第30話:軌道修正




【熱心に練習していたピンキーは、とうとう庭師に貰った種を全て使い切ってしまった。

 新たな種を貰いに行くと、来年の庭用に既に蒔いてしまったと言われた。

 明日、市場に買いに行ってまいります、と庭師は平身低頭謝ってきた。

 困ったピンキーが小屋に目を向けると、瓶に入った種があった。

「まだあるじゃない」

 瓶を手に取ろうとすると、庭師に止められる。

「それは、毒のある植物の種です。間違って入っていたので、返品するのです」

 それでも練習がしたかったピンキーは、5粒だけ貰い、発芽した物は必ず庭師に渡すと約束した。】


 今までのルロローズの行動を無くす事が出来無い為、仕方なく【ピンキー】にも毒草で練習をさせていた。

 作中では、その1回だけであるが、ルロローズはずっと毒草で練習している。

 人に成果を見せる時だけ、普通の植物を使うのだ。


「ピンキーがやめれば、ルロローズもやめると思ったのに」

 フローレスは溜め息と共に呟く。

 庭師は種の保管を厳重にしたので、新たに持って行かれてはいない。

 しかし、細かい粒の種を相当量盗んでいたようで、まだ無くならないらしい。

 家の裏に置かれる芽吹いた鉢は、未だに毒草だった。



「作中に嘘は書けないので、私に注意して止めさせて欲しいって事ですね?」

 アダルベルトに言われ、フローレスは素直に頷いた。

 本当は作中に「毒草で練習すると上達しない」とでも書こうとしたのだが、教授に確認したら「そのような事実は証明されてませんな」と言われてしまったのだ。


「別に書いても問題無いのでは?」

 教授はそう言ってくれたのだが、いくらフィクションでも作者の都合で捻じ曲げた嘘を、フローレスは書きたくなかった。

 その件もアダルベルトに告げる。


「そういうところが良いんですよ」

 ポツリとアダルベルトが言うが、余りにも小さな声だったので、当のフローレスには聞こえていなかった。




【ピンキーは、先生に褒められたくて、とにかく練習を頑張った。

 先生に褒められると自信になり、それがベリアル王太子の横に並ぶのに相応しいと感じるからだ。】


 応接室で、ルロローズは不貞腐れ、子供のように足をブラブラと揺らしていた。

「出来ないものは、出来ないんですぅ」

 机の上の植木鉢は何も変化が無い。

「前はこの位の時間で発芽してたのですよね?」

「……はい」

 ルロローズは、アダルベルトを上目遣いで見上げながら返事をする。


 こんな時でもあざとい表情は忘れないのだと、変な所でフローレスは感心していた。

 実は、今発芽しないのには理由がある。

 植えてあるのは、草ではなく木の種だからだ。

 まだルロローズのレベルでは発芽出来なくて当たり前なのである。



「発芽するように、心を込めて祈ります」

 手本として、アダルベルトが一瞬発芽させて見せた。

 芽の状態で留める事も、魔法のコントロールが素晴らしい証拠である。

 フローレスでは、ある程度成長させてしまい、木だとバレてしまうだろう。

 その前に緑属性が内緒なので、やってみせる事は無いが。


「練習に使う種を薬草とか野菜とか、人の役に立つものにしてみましょうか。優しいルロローズ様は、その方が相性が良いかもしれません」

 アダルベルトが自然に練習の種を指定した。

 フローレスは、机の下で小さく拍手をした。



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