第2話 「ドラグレア王国」

「…んぁ…?」


真っ白な病室、真っ白なベッドで、虎太郎は目を覚ました。


「お、目が覚めたかい少年」


虎太郎に話しかけた人物は、眼鏡をかけた老婆だった。

虎太郎は、自分の身体を見る。


虎太郎の身体は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。


「…あっ…! で、デスト! 婆さん!俺…!」


「あまり騒ぐな少年。 傷が開くよ。 あと、婆さんじゃなくてバリアンと呼び」


「そんな事より…! 痛っ…」


急に身体を動かした事により、身体が悲鳴を上げた。


「だから言っただろう。 お前は骨折してるんだよ。 生身の人間なのによくその怪我で生きてられるもんだ」


「…俺は…あれからどうなったんだ…?」


「…お前さんにとっては、これからは驚きの連続だろうさ」


「どういう事だ?」


「ゆっくりなら歩けるだろう? 窓の外を見てみな。 全てが分かる」


虎太郎は、言われた通り、痛む身体を我慢しながら、ゆっくりと窓の方へ歩き、カーテンを開けた。


その瞬間、虎太郎は目を見開いた。


「な…んだ…ここ」


虎太郎の目の前には、日本では考えられない光景が広がっていた。


中世ヨーロッパのような建物に、空を飛ぶトカゲ、更に、1番奥には巨大な城があった。


(外国か…? いや、それにしてはこの婆さん日本語ペラペラだしな…)


「ここは、ドラグレア王国」


「ドラグレア…?」


当然だが、虎太郎は聞いた事がない。


だが、虎太郎は記憶を遡り、とある仮説を思いつく。


「…セレナが住んでる世界…?」


「正解だ」


「な、なんで俺がこっちの世界に…?」


虎太郎が言うと、バリアンはため息をつく。


「お前さんは、魔導士になっただろう」


「…あぁ」


「その時点で、お前さんは向こうの世界では異質な存在になっちまったのさ」


「異質な…存在…?」


「向かうの世界には魔法という概念はない。 なのに、お前さんは魔法を使えちまう。

そんな物、化け物と何が違うんだい」


「っ…」


「お前さんに残された道はもう。 魔導士として生きていく道しか残されてはいないのさ」


(…化け物…か。 確かに、俺はもう向こうの世界では異質な存在だ…)


「…なら、もう俺は向かうの世界には帰れないのか…?」


「いや、それは違う。 魔導士は、連続して3日程なら、異世界での行動を許可されている。

3日が、異世界に影響を与えない限界なのさ」


「なら…!今すぐに…!」


「だがそれは魔導士として一人前ならの話。

素人の魔導士は魔力が安定せずに、世界へ大きな影響を与える。

お前さんはまだだめさね。 それに、デストが異世界に現れて、正式な任務としてじゃなきゃ、許可はされない」


虎太郎は肩を落とす。


だが、同時に安心もした。

頑張りさえすれば、また美雨達に会えるのだ。


美雨達に影響を与えない方法は、これしかない。


ちょっと時間はかかっちゃうかもだけど、絶対にまた、会いにいくからな。


「分かった。 あ、あと、セレナって魔導士を知らないか? 俺と一緒に居たはずなんだけど」


「あぁ…セレナ様かい。 セレナ様なら…」


バリアンは虎太郎の方をジッと見る。

見られた虎太郎は、首を傾げる。


「…あの人も忙しいお方だからね、今頃任務で忙しくしてるだろうさ」


「マジか…会ってお礼したかったんだけどな」


「まぁ、いつかは会えるさね。 気長に待ちな。

あぁ後、セレナ様から魔力を譲渡された事は公言しないように」


「なんでだ?」


「セレナ様はこっちの世界では超有名人なのさ、そんなお方から魔力を譲渡されたと聞いたら、皆気になってお前さんに会いにくるよ」


「うわっ…それはめんどくせぇな」


そんな話をしていると、病室の扉が開いた。

扉を開けたのは、スキンヘッドの強面の男だった。


「私の名はゴリス・バージェス」


「…は、はぁ…?」


虎太郎が曖昧な返事をすると、ゴリスは虎太郎の事を睨み、その後虎太郎の頭にゲンコツをくらわせた。


「いっ…!? てえええええっ!!!」


「人が名乗ったのだから、名乗り返すのが礼儀だろうが!!!」


頭を押さえ涙目になっている虎太郎をよそに、ゴリスは咳払いをする。


「もう一度言う。 私の名はゴリス・バージェス」


「…赤羽…虎太郎」


「うむ。 さて虎太郎。 いきなりだが、貴様は魔導士としての力が使える…という認識でいいんだな? 」


ゴリスの問いに、虎太郎は頷く。

すると、ゴリスはニヤリと笑う。


「ならば、その力、私に見せてもらおうか」


「…はぁ?」


「私はドラグレア王国魔導士学校の教育長でな。 新たに魔導士となる者の資質は見分けなければいけないのだ」


「教育長…ねぇ」


「今から2週間後、貴様を含めた3人の魔導士免許試験が行われる。

通常なら2年間学校で魔術の事を学ばなければ試験は受けられないが、貴様は例外だ。

変異体デストを倒しているからな」


「免許試験…?」


「あぁ。 免許のない者の魔術行使は、立派な犯罪だ。

貴様がその試験を受けるに足る人物なのかどうかを、3日後、私が直々に見てやると言う話だ」


「なるほど…」


(つまり、そこでこのハゲに実力を見せられないと、俺は魔導士として活動出来ないって訳か)


「…分かった。 んじゃ3日後、よろしく頼む」


「うむ。 それまでに、傷を治しておくように」


「へいへーい」


それだけ聞くと、ゴリスは背筋を伸ばしながら歩いて行った。


3日後にゴリスに実力を見せ、その後は魔導士免許試験。


中々にハードなスケジュールだが、早く魔導士になれるに越した事はない。


「やるしかねぇか!」


「…お前さん」


「ん?なんだ婆さん」


「お前さん。 戦ったのは一度だけだろう? 魔導士としての戦い方、分かるのかい?」


「……あっ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

場面は変わり、ドラグレア王国、王城内地下牢。


地下牢には、セレナが囚われていた。

1人用の牢で、セレナは1人、本を読んでいた。


「セレナ」


「あ、ロイドお兄様」


そんなセレナの前に、鉄格子越しだが、ロイドが現れた。


「先程、赤羽虎太郎が目を覚ました」


「っ! 本当ですか!」


「あぁ。 お前の頼み通り、お前の死罪の事は隠した」


「ありがとうございます。お兄様」


セレナは、ロイドに深々と頭を下げる。


「…本当に良かったのだな」


「はい。 私の死罪の事と、私が死んだ事は、決して虎太郎君には言わないで下さい。

あの人に、罪悪感を与えたくないので」


セレナは、そう言って悲しそうに笑った。


「ふん…あの場であの男を殺していれば、お前は変異体デスト討伐という功績を手に入れられたと言うのに、馬鹿な妹よ」


「…すみません」


「…貴様の処刑日が決まり次第、また来る」


ロイドはそう言うと、ロイドは歩いて牢を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る