第8話:王子妃教育




「王子妃教育の復習を、先生にお願いしようかと思っております」

 意気消沈した様子で、フローレスは第二王子へと告げた。

 場所は侯爵家の応接室。

 今日は定例のお茶会の日である。

 なぜか今日は最初から、許可も求めずにルロローズが参加している。

 茶器も最初から三人分用意されていた。


 母親の画策であろう。

 ルロローズは勝ち誇ったような視線をフローレスに向けてきたが、フローレスも心の中では万歳三唱であった。


「ほぅ?王子妃教育のやり直し?」

「はい。私としては一生懸命やって、後は成人後と思っておりました。しかし王妃陛下には認められず、母にも毎日復習を強いられております。一人では限界がありますので、先生にもう一度お願い出来ればと」

 決して自分に非が有ると認めてはいけない。

 言葉遊びのようでいて、後で揚げ足を取られる事が有るからだ。


「殊勝な心掛けだが、それでは茶会も王宮で行う事になるな」

 第二王子の視線がチラリとルロローズへと向いた。

 定例のお茶会が王宮で行われるようになってしまうと、ルロローズは参加する事が出来なくなる。

 あんなにわかり易く見え透いたルロローズのおべっかでも、第二王子は気に入ったようである。

 フローレスは、コッソリ口端を持ち上げた。



「私が不甲斐無いばかりに申し訳ありません」

 嘆くふりをして口元に手を持っていき、自然に上がってしまう口角を隠すフローレス。

「もう一人くらい婚約者候補が居れば、私も重圧を感じず、もう少し……いえ、何でもありませんわ」

 俯きながらも、フローレスは二人の様子を確認した。


 ルロローズは第二王子の前だというのに、性格の悪さが滲み出ている笑顔を浮かべている。

 おそらく、両親にをするつもりなのだろう。

 そして第二王子は、顎に手を当てて何かを考え込んでいる。

 視線は斜め下なので、ルロローズの表情には気付かない。


「それでお前の負担が軽くなるのならば、母上……王妃陛下に相談してやろう」

 第二王子がフローレスへ言う。

「いえ、私の我儘でそんな事は……。第一、私よりも優秀な方が選ばれてしまったら困りますもの」

 フフフ、とフローレスは笑った。

 第二王子の婚約者の座に固執しているように見える演技をして。

 それが二人を煽ると解っていて。




「来月から、フローレスの王子妃教育の再教育が許可されたぞ!」

 侯爵家での定例お茶会3回目で、第二王子が開口一番宣言した。

 随分早く許可が降りたものだと、画策したフローレス自身も驚く。

「場所は侯爵家で良いそうだ。何せ再教育だからな!」

 どうやら「再教育」というのが王妃の自尊心を満足させたようで、「それなら早く始めないと間に合わないでしょう?」となったようだった。


「そして正式には認められないが、ローズが受けたいなら、一緒に勉強しても良いそうだ」

「まぁ!ありがとうございます!ベリル様が説得してくださったのですね」

 喜び合う二人を、フローレスは冷めた目で見つめていた。

 いつの間にか二人して名前で呼び合ってるのね、と。

「第二王子殿下、ありがとうございます」

 フローレスは、態と嬉しそうに笑ってみせた。



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