第87話 王様ゲーム
家に溜め込んでいた割り箸に番号を書き、その割り箸を握っている瀬川さんから順番に割り箸を引いていく。
さあ、王様は誰になるだろうか……。
瀬川さんが王様にでもなったら大変なことが起こりそうなので、他の人が王様になることを願いながら自分の引いた割り箸に書かれた番号を見る。
割り箸の先端には小さく『王様』と書かれていた。
……え、僕が王様?
こういうとき、大体は僕以外の誰かが王様を引いてやりたくもないことをやらされる役に回るのがお決まりだ。
もちろん運要素なので僕が王様になる可能性はあるのだが、経験上絶対に自分は王様にはならないと思っていたのでかなり驚いている。
今日ばかりは運が回ってきたということだろうか。
「はい、じゃあいくよー。王様だーれだ‼︎」
『ゲームでもしない?』という瀬川さんからの提案を肯定したことでこのゲームが始まったわけだが、ゲームの内容が内容だけにあまり乗り気ではない。
僕以外もそれは同様で、瀬川さんはただ1人楽しそうに掛け声を言った。
「はい」
「うわ〜。本庄君だったかぁ〜」
瀬川さんは露骨に悔しそうにしているが、そこまで王様をやりたかったのだろうか。
「本庄君、どんな命令するの?」
「うーん……」
雨森さんからそう訊かれてもまだ僕の中でどんな命令をするかは決まっていないので返答に困る。
命令って言ったってなぁ……。
「少しくらいいかがわしい命令でもいいんだよ?」
「い、いかがわしい命令なんてするわけないだろ‼︎」
もし仮に僕がいかがわしい命令をすれば瀬川さんだってその対象になる可能性は十分あるのに一体瀬川さんは何を求めているのだろうか……。
それから僕はしばらく考えて、答えを出した。
「3番が王様の方を肩を揉んでくれ」
「えー何それ面白くな〜い」
僕の命令に対して不満の声を上げる瀬川さんだが、これくらいの命令が波風立たず丁度いいだろう。
「僕に面白さを求めるのはやめてくれ」
「それで、3番だれなの?」
「……私ね」
手を挙げたのは千紗乃だった。
千紗乃に、肩を揉まれるのか俺は⁉︎
まさかの3番が千紗乃だった驚きで一瞬頭が真っ白になりそうになったが、むしろこれくらいの簡単なお願いにしておいてよかったな。
もし仮にも僕が『王様と3番がハグする』とか『王様と3番がキスする』なんて命令をしていたとしたらとんでもないことになっていただろうし。
恐るべし。王様ゲーム。
とはいえ、肩を揉む程度のお願いにしたことを若干もったいないと思ってしまっている自分がいたのも事実だった。
「……ほら、何ぼーっとしてんのよ。早くそこのソファーにでも座ってくれる?」
「お、おお。そうだな」
僕がソファーに座ると千紗乃は後ろに回り僕の肩を揉む定位置につき、肩を揉み始めた。
その瞬間、肩を揉んでくれとお願いしたことがもったいなかったなんて感情は吹き飛んでしまう。
千紗乃の柔らかい手が僕の方に触れ、それで力を入れているのかと疑いたくなるほどに優しく肩を揉まれる。
素肌ではなく服越しでの肩揉みではあるが、千紗乃の温もりを感じ胸の鼓動が速くなってしまっている。
「ちょっと、なんで無言なのよ」
「理由は無いけど」
「せっかく揉んで上げてるんだから、気持ちいいの一言くらい言いなさいよね」
「そ、そうだな……。気持ちいいよ、気持ちいい」
肩揉みだけでなく言葉でも責められるとは思っておらず、完全に敗北してしまった僕はそれから肩揉みが終わるまで、言葉を発することができなかった。
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