第77話 大事な報連相

「--ってことがあって」


 結論から言うと、僕は隣のクラスの憂と愛桜と名乗る女子生徒からの誘いを断わり、そのまま帰宅してきた。


 そして千紗乃が雨森さんとの遊びから帰宅してきてすぐに何が起きたのかを報告した。


「憂って藤田憂さんよね? あの子、奥手なタイプに見えてたのにまさか灯織君のことが好きだったなんて……」

「いや、なんかそんな話はしてたけどからかってるだけだと思うぞ。僕みたいな陰キャが急に学校中の話題を掻っ攫ってるのが面白くてちょっかいかけようとしたとか、そんなとこ--」

「何も分かってないのね」


 僕が冷静に状況を分析した結果を伝えようとすると、千紗乃はそれを遮るように言葉を被せてくる。


「何が分かってないって言うんだよ」

「灯織君には十分魅力があるし、好きになる女子がいたって不思議じゃないのよ。もうちょっと自分に自信を持ってもいいんじゃない?」


 前から同じようなことを言われているが、そう簡単に自信を持てるはずもない。


「いや不思議だろ。そりゃ千紗乃と関わる前と比べれば随分マシになったとは思うけど、それだけで急に女子からモテ始めるとは思えないし」

「だから分かってないって言ってるのよ。じゃあ一つ訊かせてもらうけど、灯織君、藤田さんからの誘いをなんで断ってくれたの?」


 ……。


 そう訊かれると非常に答えにくいものがある。


 藤田さんからの誘いを断った理由を千紗乃に伝えても僕に不都合は無い。


 ただ、ひたすら恥ずかしいのだ。


「言わないとダメなやつか……?」

「まあ言わなくても分かってるけど一応言ってみて」

「分かってるなら言う必要あるか?」

「念の為」

「……千紗乃が嫌がるかなと思って」

「そういうところよ」


 僕が千紗乃に藤田さんからの誘いを断った理由を言いたくなかったのは、自意識過剰だと思われる可能性があったからだ。


 僕が千紗乃以外の女子と遊びに行けば、千紗乃が僕に対して嫉妬するのではないかと考えたから今回の誘いは断ったのである。


 そう考えているということは、千紗乃が僕のことを多少なりとも好きだと思い込んでいるということにもなる。

 だから千紗乃には藤田さんの誘いを断った理由を伝えたくなかった。


「そういうところって、それだけで女子が僕に魅力を感じることにはならないだろ」

「なるわよ。女の子ってみんな嫉妬深いんだから。彼女のために他の女の子の誘い断ってくれる男子なんて優良物件でしかないわよ」


 僕は友達が少なく同級生の恋バナはほとんど聞いたことが無いので知らなかったが、女子からの誘いを断るだけで優良物件になれるのか。


「そう思ってくれるのはありがたいけど」

「まっ、私からしたら灯織君が私のこと大切に思ってくれてるってのが分かって嬉しかったけど?」

「ならよかったよ」

「……今後もダメだからね」

「……何が?」

「私以外の女子と遊びにいったらダメって言ってるの‼︎」

「お、おう」


 どうやらただ僕が思い込んで居ただけではなく、千紗乃は本当に僕に嫉妬してくれていたらしい。

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