からは出られないが特に不便は感じていなかった。


 唯一の不満は第二王子であるベリルに会えない事だけだ。

「同じ建物内に居るのに、何で会えないの?」

 ルロローズは、世話をしてくれるメイドに質問した。

 しかしメイドは視線を合わせず、答えてもくれなかった。


「王宮で働いてるからって、優秀とは限らないのね」

 メイドが部屋を出て行く瞬間を狙い、嫌味を言う。

 反応したら「悔しかったらベリルを連れて来なさいよ」と言おうと思っていたのだ。

 しかしメイドは何も、本当に何も反応せず、挑発には乗らなかった。



「私、このままここに住んでも良いんだけどな」

 帰宅許可を受け、ルロローズは不貞腐れた。

 王宮に住んでいるなんて、自分も王族になったみたいで気分が良かったのだ。


 本来は貴族牢へ入れられてもおかしくない程の事をしでかしたルロローズだったが、第二王子の婚約者候補なので、客のようにもてなされていた。

 それがルロローズを増長させたのだが、気付いたところで後の祭りである。


 しかもルロローズは、いまだに王太子妃に自分がなると勘違いしたままだ。

 なぜなら、その勘違いを聞いたベリルは、卒業式以来ルロローズに会っていない。

 王子妃教育を受けたルロローズが、それ程の頓珍漢な勘違いをしているなど、誰が予想出来ようか。

 おそらく教えた伯爵夫人ですら、無理だろう。



 オッペンハイマー侯爵家に向かう馬車の中で、ルロローズは色々夢物語を語った。

 自分が王妃になったら、王都の美味しいデザートを毎日取り寄せる、ドレスは毎日新しい物を着る、宝石も、もっと可愛い物を沢山買うと。


「まぁ、王妃になれたら素敵ね」

 笑って相槌あいづちを打ったのは母親である侯爵夫人だ。

 父親であるオッペンハイマー侯爵も、そのような二人を優しい笑顔で見守っている。

 それどころか「ローズが王族になったら、他国の王子達が沢山贈り物をしてくれるかもな」等と言い出す始末だ。


 オッペンハイマー侯爵の利己主義は、ルロローズの前でだけはりをひそめてしまうようだ。

 致命的な欠陥である。




 ホープは、まだ王宮で足止めされていた。

 ルロローズが完全に第二王子の婚約者に決定してしまった為に、今後の対策の為の会議が急遽きゅうきょ行われているからだ。


 会議なんて放置して、フローレスを先に説得するべきだった。

 せめて旅行になど行かせずに、屋敷に監禁するべきだった。

 ホープはギリリと音がする程、奥歯を噛みしめた。


 フローレスが帰って来たら、王太子の愛妾になるのが良いか、帝国の第三皇子の愛妾が良いか、選ばせてやろう。

 ホープは会議中、そういう最低な事を考えて平静を保っていた。

 正式に結婚してしまうと、自分より立場が上になってしまうので、あくまでもが良いのである。





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