第23話 好きじゃないわよ‼︎
僕は今日、千紗乃を連れてファミレスへとやってきていた。
定期的にファミレスに来ることで僕たちが付き合っているのが嘘だと気付かれないようにしようという話になったからだ。
あわよくばファミレスに二人で来ている僕たちを見かけた誰かが付き合っているという噂を広めてくれれば、その話が両親へと回り僕たちが付き合っていると信じさせることができる。
そういう話でお互い合意してファミレスにやってきたはずなのだが、千紗乃はいつもより明らかに目付きが悪く、眉間にシワを寄せ不機嫌な顔をしながら僕の前に座っている。
「どうした? 不機嫌そうな顔して」
「別に不機嫌じゃないから安心して」
安心してと言われても、そこまで不機嫌そうな顔されるとなぁ。
まあ本人がそう言うなら気にしないでおこう。
「そか。あのさ、気になることがあるから一応訊いといていいか?」
「何よ、気になることって」
「万が一、いや、億が一にもそんなことないと思ってるんだけど、もしかして千紗乃って本当に僕のこと好きだったりするか?」
悩みに悩み抜いた結果、悩んでいるくらいなら直接千紗乃に訊くいてしまえという投げやりな結論に至った僕はその考えを実行した。
「……はぁ? 自分が何言ってるか分かってんの?」
千紗乃は僕の予想を遥かに上回るレベルで嫌悪感を滲ませた。
僕の予想していた反応は、恥ずかしそうな表情を浮かべながら目線を逸らすか、その場で怒鳴り散らかしてアンタなんか好きじゃないわよ、と罵られるというものだった。
しかし、千紗乃は一番ガチな、冷静に低い声で話す、という反応を見せたのだ。
「あ、い、いえあの……すいません」
「ふんっ。分かればいいのよ」
そうだよな。やっぱりそうだ。千紗乃みたいな美少女が、僕のことを好きになんてなるわけがない。
やっぱり雨森は僕のことをからかっていただけのようだ。
その後、僕の質問のせいで空気が悪くなってしまい会話は全く生まれず、いたたまれなくなった僕は帰宅することを提案し、僕たちは帰路についた。
できるだけ眉間に皺を寄せ、灯織君に見下すような視線を向ける。
「どうした? 不機嫌そうな顔して」
そんな表情をしていればそう訊かれるのも当たり前ではあるのだが、そんな表情をしていなければとてもではないが耐えられるものではなかった。
私の精神が。
いやほんっとにもう無理なんだって‼︎ 今にも顔が綻んで、灯織君の目の前でみっともない表情を見せちゃいそうなんだけど⁉︎
私の好きは日毎に増していき、その感情は私の中だけでは留まらないようになってきている。
その感情を隠すためには、こうしてあえて不機嫌な顔という皮を被らなければ今にも溢れ出しそうな状態である。
「別に不機嫌じゃないから安心して」
「そか。あのさ、気になることがあるから一応訊いといていいか?」
「何よ、気になることって」
「万が一、いや、億が一にもそんなことないと思ってるけど、もしかして千紗乃って本当に僕のこと好きだったりするか?」
そう訊かれた瞬間、私はその場で立ち上がり、机をバンバン叩いてそんなわけないと大声をあげたかった。
しかしそれではあたかも私が灯織君のことを意識していて、それを言い当てられたから必死で反論しているように見えてしまう。
そうならないように私は感情を抑え、負の感情で勝負に出た。
「……はぁ? 自分が何言ってるか分かってんの?」
「あ、い、いえあの……すいません」
「ふんっ。分かればいいのよ」
私の反応が予想外だったようで、灯織君は後退りし謝罪してきた。
その後、灯織君が私に喋りかけてくることはなく、私も不機嫌な表情をするのが精一杯で会話は生まれず、すぐに帰宅することとなった。
今日はなんとか乗り切れたけど、これからどうしよう……。
もう私、灯織君に対する感情が抑えられそうにないんだけど。
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