第69話 本物の関係
灯織君からしてみれば嘘の恋人なんて迷惑でしかなくて、ただ私に迷惑をかけないためだけにこの関係を続けていたのだろう。
私は灯織君との関係を終わらせたくないからこそ今日まで嘘の恋人を続けられてきた。
そんな私とは違い灯織君は私との関係を終わらせたいと思っていたにも関わらず、私のために嘘の恋人を続けてくれていたのだ。
本当に、本当に優しすぎるよ……。
これで終わりになってしまうのは残念ではあるが、ここで食い下がることは灯織君にとって迷惑でしかない。
私は灯織君の気持ちを尊重することにした。
「そう……だよね。灯織君からしたら私と嘘の恋人って関係を続けるなんて迷惑だよね」
「は? 迷惑なんて一言も言ってないんだが」
「え? だって自分のためにもこの関係を終わらせたいって今はっきりと--」
「だから迷惑だなんて一言も言ってないだろ」
……確かに、迷惑だとは一言も言っていない。
とはいってもこの関係を終わらせたいと言っている時点で、イコール迷惑ということになると思うんだけど。
「じゃ、じゃあなんでこの関係を終わらせたいと思ってるのよ」
「……笑わないって約束してくれるなら話してもいいけど」
嘘の関係を終わらせたい理由が、聞いたら思わず笑ってしまうような内容だとは思えない。
私は自信を持って返事をした。
「……? よくわからないけど絶対に笑わないわ」
「僕たちは今嘘の恋人のフリをしてるけど、それじゃあ僕と千紗乃の関係には嘘しかないってことになるだろ?」
「まあそうなるわね」
「だろ? だからせめて嘘の恋人って関係を終わらせれば、友達っていう関係にはなれるんじゃないかと思って」
「……へ?」
「仮に喧嘩別れっていうのを理由に嘘の恋人関係を終わらせたとしたら僕たちただの他人になる。それだと今後一切千紗乃と関わる機会がなくなるから、せめて僕たちが友達になれれば今後僕と千紗乃の関係が終わる心配はないだろ?」
灯織君は酷く恥ずかしがっており、頬を赤らめながら私から視線を逸らした。
え、それって要するに、私とずっと関わっていきたいから別れて友達に戻りたいってことだよね?
嘘の恋人という不確定な関係ではなく、友達になれば私とずっと一緒にいられるから別れたいって言ったってこと?
私に友達以上の感情を抱いているかどうかはともかく、それって、それって……。
「ぷっ、あははははははっ‼︎ 何それ、回りくどすぎてびっくりしてるんだけど」
「ちょ、笑うなって言っただろ⁉︎」
「笑わずにはいられないわよこんなの。それなら関係を終わらせた方がいいとか言わずに、最初から友達になりたいって言いなさいよ」
「し、仕方ないだろ。僕だってそんなこと言うの恥ずかしかったんだよ‼︎」
「はぁーっ本当笑いすぎて顔が痛いわ」
「じゃ、じゃあ千紗乃はどうなんだよ。僕との関係を終わらせたいと思ってるのか?」
灯織君の本心を知った私には灯織君の反撃にも狼狽えることはなかった。
「そうね……。灯織君と同じかな」
「なんかそれ卑怯じゃないか?」
「卑怯で結構よ」
「ふんっ。もう寝るからな」
「ええ。おやすみなさい」
機嫌が悪そうに布団に潜る灯織君を見た後で私は目を閉じて眠ろうとしたものの、灯織君が私とずっと一緒にいたいと思ってくれていることが嬉しすぎて中々寝付くことはできなかったのだった。
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