第24話:無知は罪




 教授から、教師役の容姿は詳しく書かないように言われていた。

 ただ「緑属性を教えるのに最適だと、すぐに判る容姿」とだけ言われていたので、フローレスもそのまま書いた。


 皇族だと知ってたら書かなかったわよ!

 フローレスは拳を握り込み、プルプルと震えている。

「あれ?ごめんごめん、そんなに痛いのか。すぐに治すからね」

 フローレスが俯き震えているのを痛みの為と誤解した男性は、フローレスに手をかざした。


 淡い緑の光がフローレスの全身を包み、手についた引っ掻き傷や、捻った足の痛みが消えていった。

「もう大丈夫でしょう」

 立ち上がった男性は、フローレスへと手を差し伸べる。

 その手を掴み、フローレスは立ち上がった。




「えぇ!?王子様なんですか?」

 奥の特別室でルロローズは男性に大袈裟に驚いて見せる。

 これは、素直で可愛いルロローズを演出するいつもの手法だ。


 更に奥の貴賓室には王女だけが戻り、いつも案内される特別室に第二王子とルロローズ、そしてフローレスが案内された。

 男性は「まだ足元が不安定のようです」とエスコートを買って出て、フローレスを支えてくれた。

 一緒に部屋まで行くと、ルロローズが「姉を助けてくれてありがとうございます!」と、自分の事は棚に上げて男性にお礼を言った。


 そのまま流れで男性も部屋に残る。

 お店側からお茶が出され、お互いに自己紹介をしたのだ。

 第二王子は、自分が自己紹介したのに相手がかしこまらない事に腹を立てたが、すぐにその理由を知った。


「アダルベルト・ディエゴ・オルティスです。お見知りおきを」

 その自己紹介に第二王子は固まり、ルロローズは喜んだ。

 予想していたフローレスは、笑顔を顔に貼り付けていた。

 そして先程のルロローズの台詞である。



「オルティス王国の人って、治癒魔法が得意なんですよね?」

 ルロローズが苦手でなかなか進まない、周辺諸国に対する勉強であるが、オルティスという国の特色は覚えていたようである。

「ルロローズ。王国ではなく、オルティスは帝国ですよ」

 フローレスが間違いを指摘する。


「そんなのどちらでも良いだろうか!ルロローズをはずかしめるな!」 

 第二王子の発言に、フローレスは目を丸くした。

 ルロローズは「ベリル様」とか言って、嬉しそうに第二王子を見上げる。


「いやいや、戦争でもしたいのかな?この国の王子は」

 男性……オルティス帝国の皇子であるアダルベルトは、にこやかに微笑んだ。

 勿論、目は笑っていない。

 もう教師役の話など、出来る雰囲気では無いな。

 フローレスはコッソリと溜め息を吐いた。



「ここに居ても不愉快なだけなので、姉の所に戻ります」

 アダルベルトは席を立つ。

 フローレスが立ち上がって見送ろうとすると、手で制された。

「まだ足が痛いでしょう?心配だから、明日、オッペンハイマー侯爵家に伺わせていただきますね」

 アダルベルトがニヤリと笑って、フローレスへと告げた。


 どうやら、まだ教師役をする気はあるようである。

 ただ、あの場では立場上怒るしかなかったのだ。

 いや、もしかして、本気で怒っていたのかもしれないが。

 ルロローズも失礼だったが、何よりも第二王子の「そんなの」発言は、公の場での発言なら、間違い無く戦争案件だ。


 とにかく、まだ何とかなる可能性が残っている事に、フローレスは胸を撫で下ろした。



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