もしかして好き?
第21話 好きなのでは?
やはり僕の勘違いなのだろうか。
観覧車の中でバランスを崩し僕の唇が千紗乃の唇に触れた後、千紗乃の顔が紅潮していたのは。
たとえそれが不可抗力であったとしても、好きでもない男子からキスをされたとなれば反射的に平手で頬を叩いてしまうもんだと思ってたんだが……。
遊園地に行ってから一週間が経過するが、あの日観覧車の中で起こったことばかりが頭の中でぐるぐると回り続けている。
「うーん……。分からん」
「また悩んでるのか?」
頭を抱えている僕に話しかけてきてくれたのは翔太だ。
翔太は僕がいつもと違う雰囲気を感じ取ると必ず声をかけてきてくれる。
「……いいよな翔太は、いつも楽しそうで」
「何言ってんだよ。俺だって悩んでんだぞ? 次の遠征費をいかにして稼ごうかとか」
翔太は僕とは違って明るい性格なのだが、ただ一つだけ欠点がある。
それはめちゃくちゃアニメが好きという点だ。
アルバイトで稼いだお金は全てアニメのグッズやライブ等に注ぎ込んでいるため、かなりシフトを入れてはいるものの貯金は全く無いらしい。
とはいえ何にお金を使うかなんて個人の勝手なので、その使い道を悪いなんて思わないし口を出すつもりもない。
むしろ本人が楽しめているのだから、その使い方が正解である。
「僕には無縁の悩みだな」
「灯織には無縁の悩みでも俺だってこうやって何かしら悩みを抱えて生きてんだよ。悩みがない人なんていないんだし、解決しようと思わず悩み切ってみたらどうだ?」
ただ何も考えずに思ったことを言っただけなのだろうが、翔太の言葉は一週間悩んでいた僕の胸に深く突き刺さった。
解決しようと思わず悩み切る。そんな考え方が僕の頭の中には存在していなかったからだ。
できることなら悩みなんて抱えて行きたくないと思っていたが、こんな風に悩みを抱えられること自体幸せなのかもしれない。
それならいっそのことこの瞬間を噛み締めながら、悩み切るという考え方はまさに目から鱗だった。
「ははっ。悩みっていうのかそれ」
「悩みかどうか決めるなんて本人次第だろ。それで、何に悩んでたんだ?」
「僕がポロっと話すとでも思ったか?」
「ちっ。引っかからなかったか」
ただ自分が気になるだけなのか、心の底から僕のことを心配してくれているのかは分からないが、翔太にはすでに千紗乃が許嫁であることを伝えてある。
その情報はまだ学校中に広まっていないので、翔太は誰にこの話を横流ししていたりもしないのだろう。
それなら、翔太にこの悩みを話しても大丈夫なのかもしれない。
「……なぁ。翔太が女だったとして彼氏でもない男友達と遊びにいった時にさ、不可抗力で、状況的に致し方なくキスされたらどう……」
「ぶん殴るな」
はい問題解決。
それが世間一般的な考え方だと思う。
「じゃあさ、好きでもない男にキスされて顔を赤くしてるのって何でだと思う?」
「そりゃお前好きだからに……ってお前まさか⁉︎」
「ち、違う違う例えばの話に決まってるだろ⁉︎ 僕が千紗乃にキスするなんで不可抗力であったとしてもお天道さんが許しちゃくれねぇよ」
「まぁ確かにそりゃそうか……。神凪とキスできるなんて俺からしてみれば推しの声優とキスするようなもんだからな」
一瞬疑われはしたものの、すぐに疑いを晴らすことができたのは幸いだった。
ただ翔太との会話でハッキリとした。
やはり千紗乃が僕のことを好きな可能性がある。
いや、正直まだ信じられないし自分が自意識過剰なだけなのではないかと思ったりもするのだが、流石にあの反応を見せられると自意識過剰とも言い難くなる。
今は嘘のカップルとして両親を欺くことに成功しているが、もし千紗乃が僕のことを好きだとするならば、この関係は容易に破綻する可能性がある。
それならば、なんとかして千紗乃が本当に僕のことが好きなのかどうかを確認しないければならない。
方法は色々あるだろうけど……。
さて、いかほどにして千紗乃が僕のことを好きかどうかを確認しようかな……。
もう一週間も悩んだのだから今更焦っても仕方がないし、とりあえず今日無理やり答えを出そうとするのはやめて明日までにゆっくり考えるとしよう。
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