異世界転生してバニー騎士団に入団した金バニーガールは強かった。

arm1475

第1話 異世界一不幸なゴールドバニーガール

「そういうわけでアンタは死んじゃったのよ」

「何がそういうわけなのよ」


 宇佐美うさみいのりは、果てが見えない真っ白な広い空間の中、目の前でボージングしているマッチョなオネェ(自称転生の女神)を睨んだ。


「アンタ覚えていないの?」

「なにが」


 不思議そうに聞くオネェ神をいのりは苛立つ。


「んー、その格好気づいていない?」

「格好?」


 オネェ神に指されていのりは自分の身なりを確かめる。

 ほどよい透け感ですらっと伸びた健康的な肌が見える30デニールの黒茶タイツに金色のバニースーツ、ちょっとウェーブ掛かった長い黒髪に乗った黒耳が付いたカチューシャ。お尻の白い毛玉の尻尾はチャームポイント、実にマニアックなスタイルである。


「コレのどこが?」

「…………」


 困惑するオネェ神を睨み付けるいのりだったが、暫くしてようやく自分の異常に気づく。


「なんで金色ぉっ!?」

「そっちかいいいいっっ!!」

「ちーがーうー」


 いのりは赤面して豊満な谷間が丸見えな胸と際どい角度の股間を手で隠しながらその場にしゃがみ込んだ。


「やだやだやだ変態変態変態!!なんであたしバニーガールの格好してるのよ!!」

「やっぱり覚えてない」

「……へ」


 やれやれというオネェ神のボヤキに動揺していたいのりが気づいた。


「アンタ元の世界では風俗の仕事してて、その衣装は死んだ当時の格好」

「死んだ当時……ぃ?」

「その格好でトラックにはねられて死んじゃった」

「ええ……」


 いのりは頭を抱え必死に思い出そうとする。やがて頭のウサ耳がピンと張り、


「……あ。店の前で客引きしてて、道路に飛び出したJK助けようとしたら……」

「やっとお約束のトラック転生思い出したのね」

「はあああああああああああ」


 突然いのりは深いため息を漏らす。


「あたしの最後こんな格好? 死んだお爺ちゃんとあの世で会ったらどう言い訳すれば……」

「えーと」


 オネェ神は抱えていた愛用の神PADを起動させていのりのプロフィールを確認する。


「名前、宇佐美いのり、23歳。職業バニーガール」

「職業はフリーターでいいわよ……高校も中退だし……」

「あー、良くある悪い男に引っかかっちゃたって奴かしらね。ヒモ男のパチ代稼ぐために風俗嬢にまで身をやつしたとか」

「あいつとはとうに別れたわよ。あいつの借金の保証人になっちゃっていたから借金返済のために仕方なく。――あーでも死んじゃったんだからもう借金のこと考えなくていいかぁ」


 そういうといのりはケラケラ笑いながら右手を背中に回しバニースーツを脱ぎ出そうとする。

 それを見てオネェ神は慌てて脱ぐことを止めさせた。


「アンタ、オネエみたいだから女の裸なんかに興味ないんでしょ、こんな借金返済のために仕方なく着ていた悪趣味な衣装いつまでも着たくないし。あ、変わりの服みたいなのは無い?」

「替えの服なんて無いわよ、ソレがアンタの今の全財産。それに、脱いじゃダメ!」

「ご指名ぇ? 何処の社長よ、脂ギッシュな薄汚いおっさん?」

「あたしもオネェだけどここはピンサロじゃないわよ」


 心底嫌そうな顔をするいのりをなだめるようにオネェ神はちょっと不気味に精一杯の笑みで顔のシワを歪めた。


「アンタはこれから転生するの。分かる? 転生?」

「転生……なんか深夜に帰宅してTV付けるとそんなタイトルが付くアニメが放送されていたわね」

「だいたい分かってりゃ充分よ。言語、文化など現地の人間との交流に必要な情報は転生処理の時にインストール済みだから。それにだから心配なんて無いわね」

「面白いぃ?」


 心なしかバニースーツの白い尻尾が揺れる。


「さっきから何なのよ一体コレ。死んだなら仕方ないから早くあの世に」

「アンタが行くのはあの世じゃない。異世界――ソレもな異世界」

「はい?――ええっ?!」


 困惑するいのりの身体が光の粒子に包まれる。


「転送が始まった。じゃあ、後はよろしくね、

「はああ?」


 オネェ神が妙なワードを口にしたのでいのりは問いただそうとするが次の瞬間完全に周囲の光に飲まれてどこかへ飛ばされてしまった。


□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□


 限りなく拡がる青い空、その下の平原では屈強な男たちが剣や槍を振りかざして、巨大な飛竜と闘っていた。

 比較的同じ種の中でも巨大の部類に相当するその飛竜は男たちの攻撃を受け付けていないようで、男たちの中には焦りが見える者も居た。


「くそ、このままでは……なんだ?」


 突然上空から轟音とともに金色の光が落ちてきた。

 それは飛竜の弱点である首の付け根で特に弱い延髄を直撃する。一瞬のことで不意を突かれた形となり、飛竜はそのまま絶命した。


「空から攻撃……創世神様の援護か」

「……あ痛たたたた……いきなり飛ばしやがってあのオネェ……へ」


 いのりは絶命した飛竜の背中に鎮座して辺りを見回した。


「ここが異世界なのか……ええ……」


 いのりは、はからずも斃してしまった飛竜を包囲して闘っていた男たちと目を合わせる。

 突然のコトに驚いて絶句している男たちは皆、屈強なボディでバニーガールのコスプレをして剣や刀を握りしめていた。


「へ――変態だああああああああああああああああああああああ」


 まだいのりはこの時、彼らがこの世界の創造神であるバニーガールの女神の祝福を受けた人類最強の武装集団「バニー騎士団ナイツ」の主力メンバーだと知る由も無く。



                        続く

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