第38話 裸の付き合い1

「ふぅ〜。やっぱりお風呂入りながらだとリラックスできてるし普段言えないことも言えそうね」


 今まさに僕は裸の千紗乃と会話をしている。


 風呂の扉越しで。


 ちなみに言っておくと僕は服を着ている。


 裸になれば開放感もあるし、リラックス状態で話せるのではないかという千紗乃の提案を受けて、僕はてっきり一緒にお風呂にでも入るのかと思ってしまった。

 しかし、実際は千紗乃が先に洗面所に行き服を脱いでお風呂に入り、その後で僕が洗面所に入りお風呂の扉越しで裸の状態の千紗乃と話すという状況になった。


 いや、まあこれはこれでめちゃくちゃ興奮するし思考回路はメチャクチャになっているのである意味では隠し事なく会話ができる状態なのだろうが、狙いとは大きくズレてしまっている。


 千紗乃の話を聞き終えたら、次は僕が裸になってお風呂に入ることになっているが、それもそれで変に興奮しそうだし……。


「いや、でもこれはいくらなんでも……」

「別に私が裸だからって灯織君が直接私の姿を見てるわけじゃないんだし、普段喋ってる時と何も変わらないでしょ?」

「まあそうなんだけどさ……」

「でしょ」


 何も変わらないわけがない。


 今風呂の扉の向こうには、裸の千紗乃がお風呂に浸かっており、僕は扉を一枚挟んで座っている。


 普段は制服に隠れてあまり目立っていない胸も裸になればその主張は強くなるだろうし、服を着ている時よりも手足は細く華奢に見えるだろう。


 ああダメだ……。考えれば考えるほど思考が千紗乃の裸を想像してしまう。


 とはいえ、こんな状況で、千紗乃のあられもない姿を想像するなと言う方が無理な話だ。


「じゃあまずは……好きな食べ物は?」

「そんな単純なところから入るの?」

「た、単純でも大事なことだろ」


 お互いのことを知らないといけない、とか大きなこと言い出した僕が大した質問を考えていなかったとは言えない。


「そうね……いちごとか」

「初っ端から果物かよ」

「べ、別に良いでしょ。好きなんだから」

「他には?」

「……桃も好きね」

「うん分かった、要するに果物が好きなんだな」

「ま、まあそうなるわね」

「他には?」

「……灯織君が作ったカレー」


 まさか自分が作った料理を好きだと言われるとは思っていなかった僕は目を丸くした。


「そんなに美味かったか?」

「昨日も言ったでしょ。美味しかったって」


 自分の作った料理を美味しいと思ってもらえるのはやはり嬉しい。

 僕はどうやら誰かに料理を作るのが嫌いではないみたいだ。


「あ、ありがとう……。じゃ、じゃあ休みの日は普段何してんの?」

「さっきみたいにドラマとか映画見てるか、音夢と遊びに行くくらいかしら」


 なるほど、要するに千紗乃の趣味はドラマや映画鑑賞で、親交の深い相手は雨森なのか。

 まあ雨森と仲が良いのは普段の学校生活見てるし知ってるけど。


 ……ん? でもよくよく考えてみれば、千紗乃が学校で雨森以外の誰かと会話してるところってあんまりみてない様な気がするな。

 

「雨森以外の誰かと遊んだりもするのか?」

「……」


 ……ん? なんで返答がないんだ?

 もしかしてこれって地雷だった?


 いや、そうは言っても、そういう部分こそ僕たちが知らなければならない部分なのだ。


「……すまん、言いたくなかったら言いたくなくて良いんだけど」


 うん、知らなければならない部分って言ったって、千紗乃が言いたくない話は無理に聞くべきじゃないよな。


 ってただ単に僕が千紗乃にそういう話を聞く勇気がないだけのチキンなんだけど。


「……いつか話すことになるかなとは思ってたし、話すわよ。私ね、男子から多少人気があるって言うのは分かってるの。色々あったし。でもね、私が女子から人気がないって知ってた?」

「女子から人気がない?」


 千紗乃は誰からも好かれているイメージがあるが実はそうじゃないのか?


 どうやら千紗乃の過去には何やらのっぴきない理由がありそうだ。

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