第5話 「魔獣の森でサバイバル」
虎太郎達が魔獣の森に入ってから1時間程経った。
虎太郎は、現在周りを警戒しながら進んでいた。
ガサゴソッ!と茂みで音がする度に、虎太郎は体を震わせている。
「ビビりすぎだろお前」
そう言ってゴルドは馬鹿にしたような笑みを向けてくる。
「う、うるせぇ! 仕方ないだろ慣れてないんだから!」
「ははっ! まぁ安心しろよ、俺様が守ってやるからよぉ」
「んだと! 別に守ってもらわなくたって…!」
「喧嘩してんじゃないわよ2人とも。それより、とりあえず寝床を探しましょう」
喧嘩に発展しそうな2人を止め、シエルは提案する。
ゴルドは考えるそぶりを見せた後、頷く。
「そうだな。 左奥から水が流れる音がする。 水辺の近くに移動するぞ」
ゴルドが先導し、ついて行くと、本当に川があった。
周りには茂みも少なく、危険はなさそうだ。
「水は確保出来た。 あとは食料だな。
おい余所者」
「その余所者って呼び方やめろ!」
「いいから聞け。 お前、多少は戦えるよな」
「え、あー…どうだろうな、刀無しで戦闘した事ないからなぁ」
そう言うと、ゴルドはため息をついた。
「つかえねぇな…分かった。 んじゃお前は囮になれ。
そんでシエル、お前はここで火起こしだ」
「火起こしぃ…? か弱いレディにそんな危険な事させる気?」
「お前学校のサバイバル演習の評価良かっただろ」
「ちぇっ…見られてたのね。 分かったわよ。 火起こしは任せなさい」
「ちょっと待て囮ってなんだ!?」
「お前が動物を引きつけて、俺がトドメを刺すって事だよ」
そう言うと、早く行くぞと言いたげに、ゴルドは茂みに入って行った。
虎太郎もため息をついた後、ゴルドを追って茂みに入った。
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あれから数分歩いているが、辺りに動物の気配はない。
「…動物いねぇなぁ」
「そんな簡単に見つかる訳ないだろ。 相手も喰われたくはないだろうしな。
姿を現すとすれば…」
ゴルドが言った瞬間、目の前に巨大なクマが現れた。
ゴルドはそのクマを見て笑みを浮かべる。
「俺達を食おうとしてる奴くらいだ」
「っ!」
そのクマは、口元が赤かった。
つまり、何かを捕食した後という事。
かなり凶暴な事は間違いない。
「おい余所者! お前はこいつを右に誘導しろ! 俺が回り込んで後ろから叩く!」
「わ、分かった…!」
クマが雄叫びをあげる。
虎太郎は走り出そうとしたが、恐怖で動けなくなってしまった。
そこに、虎太郎を殺そうとクマが走ってきた。
(やっべぇ…!動けよ足…!!)
「ちっ…! 足手まといが!!」
走ってくるクマの顔面を、ゴルドが飛び上がって蹴る。
クマはバランスを崩し、ゴルドは虎太郎を守るように前に立つ。
「おい! 動けるか!?」
「ち、ちょっと足が震えて…はは…」
明確な死の危険に、虎太郎は震え上がっていた。
これはデストとの戦いの時と一緒だ。
だが、虎太郎もこのままじゃダメな事は分かっている。
「…わりぃゴルド、1発殴ってく…ぶぅっ…!」
言い終わる前に、ゴルドに顔面を殴られた。
「お前…! 言い終わる前に殴んなよ!」
「震えは止まったか? ならすぐに立て!」
確かに、虎太郎の足の震えは止まっていた。
目の前では、クマが虎太郎達を睨みつけている。
明確に怒っている。
「…さっき1発蹴りを入れてわかった。
コイツには勝てねぇ」
「…マジ?」
「あぁ。 魔導器があればこんな奴一瞬なんだが、腹立たしいぜ全く」
「なら、逃げるしか…」
「馬鹿かてめぇは。 コイツはどこまでも追ってくるだろ。
そうすると、シエルが巻き添えになる。
下手すりゃ全滅だ」
確かに、ゴルドの言っている事は正しい。
ゴルドは軽薄そうに見えて、周りの事をよく考えている。
先程も虎太郎の事を助けた事から察するに、根は優しいのだろう。
ゴルドは、一度深呼吸をする。
「…俺があいつを引きつける」
ゴルドは、覚悟を決めたように言い放った。
「っ! 馬鹿か!? 1人で勝てる訳ないだろ!」
「誰も勝つとは言ってねぇ。 ただ引きつけるだけだ。
さっきの蹴りで、あのクマは完全に俺をロックオンしてる。 実力から見ても、俺がやるのが適切だ」
「で、でも…!」
「ここで死ぬなら、俺はそれまでの男だったってだけだ。 まぁ、今日中には戻ってやるよ。 俺様は天才だからな」
そう言うと、ゴルドは飛び上がり、クマの腹に蹴りを入れた。
クマは再度バランスを崩し、ゴルドに向かって雄叫びをあげる。
「うるせぇクマだな。 来いよ、鬼ごっこしようぜ」
「ゴルド!」
「馬鹿野郎早く行け! 」
ゴルドは、虎太郎とは逆方向へ走って行った。
クマもゴルドを追いかけていき、その場には虎太郎だけが残る。
虎太郎は、シエルが待つ水辺へ走り出した。
(くそっ…!何やってんだ俺は…!! こんな体たらくじゃ、いつまで経っても強くなれないってのに…!)
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「あ! 虎太郎おかえり! 見なさいこれ! 私にかかれば火起こしなんて…って」
戻ってきた虎太郎を見て、最初は安心感から笑顔を見せたシエルだったが、虎太郎の暗い表情を見て笑顔が消えた。
「…えっと…ゴルドは…?」
「…俺を逃すために、巨大クマの囮になった。 今も逃げてる」
虎太郎の言葉を聞き、シエルは目を見開いた。
辺りはもう暗くなり始めており、本来なら取ってきた食料を焼いている時間だった。
「……」
「……」
数分間、無言の時間が流れる。
「…やっぱり、俺行くよ」
「ダメよ」
立ち上がった虎太郎を、シエルが止める。
「でも…!」
「虎太郎と2人でも無理そうだから、ゴルドはアンタを逃したんでしょ? また戻っても、同じ結果になるだけ」
「…なら、ゴルドが帰ってくるのを待てってのかよ…」
「いいえ、違うわ」
シエルは、首を振る。
「ずっと考えてたのよ。 ゴルドがアンタを逃した理由を。
ゴルドは素直じゃないでしょ?」
「まぁ、それは今日あっただけで十分分かったけど」
「そんなあいつが、素直に助けてくれなんて言えると思う?」
シエルは微笑みながら言った。
「ゴルドが虎太郎をここに帰したのは、きっと、もう一度準備をして助けに来て欲しいよ。
私を連れて、作戦を練ってからね」
「シエルを…?」
「うん。 1人より2人、2人より3人。 この世界で、数に勝るものなんてないのよ。 私達はチームでしょ? 助け合わなきゃ」
「…って事は!」
「うん。 ゴルドを助けに行くわよ。 2人で」
虎太郎とシエルは、勢いよく立ち上がった。
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