異世界出身の魔導士は、夢がない
皐月 遊
一章 魔導士認定試験編
第1話 「夢がない少年、魔導士になる」
2030年、10月30日。その日の夕方は、少し肌寒かったのを覚えている。
ーーーーーー
その日、赤羽虎太郎は、何事もなく普通に下校していた。
虎太郎は、どこにでもいるようなごく普通の黒髪の16歳高校1年生だ。成績は上の下くらい。
顔も特にイケメンというわけでもないがブサイクというほどではない。
身長は176センチとまあ平均的だろう。
運動神経はまあまあいい方だと思う。ただ、別に何かに秀でているというわけではない。
「…ただいま」
「おかえりお兄ちゃん! 」
出迎えてくれたのは、虎太郎の妹である赤羽美雨だ。中学3年生の15歳。身長は155cmで、髪は肩まで伸びた黒髪だ。目はくりっとしていてとても可愛いらしい顔をしている。とても明るくて優しい子だ。
「…今日も母さん達は仕事か?」
「うん!だから夕飯は私が作るからね!」
「おう。任せた」
虎太郎の両親は、2人とも働いている。
父は大きな病院で医者をやっていて、母はデザイナーだ。
かなり忙しい仕事な事もあり、帰りはいつも遅い。そのため、家事全般は美雨に任せっきりになっている。
「…さて…と」
自室に入り、虎太郎は机の上にとあるプリントを置く。
それは今日、学校で先生に突き返された、『進路希望調査』のプリントだ。
虎太郎には夢がない。やりたい事もない。だから、このプリントを埋める事が出来ないのだ。
それにそもそも、将来の目標とか目的とかが全くない。普通なら、何かしらの夢があるはずだ。
だが、虎太郎にはない。
何故だろうか?虎太郎自身もよく分からない。
今のままじゃダメなのは分かってる。
だが、どうしても思いつかないのだ。
自分の将来について真剣に考えたことがなかったからかもしれない。
だから虎太郎は、『未定』と書いて提出をした。
そしたら、担任に突き返されたという訳だ。
「お兄ちゃーん!お風呂沸いたから、先に入っちゃってー!」
考え事をしていると、下の階にいる美雨にそう言われた。今は午後6時45分。
(もうそんな時間なのか)
虎太郎は着替えを持ち、風呂場へ向かった。
制服を着替え、裸になって浴室へ入る。
……………人が入っていた。
虎太郎は咄嗟に扉を閉め、一度深呼吸をしてから、再度扉を開けた。
………やはり、人が入っていた。
日本人離れした金髪の綺麗な髪を持ち、虎太郎と年齢がそう変わらなそうな美少女は、日本では見ない類の服を着たまま、湯船に浸かっていた。
「誰だお前はあああ!!?」
虎太郎は、咄嗟に叫んだ。
だが、返事はない。
よく見ると、少女はピクリとも動いていなければ、顔や髪は汚れていた。
どうやら、気を失っているらしい。
「…おい!大丈夫か…?」
虎太郎は少女の肩を揺する。
「ん…んん…」
少女は意識が覚醒したらしく、ゆっくり目を開け、虎太郎を見た。
そして、視線がどんどん下がっていき…
(あっ…やべ…俺裸だ…)
と思った頃にはもう、少女の顔は真っ赤に染まっていた。
「き…きゃああああっ…!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ご、ごめんなさい…!私つい…!」
「…いや、俺も悪かったし、気にすんな」
虎太郎の頬には、真っ赤な手形がついていた。
虎太郎はすぐに着替え、改めて向かい合った。
まだこの少女が何者なのかは分からない。
美雨を不安にさせるわけにもいかないし、風呂場で話す方がいいだろう。
というのが虎太郎の考えだ。
「…まず、お前は誰だ。 なんで俺の家の風呂場にいた?」
「…私の名前は、セレナ・レクシオン。 魔導士です。貴方の家にいた理由は…たまたま…としか」
「たまたま…? 魔導士…?」
「はい…咄嗟に転移魔法を使った結果、座標の調整を失敗し、気がついたらこの場所に…」
「待て待て待て待て」
「はい?」
と、少女…セレナは可愛らしく首を傾げる。
どうやら虎太郎が何を疑問に思っているのか理解していないらしい。
「なんだ転移魔法って。 ふざけてんのか?」
「ふざけてなんか…! …私は正式に任務を受けて、この世界にやってきたんです!」
「へー任務ねー。 すごいすごい」
「絶対信じてませんよね…」
(さっきからなんなんだコイツは…?
転移魔法だのなんだのと…
まるで別の世界から来たかのような口ぶりじゃねぇか)
「お兄ちゃーん? さっきから1人で何喋ってるのー?」
「あっ…! 待て美雨! 開けちゃダメだ!」
妹の美雨が、風呂場で喋っている虎太郎に疑問を持ち、風呂場の扉を開けた。
そして、その瞬間、何かの叫び声が聞こえた。
明らかに人間の物ではない。
かと言って虎太郎が知る動物の声でもない。
耳に、頭に、脳に響き渡るような、叫び声。
そして、ドサッ…と、その場に美雨が倒れた。
どうやら気を失っているらしい。
「美雨…!? どうした美雨!!」
虎太郎は美雨に駆け寄るが、返事はない。
「おい!なんなんだよ今の叫び声…!?」
「…え、貴方、今の聞こえたんですか…? それに、何故あの威圧で気を失わずに立って…」
「質問に答えろ!! あの叫び声はなんなんだって聞いてるんだよ!!」
虎太郎が怒鳴ると、セレナは一瞬だけビクッとしたあと、口を開いた。
「デストと呼ばれる…化け物です。 その人が倒れたのは、デストの威圧のせいです」
「デスト…?」
「はい。 私がいた世界では、人間とデストが争いを繰り広げていました」
私がいた世界。
という言葉に虎太郎は疑問を抱いたが、今はそんな事を聞いている場合ではない。
「…なら、なんでそのデストって奴がこっちにいるんだよ」
「デストは、空間を移動出来るんです。 こうして別の世界にデストが現れ、その度に、私達魔導士が討伐しています」
つまり、セレナはこの世界でデストと戦っていたが、怪我をして転移魔法で逃げてきた。
だが、転移魔法を間違え、虎太郎の家へと転移した。
というわけだろう。
「…本当にごめんなさい。 今すぐにここを出ます」
セレナは深く頭を下げたあと、風呂場を出て行こうとした。
だが、虎太郎はセレナの手を掴んだ。
「1人で行く気か? 危険すぎるだろ」
「…ですが、私が行かないと、デストは無差別に人を襲うんです。 デストは既に私を見つけています。 ずっとここに居たら、デストはここにきてしまうんです」
「な、何か手はないのか?」
「あったらとっくにやってます」
「だよな…」
セレナを1人で行かせるのは危険だ。
かと言って、この場所にとどまれば、美雨が危険だ。
虎太郎は、深く深呼吸をする。
「…分かった。 俺も連れてけ」
「なっ…! 何を言ってるんですか! 危険すぎます!」
「それはお前もそうだろ。 それに、1人よりは2人の方が、倒せる確率は上がるだろ」
「ですが…」
「俺の事は、囮にでもなんでも使えばいい」
「な、なんで貴方がそんな危険を…?」
「だって、アイツを放っとくと、妹や他の人達が危ないんだろ? なら、助けなきゃダメだろ。
それに、兄として許せない」
虎太郎の真っ直ぐな瞳に、セレナは唾を飲む。
虎太郎だって、自身の命が危ないのは分かっている。
だが、それよりも今は、デストを止めなければいけないと言う思いの方が強い。
「…分かりました。 ただ、絶対に危険な行動はしないと約束して下さい。 私がどうなっても、決してデストには立ち向かわない事」
「了解」
(そんなに危険な奴なのか…)
と虎太郎は考える。
そしてその後、虎太郎とセレナは風呂場から出た。
セレナは髪をタオルで拭くと、何やら魔法のような物を使い、服を一瞬で乾かした。
「…便利なもんだな」
「私は風の魔法を得意としているので、服を乾かすくらいなら簡単です」
「家電要らずだな」
「かでん…?」
「あぁいやすまん。 忘れてくれ」
別の世界のセレナが家電の事を知っているわけがなかった。
「美雨。 ちょっと出かけてくる」
虎太郎は、気絶している美雨をリビングのソファに寝かせ、頭を撫でる。
このままこの場にいたら、美雨が危ない。
早めに出た方がいいだろう。
虎太郎は急いで準備し、セレナと共に外へ出た。
外に出た瞬間、虎太郎は目を見開いた。
空気が重いのだ。
空気がピリピリしており、常に緊張感がある。
「…なんだよこれ」
「デストが近くにいる証拠です。 慣れていない人には辛いでしょう」
「あぁ…今にも倒れそうだ」
「…やっぱり、家に戻っていた方が…」
「却下だ。 それに、お前この辺詳しくないだろ? 人が居ない場所に行くぞ」
先程この世界に来たばかりのセレナより、虎太郎の方がこのあたりに詳しいのは当たり前のことだ。
それに、あのデストはセレナを狙っている。
ならば、住宅街にいるのは危険だ。
虎太郎は、セレナと共に走り出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、ここなら大丈夫だろ」
家から走って数十分。
虎太郎達は、廃工場の中にいた。
建物は使われていないからか、窓ガラスは割れ、壁には落書きがしてある。
「確かに、ここなら誰かを巻き込む心配もないですね。 それに…」
「それに?」
「デストも、もう近いです」
その瞬間、先程よりも空気が重くなった。
心臓の鼓動が速くなり、冷や汗が出てくる。
「…なる…ほど」
虎太郎は、先程から冷や汗が止まらない。
そして、それはセレナにはバレている。
セレナは、優しい手で虎太郎の頬に触れる。
「大丈夫です。 貴方は私が絶対に守りますから。
それに、デストが人を襲う優先順位は魔導士が1番です。 私が倒れない限り、貴方は無事ですから」
セレナは、虎太郎に優しく微笑む。
その笑顔を見た瞬間、虎太郎の恐怖は少しだけ和らいだ。
そして、虎太郎の背後に、ドスンッ!という音が聞こえた。
(…いる)
後ろに、デストがいる。
先程の威圧感の正体が、今、後ろにいる。
虎太郎は深呼吸をした後、思い切り振り返った。
「っ!?」
虎太郎の目の前には、化け物がいた。
目が四つあり、白い角と、黒い鱗が全身を覆っている。
さらに、顔は細長く、口は裂けている。
全長は4m程と言った所か。
話が通じるような相手には見えない。
顔はシカに似ているが、二本足で立っている。
「カッ…ケケ…ケッ」
デストは、セレナを見てニヤリと笑った。
セレナは、虎太郎を守るように前に出る。
セレナは、右手を上にあげる。
「行くよ、
その瞬間、セレナの周りを緑の風が囲んだ。
「今度こそ…貴方を倒します…!」
風がセレナの右手に纏わり付き、その風が消えると、セレナの右手には、白い刀が出現していた。
そして、その刀には薄く緑の風を纏わせていた。
「はあぁっ!」
セレナは、デストに向かって刀を思い切り振り下ろした。
だが、デストは嘲笑うかのようにセレナの攻撃を躱した。
その後も何度もセレナは攻撃をしたが、デストに攻撃が当たる事はなかった。
そして…
「オオオオオオオ」
「くっ…!」
デストが叫び声を上げながら、セレナを蹴り上げた。
セレナはそのまま地面に落ち、身動きが取れなくなる。
「くっ…! うぅ…!」
「お、おい魔導士!!」
動けないセレナを、デストが踏みつける。
そして、デストは大きく口を開ける。
まるでセレナを捕食しようとしているみたいだ。
「っ! くっ…そおお!!」
虎太郎は、近くに置いていた鉄パイプを拾い、デストに向かって走り出した。
「魔導士を離せ!!」
思い切り鉄パイプを振るう。
だが、鉄パイプはデストの腕に当たり、鉄パイプは折れた。
虎太郎は本気で殴った。
だが、鉄パイプの方が折れてしまったのだ。
「危ない…! 逃げっ…!」
「え…」
セレナの声が聞こえた時には、もう遅かった。
虎太郎はデストに殴られ、工場の壁に激突した。
口からは血が出て、虎太郎はその場に倒れる。
虎太郎の意識が朦朧とする。
(…俺は、ここで死ぬのか…? 訳が分からない化け物に殺されるのが、俺の最後か…)
遠くで、デストがまた叫んでいる。
(アイツは、あのままだと魔導士を殺すだろうな…そんでその後は…その…後は…)
虎太郎は、最悪な事を予想する。
それは、デストが無差別に暴れ回る事。
そうなれば、妹や、両親、学校の皆が危ない。
「ダメです…!立ち上がらないで…!」
セレナの静止を無視して、虎太郎は立ち上がる。
(ここで俺が死んだら、誰が美雨を守るんだ。 俺が…俺がやらなきゃ…)
「う…おおおおっ!!」
明らかに骨は折れている。
意識だって朦朧としているし、頭は痛い。
だが、やらなきゃいけない。
虎太郎は、折れた鉄パイプを拾い、デストの元へ走った。
「オオオオオオッ‼︎」
「っ!!」
デストは右手を振り下ろしてくる。
虎太郎はデストの予備動作から予測し、右に飛んで回避をした。
予測したにも関わらず、デストの攻撃が早すぎて当たりそうになったが、なんとか避ける事はできた。
そのまま虎太郎はデストの背後に周り…
「くらえええ!!」
デストの背中に折れた鉄パイプの尖った部分を突き刺した。
その瞬間、デストは雄叫びをあげ、バランスを崩した。
「…今だ魔導士…!! 」
「無茶はしない約束だったのに…!!」
デストがバランスを崩した事により、セレナを踏みつけていた足が外れた。
その瞬間、セレナは素早く立ち上がり、デストの胸の高さまでジャンプし、デストの胸に手を当てる。
「
凄まじい威力の風がデストの胸を貫き、そのままデストを遠くへ飛ばした。
「…終わった…のか?」
「はい。 あれを耐えられるデストは少ないですからね…というか」
セレナは、虎太郎にジトーッとした視線を向ける。
「なぜあんな無茶をしたんですか」
「仕方ないだろ。 あぁしないと勝てなかったんだから」
「それはそうですが…もっと…っ!?」
突然。
そう、突然だった。
虎太郎とセレナは、同時にデストに突き飛ばされたのだ。
2人で壁に激突し、地面に倒れる。
「な、何で…あいつ…!」
「そ、そんな…! まさか、変異体…!?」
セレナの焦りようから見て、尋常じゃない出来事が起きているのは理解できる。
デストは、先程とは姿が変わり、刺々しい見た目になっている。
「くっ…そ…! おい魔導士、ここは一旦引くぞ…!」
「そうしたいのは…山々ですが…! すみません、無理そうです」
突き飛ばされる際、セレナは寸前で虎太郎を庇った。
そのせいで虎太郎よりもダメージが上なのだ。
かろうじて動ける虎太郎に対して、セレナはもう動けない。
「…貴方だけでも…逃げて下さい…!」
「ふざけんな…! んな事できる訳ないだろ!」
デストは、ニヤニヤした笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてくる。
「何か…何かないのか…!?」
虎太郎は、周りを見渡す。
だが、デストに対抗出来そうな物は、何一つない。
「くそっ…! このままじゃ、皆殺されちまうってのに…!」
「…一つだけ…あります」
セレナが、小さな声で言った。
「…貴方が、魔導士になるんです」
「…は…?俺が魔導士…?」
「魔導士は…弟子になる人間に自分の魔力を少し与える事によって、自分の力を後世にまで残します。
その法則を利用すれば…なんとか」
「待て待て…! 俺魔法なんか…!」
「普通の人間は、デストの存在を見る事すら出来ません。 なのに貴方は、訓練もなしにデストの存在を感知した…!」
セレナは、真っ直ぐ虎太郎を見る。
虎太郎は、デストとセレナを交互に見る。
「…俺が魔導士になれば、アイツを倒せるのか?」
「…可能性は0では無くなります。 そもそも、貴方に魔導士としての才能が無ければ、何も起こりません」
「……分かった。 俺に、戦う力をくれ。魔導士…!!」
セレナは、虎太郎の右手に触れた。
その瞬間、凄まじい光が周りを包み込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「オオオオオオッ…!!」
「…よぉ。 待たせたな、化け物」
「オオオオオオ」
「新人魔導士、赤羽虎太郎だ!!」
虎太郎の姿は、先程とは全く違う物になっていた。
上下スウェットだった服は、黒に赤いラインが入った外套と黒いズボンに変わり、右手には、黒い刀を持っている。
(嘘…少しだけ魔力を渡すつもりだったのに、8割も魔力を持っていかれた…!?)
虎太郎の背中を見ていたセレナが目を見開く。
(しかも、いきなり装束まで変わるなんて…あの人一体…)
セレナが疑問に思っている中で、虎太郎はデストに笑みを向けていた。
(なんだこれ…! 力がどんどん湧いてくる。 何をすれば良いのかがわかる…!)
虎太郎は、地面を蹴った。
すると、虎太郎は凄まじい速度でデストとの距離を詰めた。
「加減は出来ねぇぞ!!!」
虎太郎は、黒い刀に炎を纏わせ、そのまま下から上へ切り上げた。
すると、炎の斬撃となって炎は天高く突き上がり、デストを燃やし尽くした。
デストは、跡形もなく消えていった。
「終わったぞ。魔導…し…」
セレナの方を振り返ると、突然虎太郎の服装がスウェットに戻り、虎太郎は意識を失った。
「虎太郎さん…!」
セレナは、倒れた虎太郎の元へゆっくり向かう。
幸い死んではいなかったが、2人ともすぐに治療が必要なのは間違いはない。
「良かった、生きてた…そうだ、すぐに治療を…!」
その瞬間、セレナの周りに黒いローブの人間が複数人現れた。
「あ、貴方達は…!?」
「ドラグレア王国魔導士団だ」
ローブの人間の1人が言うと、セレナは目を見開いた。
「た、助かりました! 今すぐにこの人を治療して下さい! 凄い怪我なんです…! ただの人間なのに必死に戦ってくれて…!」
「許可出来ない」
「え…」
「我々がこの場に来た理由は、治療の為ではない。 隊長、後はお願いします」
「っ!」
隊長。という言葉を聞いた瞬間、セレナは震え上がった。
ローブの人間達は、道を開ける。
すると、その場に1人の男が現れた。
「ロ…ロイドお兄様…」
「…セレナ。 此度の変異体デストの討伐。 良くやった」
ロイドと呼ばれた人物は、セレナと同じ金髪で、性格が硬そうな顔をしている。
年は20は超えているだろう。
「い、いえ…!討伐したのは私ではなく…!」
「それが問題なのだ。 愚妹が」
「っ…!」
「他者への魔力の譲渡は、自分が育てた弟子のみという法律だ。
でなければ、世界は教養のない魔導士だらけになってしまう」
「…はい」
「討伐の為とは言え、それも魔法という概念の無い異世界の人間に魔力を譲渡するとは」
ロイドは、そう言って虎太郎の背中に足を乗せた。
「この男はもう、この世界には置いてはおけぬ。 この男は、この世界の理に反してしまっている」
「…っ」
「かと言って、我々の世界に連れ帰る訳にもいかぬ。
この男は余所者。 部外者を我々の世界に招く理由はない」
「で、では彼はどうなるのですか…?」
「無論…」
ロイドは、刀を取り出す。
「ここで殺す」
ロイドは、刀の鋒を虎太郎の首に当てた。
「や、やめて下さい…!!!」
「…なぜ止める。 この場で我を止めると言う事は、自分の罪を重ねる事と同じだぞ」
「私の罪は、いくら増えても構いません…! ただ、その人を殺すのはやめてください!」
「…ガキのようなワガママを言う。 ならば、お前の命を差し出せ。
お前が死罪になると言うならば、この男の命は助けよう。 我々の世界で治療も施そう」
「っ!」
「どうだ。 貴様に見ず知らずの男の為にに命を差し出す覚悟が…」
「分かりました。 その人が助かるならば、私は死罪になっても構いません」
「……」
ロイドとセレナは、無言で見つめ合う。
「…よかろう。 この愚妹を捕縛しろ」
セレナは、ローブの人間達に手を縛られた。
「…虎太郎さん。 貴方の人生をめちゃくちゃにしてしまってごめんなさい。
なので命だけは、なんとしても守りますから」
そう言って、セレナは気を失っている虎太郎に微笑んだ。
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