第19話:校正したい、人生の




「ローズは緑属性にも適性があるのか!さすがだな!どこかの攻撃しか出来ない冷たい女とは大違いだ!」

 ルロローズが植木鉢に種を蒔き、芽吹かせてたのを見て、第二王子が大袈裟に褒めた。

 そう。大袈裟に、である。


 発芽させたといっても、本当に種から芽が1センチ弱出ただけである。

 双葉すら出ていない。

 しかも10分くらい掛けて、やっとそれだけ芽が出たのだ。

 まだ長兄のホープにも敵わないレベルである。


 因みに第二王子が貶したフローレスは、一瞬で開花させる事が出来る。

 実のなる木も、開花まで成長させられる。

 おそらく少し訓練すれば、一瞬で実がなるまで成長させられるようになるだろう。

 その先にあるのが、治癒魔法である。

 新たな命を誕生させられるほどの、緑魔法。

 それを治癒の力に変換させるのだ。



「私、攻撃魔法とか……破壊の力は苦手です」

 ルロローズが悲しげに視線を落とす。

 苦手も何も、使えないでしょ?とツッコミを入れる人間は、ここには居ない。

 部屋の隅に控えるメイドも含め「ルロローズ様は優しいですからね」と好意的に捉えていた。


 フローレスも、温かい目でルロローズを見つめた。

 第二王子やルロローズからは睨んでいるように見えたとしても、本人は優しく見つめていたのである。

 なぜなら、ここでルロローズが頑張ってくれないと、第二王子の婚約者になれないからだ。




【氷の属性も、緑の属性も、貴族の平均より低かったルロローズ。

 しかしその心根の優しさと、他の貴族からの支持が高い事を理由に、第二王子の婚約者にどうか?との声があがり始めていた。

 そもそも姉のホワイトが第二王子の婚約者なのである。

 婚約者の交代が行われても、貴族の勢力図には何ら影響を与えない。】


「フローレス様、ピンキーの名前がルロローズになってますわよ」

 校正をしていた伯爵夫人が原稿を1枚返してきた。

「あら、本当ですわ。ついつい願望が」

 間違った部分に紙を貼り、上から正しく【ピンキー】の名前を書き直す。


 他の間違いの訂正や言回しの書き換えは、伯爵夫人が赤インクで二重線をしてから横に書いていた。

 その為、【第二王子】の部分は既に二重線で消され、【王太子】に直されている。

 しかし間違った名前は、絶対に本に載ってはいけないのだ。

 この本は、あくまでもフィクションでなければいけないのだから。



「もう少し、本当にもう少し、せめて開花させる事が出来るくらいの力があれば」

 フローレスは大きな溜め息をく。

 こればかりは本人のせいでは無いのだが、皆に可愛がられ甘やかされ、我儘放題に生きているのだから、せめてこちらには迷惑を掛けない程度には頑張って欲しいと思ってしまう。


 そもそも第二王子にアプローチを仕掛けて、王子妃の座を欲したのはルロローズなのだから。

もし人生の校正が出来るのなら、フローレスは間違い無く、自分に有った【第二王子の婚約者】を【第二王子の婚約者の姉】に書き換えていた。



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